漁る
レンタルショップで立ったまま気を失っている、そんなような女が私だった。遮る、遮る、遮る。あなたが求めているタイトルを隠すような位置になぜかいつもいる女、それが私だった。
漁る私に居場所はない。漁るようになる前の自分にそんなものがあったかどうかも疑問だが。
漁る私の前にはやたらタクシーが停まる。唾と雨、声で殴る人たち。
漁る私を昇降口で見つけた小学校の頃の同級生が無情の雨を前にして折り畳みを取り出そうとしているのだと勘違いしラッキー、途中まで入れてもらおうという匂いを後ろから放出してくる。
漁る私の膝はいつも土汚れで惨めったらしい。
漁る私はやりたいようにやっていると思われて、おやつも減らされる。
漁る私のせいである日事故が起きた。けれど私には、その脱線事故は必然性から生じたもののように思える。
漁る私に特に女教員がよく訊ねてくる、ちゃんとした最終目的地はあるのかと。彼女たちが何をいいたいのか漁る私には分からなかった。
私には、でもあなたがいた。
雨にもかかわらず、あの時も漁っていた、こらえ性のないみっともない私がいた。私の傘の持ち手を、腕をのばしあなたはしっかりとした手で持っていてくれた。気道確保、記憶の混乱がおさまるまでなぜか側にいた。
学生の漁る姿というのはどういうものか私はよく知っている。
近所の悪がき連中が私のことを奇術師のたまごだと噂しているのも知っている。
実際のところはそれはあなただ。
あの時の傘の中で、ずっと二人きりで、ずっと清潔さを保って生活できるならどんなに、と正直私も思うことがある。
でも、あなたもいつかはきっと私を置いていく。
しかも、そうなれば私はもっと漁る時間を増やせると今から想像すらしている。
いつだって恩を忘れて私は漁る。誰もがイコールを組み込んである歌詞を覚えようとしているなか、ごそごそいう音をさせて私は漁る。そういうのって本当に直視するに耐えない。学生の漁る姿というのはそういうものだということを私はよく知っている。一歩でも傘の外に出たら友情は形を変えるものだということを。
私が毎日ひきずっているのは、私に見合うサイズ、くすんだ私に見合うくすんだ色の、何の変哲もない学校の指定鞄だ。
でも、私の鞄だ。
私は自分の腕を失くすだろう。
漁る私の本当にやりたいこととは、少なくとも漁ることではないはずだと誰もが思っている。
私にはもう分からない、ただどんな時でもそれはできることだから、誰の目にも何をしているか明らかなのに誰にも私がしていることを悟られないで済むから、だから私は自分の鞄のなかに手を突っ込んで、漁る。
恥ずかしい時、退屈な場所で座っていなくちゃならない時、それに何より誰かの視線から逃れたい時。
私は夢中で漁る。気がつくと教室のなかには私一人しかいないなんてことはざらだった。
一時期、私の鞄は数人の同級生から重宝されていたことだってあった。
なかに、皆が度忘れした歌詞や偶数で揃えた見せ傷や奇数で揃えた傷薬や本屋大賞受賞作が入っていた時の話。
自分の鞄のなかの匂い以外、今の私に信じられるものは何もない。
私は視界というものを殺しちゃったのだ。
私はもうじき自分の腕を失くすだろう。
最後の瞬間、私が自分の腕がどういうふうにか去っていくことを知覚した瞬間、私は言葉を手に入れる。
私だけの、本当の言葉。
やっと。
それが、覚えきれないほど長文だったり、今の私よりくすんだ色をしていなければいいのだけれど。




