第八話
なんで!?どうしてこんなことに!?
「もう!ルーったら、往生際が悪いわよ?」
リーが、リーが怖いよぉ…。
郊外にあるオルソン邸から王都の城まで、馬車に揺られること数時間。初めて訪れたそこは、本当にお伽噺の中にいるように感じるほど美しかった。
「綺麗ね、ルー。」
「うん、なんか緊張するよ。」
貴族の娘と、一介の執事が二人して城を見上げる光景は、さぞ滑稽に見えることだろう。どこの田舎者かしら、なんて言う声もかすかに聞こえる。オルソンの一人娘と判れば、掌返したように媚売るくせに。
「…さて、と。行きましょうか、お嬢様。」
「嫌。」
「は?」
リーは口を尖らせて拗ねている。
「…お嬢様、止めてよ。」
そのことか。
「無理ですね。」
「な!?」
「僕はただの執事でしかありません。そうでしょう?」
リーはむくれた顔をしたが、渋々了承した。
リーに用意された部屋は、派手ではないが大きくて綺麗な部屋だった。大きな窓からは、お城ならではの絢爛な庭が一望できた。
「ねぇ、ルー。機会があったら、私このお庭を散歩してみたいわ。」
「いいですね。でもとても広いですから、一日で回れるでしょうか…。」
「そうねぇ。ちょっと無理かしら?」
「庭ならいつでも見に来ればいい。」
僕とリーの会話に、今までいなかったはずの男の声が混ざる。振り向けば、そこにユリアス殿下が立っていた。
「ユ、リアス殿下。」
「ん。」
「何故ここに。」
至極当たり前の疑問を投げかけたはずなのに、逆になんでそんなことを聞く?という顔をされた。
「しつこいですわよ、殿下。」
リーが不機嫌な顔で詰め寄る。そんなリーなど気にした様子なく、ユリアス殿下は
「しつこいくらいが丁度いいんだ。」
なんて意味不明な言葉を発した。リーはまぁ、いいわ。と話を続ける。
「で、何かお話があってここにいらっしゃったんではないのですか?」
ユリアス殿下は、思い出した!と顔にして、リーに、いやリーティア・オルソンに告げる。
「舞踏会への出席、誠に嬉しく存じます。舞踏会の開始は今宵の7時。王家の者もこぞって参加いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。…と言えと言われてきた。」
棒読みの上、最後のは絶対いらない。
「…確かに、了解いたしました。」
リーも棒読みだった。そして、二人は何も言わず睨み合っている。
「仲、いいなぁ…。」
「「違う!!!!」」
ぼそっと聞こえないように言ったはずなのに、二人にはばっちり聞こえたらしく、声を揃えて否定した。仲いいじゃないか。
僕が微笑ましく思っている間も、二人はなんだかんだと仲よく喧嘩していた。それはユリアス殿下の従者がやってきて、そのままユリアス殿下が引きずられて帰るまで続き、リーは一人勝ち誇ったように笑っていた。
そしてふと思う。僕も、あんな風にユリアス殿下と仲よく出来たら…。なんとなく、胸が痛む気がした。
「さて、舞踏会まであと2時間もないわ。準備を始めましょう。」
リーの合図により、メイドたちが一斉に準備を始める。
「ルー様、ドレスはどれにいたしますか?」
そうして尋ねるのは、メイドのニナ。僕たち二人の友人でもある。癖のある栗毛に小柄な体躯。小動物を見ている気分になるような、愛らしい容姿をしている。
「んー、そうだなぁ。これはどうだろう。」
僕が示したのは、淡いピンクの可愛らしいものだった。花をモチーフに、レースやフリルをふんだんに使ってあり、リーティアの魅力を十分に引き出すだろう。
「では、髪は高く結いましょう。」
「うん、頼むよ。」
ドレスを決めるのはいつも僕だけど、そのほかのことはすべてニナが一任している。ニナに任せれば間違いがない。これは、僕とリーの共通見解である。
てきぱきと流れるようにリーの準備が進む。元々可愛いリーが、どんどん綺麗になっていく。
「どう?」
全ての準備を終え、リーは僕の前で回ってみせる。ドレスがふわっと舞って、とても可愛い。
「凄く綺麗だ、リーティア。」
僕が満足気に笑うと、リーが悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ、次はルーの番ね!」
「はい!?」
リーは、よく理解出来ていない僕、いや理解したくない僕を尻目に、ドレスを引っ張り出す。
「ま、まさか…。」
「私、ルーにはこの上品な紫が似合うと思うの!!」
リーが取りだしたのは、確かに上品な紫であったが、片方にしか袖が付いていないもの。つまり、どう足掻いてももう片方は肩が丸見えだと言うこと。
「い、嫌だ!!!」
全力で逃げる。いや、逃げようとした。僕はしっかりとニナに捕まっていた。ニナもまた、リーと同じ悪い笑みを浮かべていた。
そして、冒頭に至るわけである。
ドレスの仕組みがわからないです。レースとかフリルとか、なんか知ってる用語を並べてみました。もっと詳しく書けたらよかったのですが、どうも上手くいきませんね~。