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ぼくだい!~僕の大学は魔法研究が必修です~  作者: 浅野エミイ


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第1話

 日曜日、朝9時。この時間はイライラして頭が割れそうだ。原因は明白。家の敷地に建っている隣の教会の騒音だ。


 もちろん、人によっては荘厳なパイプオルガンに、美しい聖歌隊の歌声が聴こえて、気分がよくなるかもしれない。


 ……が、18年間も毎週日曜朝っぱらからこんな状況に晒されている俺からしたら、不愉快極まりない。パイプオルガンは響きすぎるんだ。せめて教会を防音にしろ。ついでに聖歌隊! 聖歌隊なんていっても、おばちゃんたちの集まりだろ。趣味でやってるなら勘弁してくれ。おばちゃんの声は子どもの声よりよくわからんビブラートがかかって余計にイラつくんだ。




「くそ、生まれたときからこんな環境でも、慣れないものは慣れないな……俺は悪魔か何かか?」




 ベッドにもぐって枕で耳を塞いでも、1時間はこの悪夢のような時間は続く。


 


 日曜日の朝のミサ。俺、黒巣遥(くろす・はるか)はそんなものには参加していないが、一応ここの教会の牧師の息子だ。親父は今頃、説教でもしてるんだろう。それをお袋が優しく見守って……。


 くそどうでもいい。俺は断言する。『神はいない』と。


 神様なんて信じていたのは、幼稚園までだ。親の影響もあり、寝る前のお祈りをしたり、ボランティアにも積極的に参加していた。


 しかし、どんなに祈ったところで、どうにもならないことのほうが多い。それを痛感したのが小学校の頃。授業参観や運動会、文化祭のときにクラスメイトの親から言われた辛辣な言葉。


 


『黒巣さんの息子さん、教会のお子さんなのに怖い顔ねぇ』




 好きでこんな顔で生まれたわけじゃねーっつーの。文句なら微笑ましく俺を見守っているふたりに直接言えよ。


 親の悪口は子どもに受け継がれる。俺は小学校時代、この顔のせいで仲間はずれにされた。他にも身長が伸びるのが早かったのもあり、余計に怖がられて、卒業。


 中学時代も同じ。友達もおらず、先輩にだけ絡まれたり、変な後輩に好かれたりはしたけど、ろくな思い出はない。高校も以下省略。見事に俺はやさぐれた。


 


 


 12時を過ぎて、やっと信者さんが帰ったあと、俺はやっと朝食にありつける。ベッドから降りると、1階のダイニングに向かった。




「はるちゃん、ちゃんとごミサには出なきゃダメじゃない」


「誰が出るか。俺が死んだら坊さん呼んでくれよ」


「ひ、ひどいわ! はるちゃん。ママより早く死ぬなんて! ぐすっ……」


「遥、なんでそんな悲しいことを言うんだ。ママを泣かせるんじゃない」




 知るか。親父もお袋もいつまでも仲良くてうらやましい限りですね。さっさとこの家から出て行きたいわ。ただ、高校3年の俺には、その前にどうにかしないといけない問題がある。




「……ところで遥、そろそろ跡を継ぐことを考えてくれてるかな?」




 これだ。来年の3月、俺は通っている工業高校を卒業する。そろそろ就活か大学進学を考えなくてはいけないが、何もやる気がしない。この『何もやる気がしない』というのは、高校受験のときもそうで、工業高校を選んだのも家から近かったってだけ。


 だけどさすがに高校卒業して、ニートというわけにもいかないよな……。どこか住み込みで働くか、遠方の大学に進学するか。ともかく家を離れたいのだが、働く根性もない。進学するような学力も。




「迷ってるのか? 遥」


「うっせーよ、親父。俺だって色々考えてるんだ」


「パパの跡を継いでくれるなら、東京の大学に通ってもいいんだぞ? しかもひとり暮らしで仕送り付きだ」


「え!?」




 東京でひとり暮らし!? しかも仕送り付きだなんて、好条件すぎじゃねーか!




「……親父、何企んでんだ? 俺の高校の成績、知ってるよな?」


「パパも色々考えたんだよ……。そして、見つけたのだ! お前の偏差値でも入学できそうな神学部を!」




 ……神学部限定かよ。なんてマニアックな。つまりこれが親父の条件ってことか。どこかの大学の神学部に編入して、卒業。そして教会を継がせる。親父にしては考えたな。くだらない説教ばっか垂れてると思ったら。


 でも、これはいいチャンスかもしれない。大学とか学部はともかく、東京でひとり暮らしはおいしい。卒業後はうやむやにして、どこか就職してしまえばこっちのもんだ。教会なんて誰が継ぐか! でも、ひとり暮らしはさせてもらうぜ!




「ふ~ん……少し興味あるかも」




 ちらちらと親父の顔を見ながら、目玉焼きを口に入れる。ここで「入りたいぜ!」なんてノッてしまったら親父の勝ち。ここはちょっと考えてもいいくらいの態度を取れ。




「そうか! さすがパパとママの子だ! 偉いぞぉ!」


「……頭なでるな」




 親父の手を払いのけると、お袋がにこにこ笑って入学案内を渡してくる。浄正大学か。……浄正!?




「ちょ、ちょっと待てよ! ここの大学、偏差値めっちゃ高いだろ!」


「ふっふっふ、それは法学部や政経学部や外語学部だな。この『神仏学部』はお前が逆立ちすれば入れる!」


「逆立ちする時点で無理じゃね!?」


「大丈夫、お前には神がついている……。ついでに仏もだ。ここの『神仏学部』はただの神学部ではなく、仏教、神道、イスラム教その他もろもろどんな宗教の生徒でもウェルカムらしいからな! もちろん無宗教可!」


「くそっ! 神も仏もねぇよ! 頼れるのは実力だけだっ! 今日から受験勉強するからな!」




 朝食を全部口に入れて味噌汁で流し込むと、俺は部屋へと駆けこむ。




「うふふ、はるちゃんったら、やる気になってくれたみたいねぇ。さすがパパだわ」


「これでうちの教会も安泰だな!」




 ちくしょう、下の階で好き放題言いやがって! こうなったら意地でも入ってやる! そしてひとり暮らしを満喫してやるからな、東京で!!


 受験日まで残り3か月。俺は寝食を惜しんでマジで死ぬほど勉強した。

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