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僕のまがいの誕生日ケーキたち






      四歳




 たんじょう日というのは、おんどのたかいだれかがぼくに、ケーキをおくってくれる日なんだと、おかあさんがおしえてくれる。そして、おかあさんは、にわのみえるまどのほうを指さす。ぼくのケーキは、かだんの土のうえにすわり、風にふかれながらこっちをみてる。





      七歳




 ぼくのケーキが道を走っているとぼくの妹の顎骨と衝突し、入院したと聞かされる。






      八歳




 僕のケーキが道を歩いていると僕の弟の友人の顎骨と衝突し、入院したと聞かされる。






      十二歳




 その夜、親戚の緊急の集まりがあって僕らは子供だけでボウリング場にいる。引率は大学生のゴウくん。明日も学校がある日の晩だというのに、中華料理屋を出たあとでボウリング場に自分たちが入っているという事実に、みんなのテンションは天井知らずだ。一人座ったままで、僕はゴウくんにまとわりついている連中を眺めていた。すると第三レーンに新たに並んだピンの向こうに、一瞬ロウソクの火が見えた気がする。そりゃ、単にまぼろしだったのだろうとは思う。だからこそ期待してしまった自分に僕は驚く。どこに行けば僕の誕生日ケーキは生きていて、眠ったり体を鍛えたりしているんだろうかと、そんなことを考えるのも、夜いるべき場所でない場所にいるからこそだ。






      十五歳




 身の丈に合ってない大学付属の高校に行くため机にかじりついたままでノイローゼぎみの僕を心配した妹たちが、初めてバースデイ・ケーキを買ってきてくれる。思いがけず目にする馬鹿にでかいケーキの意外性というのはすごい。加えてそれは、僕が夢見た完璧なケーキなのだ。思わず、三人ともが数年ぶりに笑顔を浮かべてしまう。調達係である弟は、しかしなぜかしらケーキ屋の名前を吐こうとしない。その時点で、僕と妹は嫌な予感がしていたのだが、案の定今年の僕のケーキはいきなり目の前で震えだす。弟が人口呼吸し、心臓マッサージを施すも、息を吹き返すことなくケーキは、最期、すさまじい爆発音とともにこの世を去る。返り血を浴びた僕と妹は、順番に風呂に入った。弟は、なんだかよく分からなかったものの死骸と一緒に姿が見えなくなっていた。






      十六歳




 あわれみから発生するバースデイ・ケーキには価値を見いだせない。よき友、よき生徒、よき先輩であろうとしてきた。仮面をつけた優等生。そうやってずっと間違い続けてきた。別に外観がどうのこうのといったことには、来年、僕はもう拘らない。素敵なケーキの匂いを求めて目線をさ迷わせたりもしない。白くて、大きなやつ。僕はもうそんなこと二度と、二度と望まない。何だっていいやとさえ思っているべきなのだ。贈り物というのはそういうものだ。受けとるのは物じゃなく、相手の気持ちだ。誰かに何かを、それも完璧な形で望むことは今年でやめだ。来年、僕は目を閉じて心の目で見てみよう。ぶりの照り焼きだって、僕の心の持ち方しだいできっと素晴らしいバースデイ・ケーキに見えてくるだろう。






      十七歳




 見えなかった。






      十八歳




 毎年、誕生日が近づいてくるにつれ胸が張り裂けるように苦しくなるので一人旅が趣味になり今年は温泉地へ。新幹線の車内販売がくるたびに、僕は金縛りに遭う。息を殺して縮こまっていると、ヒラリ紙が落ちてくる。僕のケーキが人質にとられている。犯人の電話番号がそこには並んでいて、指定された廃墟に出向くと、寒いなか下着姿の女性が二人。僕は剥かれる。僕は逆さ釣りにされる。そうしてそんな格好になって撮られている僕をネットで観たといって同じ高校の男子生徒たちは僕に向かって、口々におめでとうといってくれる。結局、誰も僕の誕生日ケーキを返してはくれなかった。今年のように下の口からではなく、僕は上の口がよかった。それとも、こんなにも自分のケーキを求める感情を持っていること自体、僕には相応しくないことなのだろうか? 身長百九十オーバーの男には?






      十九歳




 ルームシェアの相手の、占いが得意な男の、その血で汚れた午前五時の部屋。だって、欲しい答えを僕にくれない。だって、少し笑みを浮かべてしまうみたいな答えなんて僕はいらない。

 雪が降り出した。

 上を向く男の顔で雪が融ける。ごめんね、こんな場所で君の物語が終わるんだね、ごめん、と僕は雪に謝る。待つことに疲れはてた僕がいる。何より苦しいのは、機会を逃せば一年間、また待たなければいけないこと。空っぽの体をひきずり歩いていて見つけたのは、ごみ置き場の小さなテレビに感染した冬の映像。僕は、僕にとっての正解がくるのを待ちくたびれた。回収車に乗って二人組の男がやってきて、バースデイ・ケーキがもはや映ることはないけれど昔は映していたに違いない彼を、僕のいる場所から持ち去っていく。支えを失って、僕の口から初めてバースデイ・ソングが流れ出す。こういう時には蝋燭がいる。僕は右手で足の指を全て引っこ抜く。それから今度はゆっくりと左手から指を五本とる、歌いながら。最後に僕は歌いながら、右手からも四本、指と仲の良い歯で噛み千切る。それらを雪の上にそうっと立てた。こういう時には火がいる。自分に従ってくれそうな火は目の中にしかない。これでもう、ずっと僕はみんなに歌ってほしかったのだけれど、諦める他なくなった。僕は小指に後のことを頼み、呼吸の仕方を忘れることで、次の遊びを始める。

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