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【醒睡笑】  作者: ヒデキ
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【序~巻之一・五 ―お江らの夢―】

序:

いつのことだろうか。元和九年(一六二三年)、天下太平・人民豊楽の折。それがしは、策伝。小僧の頃から、耳に触れ、面白いと思った話を、書き置いた。齢七十。誓願寺のすみに隠居し、「安楽庵」と号す。

 柴の扉の庵で過ごす、朝夕。心休まる暇に、来し方、残した書き置きを読むと、思わず眠気も覚めて笑ってしまった。だから、そのまんまだが、『醒睡笑』と名付けた。まいど馬鹿馬鹿しい草紙だが。八巻に纏めて、残そう。

【一言】一六二三年は、徳川秀忠と家光が上洛し、家光が将軍に就任した年です。まさに、天下は太平。『醒睡笑』は、“そんな年”に京都所司代に提出された本です。作者は「安楽庵策伝あんらくさいさくでん。彼こそ、上方落語の元祖。「日本のお笑いの“真のレジェンド”」でした。『醒睡笑』は、「世界最古の上方落語の噺本(ネタ本)」となりました。


<巻之一>

一:「そらごと」(嘘言)の語源

 そら(嘘言)を言う人を、どうして「嘘吐き」と言うのだろうか。されば、「ウソ」という鳥が、木の「そら」(頂上)に止まって音を奏でるから、「“そら”ごと」を「嘘吐き」というのである。

【一言】古典の醍醐味は、「裏の意味」の解釈です。早速、みていきましょう。

一六二三年、天下の話題は、江戸幕府の将軍の交代でした。それを素通りするようでは、芸人とは言いません。“元祖笑いの神様・策伝”は京都所司代(京の警察・裁判所長官)に挑戦を仕掛けました。それが、この「第一話」。何と始めの話から、秀忠と家光を「笑い」にしています。曰く、「秀忠公は嘘吐きや」。その心は?将軍職は、息子はんに譲るけど。ホンマは、木のてっぺんから、「大御所」として、天下に鳴き続けるつもりや。


二:「ざくろ風呂」の由来

 どちらも同じなのに。なんで、いつも焚くのを「風呂」といい、仕切り戸がないのを「ザクロ風呂」というのだろう。“屈み入る”(“鏡いり”では「ザクロ酢」で鏡を磨く)からだ。

【一言】戸の中に隠れる秀忠と。みんなから、よく見える場所で風呂に入る家光。どちらも同じ徳川なのに。「ザクロ風呂」の家光は、ピカピカの鏡のようだ。


三:「おご」は食を進む

 海藻の一種に、「おご」という藻がある。ご飯がすすむ、友である。だから、武家の台所で、飯の盛り付けをし、人に進める役の者を、「おご」というのだ。

【一言】なるほど、秀忠の奥さんにして、家光の母は、「おごう(お江)」でしたな。「武家の台所」のオカミさんは、「おごう」という飯盛りだ、と。


四:「汚い」となぜ言うか

 物がムサくなるのを、どうして「きたない」というのだろうか。“北”は、陰陽五行説の「水の方がく」を指す。水がなくなれば、万物は清くなくなる。だから、「水ない」というのを言い換えて、「“きた”ない」というのだろうか。

【一言】秀忠はんは、ひきようや。ムサい風呂に入る、「きたない」大御所や。


五:「め」とも言い、「も」とも言う

 連歌師・宗祇が、弟子の宗長と連れ立って、夕暮れ時の浦を訪れた時。漁師が網で藻を引き上げていた。「この海草は何という名ですか」と聞いたところ。「“め”とも申しますし、“藻”とも申します」と漁師は答えた。

 宗祇は「やあ、これは良い“前句”に出くわした」と言い出して詠んだ。

―“め”とも言うなり、“藻”とも言うなり―

 宗長に、「付句なされよ」とおっしゃった。

―引連れて、野飼いの牛の、帰るさに―

なるほど、牝牛は「ウン“メ―”」、牡牛は「ウン“モー”」と鳴く。宗祇は感心した。

 宗長が「一句たのみます」と所望したところ、

―よむいろは、教ゆる指の、下を見よ―

「指は(ゆ・ひ)」。いろは歌で、「ゆ」の下は「め」である。「ひ」の下は「も」だもんね。

【一言】で?「牝牛」って誰?という話ですね。「“おごう”がすすめてくる“藻”=牝牛」だと。そういえば、『序』の『人民豊楽』。「豊臣秀頼(“おごう”の姉である亡き淀殿の息子)が再建した寺の鐘」の『君臣豊楽』を思い出します。亡き徳川家康の怒りを買い、豊臣は滅んだのでした。「ウンメー」と鳴く、うるわしの娘さんは、“おごうの娘”。「浅井三姉妹」の悲願。あの世の宗長も、思わず出てきて、連歌を詠みます。

―“おごう”の産んだ娘は、「浅井三姉妹の“夢”」。夢を繋ぐ“ひも”―


ふむ。でも、この『醒睡笑』。京都所司代・板倉重宗に提出された本でしたね。しかも、「笑いの本」。重宗の親父である、キレ者の板倉勝重が生きている頃だから、“ここまでの解釈”だけなら、作者の安楽庵策伝は、京都所司代から叱られますね。

 ということは、「上方(関西人)独特の風味で。口は悪い」が、「秀忠や家光を含めた、みんなに“何か良いことがあって”“みんなで大笑いしよう”」というのが、この本の主旨。

―真の芸人は、「笑い」は生んでも。「人の心」は傷付けない―

さすがは、“元祖笑いの神様・安楽庵策伝”。その腕前、とくと見せてもらいましょう。

―「笑い」の心を忘れた。芸人どもは。この本を読めば、「笑い」を思い出せるな―

というわけで。昨今の芸人達は、「コロナの世相」を、ちっとも明るくしてくれないので。代わりに、『醒睡笑』を読んで笑いましょう。めでたい笑いの話のはじまりはじまりー。 

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