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草案少年たち






 男子高校生は駅のホームで謝る。

「色褪せたね、ごめんよ」

 自動改札が一つあるだけの小さな駅、物音ひとつない市役所前、月明かりと一人ぼっちの男子高校生。





      ◆◆◆





 君のために水分補給したくない。

 帰宅部であり、同時に、水分補給部。水瓶座の僕は、ふらふらするしかない。

 だって、日本学校保健会のすいせんのこれって片側おもい。


 お客様相談室に連絡をしたら、あんまり優しくない声(だがしかし君よりは穏当な感じを受けました、声を聴かせてくれるよ)。


 並みの涙だぜ、いつだって涙は並み。

 いつだって、他の誰かのために水分補給する。

 おもしろがり君が呼びつけるんで、僕には自転車しかなくて、いつか観たことある青春映画のよう。ミッドナイト自転車ミッドナイト自転車、恋は眼球運動でつまるところ大のほうの運動会で、なるべく早くやるだけ。なるべく早くお飲みください。

 なるべく早くお飲みっく。

 なる早おっ。

 いっだっ。

 おんのみぃぃぃぃぃいっ。

 ななななななななななななななななななななななななのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみのみ。みくだっしくみくくっ季節は鋭さを増していく。





 帰宅部男子にポカリは毒。

 ミネラルとは、ナトリウム、カリウムのこと。

 いつまでこのままなのか分からないけど、僕の選ぶのはいつもペコらくボトル。

 選べるのならせめて僕は、ペコらくボトル。





      ◆◆◆





 この世に存在するものの中で唯一意味を持つのは彼女の最新ダイアリー。夜空を汚すそいつをジャンピングキャッチすることだけに長けてるんだ、僕らは。





      ◆◆◆






 一人の高校生が秋の姿を目で捜す。秋がはっきりと視認できた。秋と出会った頃から秋の姿は全く成長が見られない為にこの文を何度も何度も頭の中で眺め、何度も何度も身悶えすることになった。秋、がはっきりと、視認、でき、るというこの件についていえることはひとつだけ、それは自分が秋が見えていいタイプの人間でないこと。それなのにだ、目で探し続ける。年々、秋が見える自分がつらいという思いと、年々、秋が自分の前に姿を見せるのが遅いのとで、この時期、勉学にも趣味にも身が入らないでいる。それでも秋になれば彼は秋を捜すし痛々しい、と胸のうちでいいはするがこの行動は矛盾しない。矛盾しているのは自分を遠くから見ている秋のほうだ。隠れて出てこない、不変の少年の姿でいる自分を彼に見せることを嫌って。彼が彼の秋と出会ったのは、小学二年生の秋の時。秋とはすぐに友達になった。昔と変わらない秋。同じ年頃の友達同士でいられたことがとても懐かしく感じられるのは本当のことだけれども、いま男子高校生は考える。本当のところおれはどう感じてる? 確かに変わった。でも変わらない。





      ◆◆◆





 弟のことが彼には近所に建っている図書館か何かに見えるのか時おり少年のなかに入っていく。そこには閲覧禁止の資料ばかりが集められている。そこは暑い。そこに行けるのは少年に選ばれた人たちだけだし用があるはずもないのだが彼もまだ若い。兄の剣幕に押されてしまう。すっかり組伏せられ侵犯され涙目になって彼の涙声が館内に響く。外からの何かが枯れて独りで落ちた音。なぜこれらの物語は書かれたのかを少し声が優しくなっている時の少年の兄は訊ねてくる。早く閉館時間になればいいあるいは兄が眠ってしまいさえすればと彼は思いそうやって彼は建っている。このようにして少年は建っている。説明を求められてまた涙声になりつつ壊されたくないと思って建っている。彼はじぶんのことを頑丈だと思いたい。じぶんは続けていけると思いたい。今ここが狭いだけでいつかはきっと震えというものとはおさらばしこの両足でどこかに行けると彼は思いたい。だが弟の場所というものはいつだって兄にレイプされるものだったし彼の涙が下に真っすぐに落ちれば彼の失くした言葉が彼の一部分まで一緒に持っていってしまう。

 ここの空調設備はいつまでも意気地がない。兄の持ってきた匂いが充満してもう彼は黙っているしかない。





      ◆◆◆





 互いに信頼を陰干ししていることを話し合いたい、だが大学受験を目前にしている彼は誰のことも、たとえ相手が彼女であっても以前までの抱きしめ方で抱きしめてやることができなくなる時期にきていたし、そもそも現在の自分の状態が受験勉強に集中していることからきているのかどうなのかすら彼には判然としていなかったし、それに加えて彼じしんが今自分がどんな状態にあるのかはっきり認識することを実は避けてもいたし、それに加えて彼女のほうでも以前までなら指の隙間からしか見れなかったようなものを抱くことができるようになってもきていて今まで見たことのなかった彼女を見ているうち彼は旅びとが抱くような旅を抱きたくなってきた、彼が思うことはたった一つ、オレは旅がしたい、大人じゃない強くもない彼は今、旅びとが抱くように旅を抱きたい、彼は今旅がしたい。





      ◆◆◆





 冬のいいところを探すのは難しいと、彼女は俺にいう。

 そんな彼女のいいところを探すのは難しいと、俺は冷めた風呂にいう。

 そんな俺を好ましく感じるような床を探すのは難しいと、冷めた湯は大声で全てのドアにいった。

 どのドアも、無言のまま。





      ◆◆◆





 けっして、錆びつくためにではなく雨のうんどうグラウンドにずっと立っている運動部員たちを見おろしながら、いい忘れたって構わないんだから、と僕は自分をねじふせて、だから考えよう、と僕は強く目をつむって、図書室の隅で一人、こんな僕の靴裏じゃ雨の日の運動部員の靴裏とは全く勝負にもならないし、ゆっくりかむのよって言葉しか辺りには見当たらなかった。





      ◆◆◆





 最終的にどんな禁じ手を用いてでも、彼が知り合ったすべての女子生徒の白い小さな手に石斧を握らせようとするのは、確認のため。





      ◆◆◆





 夜そのものを見たかった、そんな少年の季節忘れて、枕をふとんにして、頭を両目にのせて、夜を吸いこんで夜を吐いて、男子中学生の弟の鼾の上で仰向けになって、飢餓を抱き枕にして、眠れない夜の色、眠れない夜の色々、それらが眠れないような夜の色を更にさらに濃くして、それからそれなりに数えたくないと思う者を数えよう、眠るべきではない人を思って、夜を、夜そのものにする夜があるなら来い、今来い、その声、蓄えて、蓄えて、オレだって眠れるんだって、思い出せるはず。





      ◆◆◆





 向うが勝手に舟に乗ってきたのだ、こっちは表情だって隠していた、不審を生むような嘘の可能性のあるような言葉だって使わなかったし口からどんな類いの音も、例えば遠目にした時に何かしら伝えたがっているふうに取られる、そんな動きに万が一にでも見えたりしないよう、おれは体の向きを明後日の方角にしていて、彼はただぼんやりとしている、という様子にもっていっていて、つまるところ、削って、削って、最大限に努力をして、やるべきことだと思うことをやって、他人から同情を買うようなことと見なされるあらゆる振る舞いを、声の表情を、自分を殺したのだ、大人ぶって、そして実際、おれはそういうこと全部をちゃんとやったのだと、自分としてはそう思っていたくて、だからそういうことをやった。



 だから、それは一瞬のできごとだった。

 彼はこっちの舟にとびうつってきた。

 これは本当にあり得ないことだった、それが危険を伴うことだからというよりは単純に益のないことだから。



 ここは海の上、そしてこれはどうにかこうにか浮いている類いの代物で搭乗している者としてもちょっと不安になるような類いの舟だ。もちろん彼が来た時、大いに揺れた。

 おれは舟の縁につかまり、大揺れに揺れる視界を初めて味わい、おれは縁にぎゅっとつかまる。



 本当はすごく心細かった。



 少しして彼の笑い声が、すぐ真上からと思えるようなところ、とても近くから聞こえてきた。

 あの教室にいた一年間もそうだったように、彼の笑い声にだけは自分の中にある何かがいつも反応してしまう。あまり何度も反応しすぎてしまい、何かしらそういう機能がおれの体には備わって、そこがカチリと働く音がして、そして、そういう音というのは、ある種の男子生徒には耳にすることができる音なのかもしれなくて、もしかするとクラスに一人や二人はそういうタイプがいて、もしかすると彼がそうだったのかもしれない、とおれは思う。



 見透かされていたのかもしれない、ずっと前からそうだったのかもしれない、こちらがイメージを持っていたのと同じくらいにとはいわないが、少しはイメージを向うも持っていた、彼なりの計画があった、それがこれなのかどうかは分からないが、しかも、もしかするとだが、彼としてはそこまで意識した上でやっているようなことではないのかもしれない、結構馬鹿な部分もある男だから、とおれは思う。

 おれはまだ顔を上げられない。腰を抜かしているみたいなポーズ、揺れに怯えている人にしか選べないポーズのままでいる。でも、ただ、おれはただ言葉が見つからないでいるだけだ。おれはまだ顔を上げられない。でもこれだけはおれも承知している。

 彼は優しい人間だった。



 認めたくないくらいに、彼には優しい部分が備わっている。つまり彼はそれを選んだ、これはそれだけのことなのだという可能性。

 彼はいつだって選べる、とても素早く選べて、誰かが何かを選ぶ姿がこんなにきれいなものに見えるだなんていうことをおれは彼と知り合うまでぜんぜん知らなかったしできることなら知りたくなんてなかった。



 彼はジャンプして舟にうつってきた。

 そのつもりはないんだろうけど、いつもと同じで今回もまた彼はおれに、その飛距離を見せつける。

 おれは顔を上げることができない。

 彼のほうも、すぐ側まで近寄ってきていても声をかけることができない。

 これでまた、新しく始めなくてはならないということ。これでまた、どんなに雑でも何か食えるものを作らなくてはいけないということ。これでまた、一人じゃなくなったということ。それらはおれにとって認めたくないほどのものだったけど、ここはすごく静かな場所で、絶対に逃げることもできなくてそして、おれと同じ目線になるように、彼は屈んできて、二人の目が合う。もう駄目だ、計画は駄目になったのだ、とおれは認める。今まで思い描いていたものは何もかも、もう駄目になったのだ、とおれは認める。おれは認めるしかない。今ここにある全部、今ここにあると。





      ◆◆◆





 夏服女子が息を切らせつつ彼のところまでやって来るのでもうすでに彼の胸は破裂寸前、そしてようやく息を整え終わると彼女は彼に向かっていった、「悲しいお知らせですあなたにお伝えすることがありません!」。





      ◆◆◆





 強い憧れ、弱い憧れ、何でもいい、オレってチキン、どうせ完成させる気もないパズルをやりだしてるんだ、だってこの弁論大会は嫌だ、やめたいなと思っても、オレがオレのためのパズルを完成させる意味なんてしらないから、だるいから、目を上げてみれば、誰もが自分の影よりも憧れを先に崖に押し出しては、つまらない昼食を破棄するみたく捨ててる、ごく簡単に、憧れを、ためらいはない、突き落としている、ただ耳を塞ぐこと、目を閉じること、これってなんていい方法なんだろう、オレは耳を塞ごう。





      ◆◆◆





 僕はまだサナギさんが卒業したことを知らないまま、濡れた両手のままで、歩く。





      ◆◆◆





 あなたはおれを誤解している。

 誤解して、曲解して、おれの古い教科書まで折り曲げてみせる。

 一段落下げて、誤解して、先が見えているかのように振る舞う。

 そんな振る舞いは、自分の物語を折り曲げられた過去に原因があった。

 結局もう、あなたには誤解することしかできなくなってきているのかもしれない。

 必死に拾い集めるように知っていくものなら色褪せるからね、あなたがどの階にいまいるのかも分からない。

 それは何かを証明しているという感覚で、おれはそろそろ思い込みそうだ。

 あなたはおれのことを誤解し、外に出ていく。

 あなたは誤解したままでここに戻ってくる、ここに。

 手ぶらには見えない、あなたは見ては間違え、ただ聞いているだけでもいいことでも間違える。

 あなたはおれを誤解することしかできない。

 ほんとうの感情かも分からない時にそれを撃ち落としては、いつかみんなにちゃんと届くといいといって、泣く。

 いまのあなたは冷凍室に小さいおれを放り込み、おれを守ってくれたあなたよりも、たぶん朝を好むようになっているんだ。





      ◆◆◆





 石鹸をひとつ手に持って少年はうろうろ。

 少しだけ年が上の男の子がその子をだきしめる。

 年が上の男の子は自分に渡すようにいう。形を一切崩していない、少年がいままで大事に持ち歩いていた、手離しちゃ駄目だといわれて渡され、でももう誰も少年のことなんて忘れてしまった、忘れられてしまった、そんな石鹸なんて。 





      ◆◆◆





 いつだったか、星のたくさん見える夜のキャンプ場で知り合った女の人の顔に書いてあった、私たち大人が思い出をたくさん持たせて帰してあげる、だからあなたは自分のベッドのことを嫌いにならなきゃいけないの、という言葉に反し、十八になった朝、彼はまだ自分のベッドのことを好きでいた。





      ◆◆◆





「それこそが愛」

 ウェイトレスごっこ中の彼女はそういって話を切り上げたのだったけど、いつものごとく、オレは彼女の話の大半は噛み切ることができず、オレは自分の顎にしっかりしろというだけの優しさも今や、持ち合わせちゃいない。






      ◆◆◆






 おとこのこがドライヤーをもたされ、しもとりをしておくようにいわれる。それは、もともとはねえさんが、かあさんにたのまれていたこと。

 でもさんがつのおんなたちはいそがしい。

 おとこのこには、しもとりとはなにをすることなのかぜんぜんそうぞうもつかなかったし、ドライヤーとずっとおなじへやにいるのもたえきれなくなる。そとにでた。ひゃくのことばよりもだんぜん、かせんじき。かれは、ひとりすわりこむ。そしてそこにおちていたしょうねんジャンプをやぶき、ゆうぐれをやぶき、たまたまとおりがかっただけなのにおとこのこのやることをとめようとする、おなじクラスのじょしをやぶき、こいぬをやぶき、それからおとこのこのなみだをまたやぶきつづけながらおとこのこは、うちにかえる。ねえさんからは、ちがでるほどなぐられたけれど、かあさんからは、おとこのこのねこぜがきゅうになおっているということでほめてもらえる。





      ◆◆◆





 学習机の引き出しが何を喰ったのか、そろそろ僕にも気づける頃合いだという気がする。






      ◆◆◆





 これは祈りのポーズ。それに似せたポーズ。

 でもこれだけがおれが今選べるポーズ。





      ◆◆◆




 地割れかと僕は思ったが、ちがった。それは勘違いで、いまだ聞こえてくるのは彼女が僕に出すためのコーヒーを作ってくれている音なのだった。





      ◆◆◆





 あれもそれも結局は最初だけ、これもそれも結局はペン先に最初だけくっついている小さな樹脂玉に似た優しさ。





      ◆◆◆





 割れたスプーンを、健康そのもののスプーンだと思い込んだままで生きてきた少年がいた。彼はやがて成長期に入ると、先割れスプーンにしか、物語を話せなくなっていた。自分に話せる本当の話、自分の物語を。無論他人に対して彼は腹を割った話などするはずもなく、好かれることも嫌われることもなく、優しい顔をして彼はちょこんとだけ周りの女の子を削る。





      ◆◆◆





 彼女のは意味のないソニックブーム、しかしその時の彼のそれは開封後は早口言葉で殺っちゃって下さいというような注意書きに首肯して従っている男子に特有のソニックブーム。





      ◆◆◆





 一人の少年が白い皿を見つめている。完璧な白を。

 人の選べるポーズは色々とあるだろうに、よりにもよって、皿の前に座り、しかも見つめている。

 ちっぽけで立派な視界。

 何かの棒を誰かが持ってきてくれるまでは。





      ◆◆◆





 夕優雅少年に犯されたこの身体を持ち上げてみる。

 僕は持ち上げたおたまにいつの間にか紛れていた約束を、注意ぶかく、僕のお碗に注ぎ入れておく。

 覚えておかなくちゃ、あれは必ず僕の席に戻ってくるようにしなけりゃなと僕はせっかく思ってたのに、またやってしまう。エプロンを飲み込むぐらいの動きで、きれいに忘れてしまう。





      ◆◆◆





 夜の電車できみは、許している人たちを目にした。

 乗客もまばらな車内で、その三人組が目立っていたのは、運動ジャージを着ているから。



 一人は吊革につかまって立ち、あとの二人は座って眠っていた。男子高校生の同級生三人組というものが持っているある種のオーラ。

 それを一切感じ取れないきみ。向かいの座席で、彼らと同様に高校生だったけれどきみは一人、バイト帰り。


 

 そして唐突なことに、許すというのはどういうことなのかということを次第にきみは考えだしていた。



 俺は今までずっと、ときみはぼんやり考えだした。

 誰かが誰かを許すということがある時、そこには、許されるべき者ではなく、もう時間切れで許さなくてはならなくなった者がいるのだと、俺は今までずっとそう思ってきた。

 渋々ながらも許す、ということが問題なのは、許す自分を許せていないところにある。

 許す、と決めた瞬間から、許された相手は解放されてしまう。

 ただこちらの顔は反省点になるだけだ。



 そのくせ、彼はまた新たな問題をひき起こす。そして違った相手に、違った角度から許してもらおうとする。



 だが許したからには許さなくてはならないから、許した者は、許した瞬間から許した自分を許さなくてはならなくなり、許した自分を許した自分を許せるかどうかがネックとなる。扉は前にも後ろにもある。



 あのことを、本当には許せていない、自分のある部分は許せているのだが、外から仕入れてきた見方で見てみると、許してはいけなかったと強く思える、むしろ許したこともあってだんだんと強くそう思えてくる、だから思い返す度あんなこと二度とないようにしなくちゃいけない、これ以上俺はもう損をしてはいけない、ときみは、そのような思いを何度も何度もあらたにしている男の子だった。



 こんな考えを持っていても、しかし実際トラブルに見舞われてみると、やはりまた許さなくてはいけなくなるきみがいた。

 そうなのだ、きみは慎重になりすぎるあまり、ありもしない声、いるはずもない自分が動き出し、なぜかさっさと場をさばいてしまう、というタイプ。きみはいつだって帰りたいのだ。きみはいつだって疲れているのだ。

 許せない、と強く思ったことがなく、でも弱くなら思ったことがある、それは何度も何度も。もっと強く、もっと長く、正しいきみの声よ続け。 

 ただきみは時たま、成功することがある。



 きみは、人生で二つめのバイト先で、いくつか失敗したあと、気がついた。きみは、忘れるセンスがない。



 俺は誰のことも、ほんとうには許していないんだ、誰も彼も、自分じしんも含めて皆。



 そんなきみにとっての少しの成功、それは忘れることだった。

 きみはそこのところに希望を見いだすタイプではない、嫌悪すらしていた。だが、まごうことなき、それは少しの成功だった。





      ◆◆◆





 ボクは早く大人になりたい、だって駄目女の子なんだもん。





      ◆◆◆





 そこに染み込んでいる割り算を忘れるか光合成をおぼえるかのどちらかだ、みたいなことをバイト先でいわれて、けれど少年は、うなずくこともなく、息をすることもなく、二足歩行することもなく、根をはることもなく。





      ◆◆◆





 彼は上向いてサンドイッチ、その隣で僕は下向いてサンドイッチ。

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