100話: お気に召すままに
しくじった、今回は本当に洒落にならないかもな。
追っ手に捕まったオレは、ロックの解除されたF12べルリネッタでお城まで乗せられ、最上階の王女の部屋に連れて来られた。
頭上には派手なシャンデリアが室内に暖かな光を与え、周囲には絵画や骨董品、花瓶に入った色彩豊かな花が至る所に飾られている。
王族が住んでいると言われて、納得できる贅沢な部屋だ。
「初めまして、侵入者さん。いえ、きちんとしたお名前でお呼びしないといけませんね、ホクト・シノザキさん」
金と赤が特徴的な玉座に座っている銀髪の見目麗しい女性が、座っているオレに話かけてきた。
正体はルーン王女。
この国で最も美しく、最も偉大な力を持つ人物だ。
「あらっ? お名前が違いましたか?」
「合ってますよ」
目と鼻の先に女性がいるだけで少し緊張するのに、相手が飛び抜けた美貌を持つ王女となれば尚更だ。
もっと言えば、オレは捕らわれの身。
1つのミスが命取りになる。
幸い、手錠が装着されているだけで、今のところ映画でみるような拷問は受けてない。
「それで、どうしてこの国へ? クンバ帝国には入国禁止令を発令したばかりですが」
「なんとなく察しがついているんじゃないですか? こっちも意味もなく侵入とかしないですよ」
「転生者の件ですか。まぁ、スズちゃんがあなたを捕らえたってことは全てを見たってことになるのね」
「まさか、あんな残酷な光景が待っているとはな。理由は? 意味もなく殺すなんてしないだろ?」
「それは簡単なこと。この世界を守るため、あなたならその意味を一番理解しているはずですよ?」
ルーン王女の金色の瞳が、オレの瞳をしっかりと捕捉している。
狂った殺人鬼の目をしているかと思っていたが、瞳は綺麗に澄んでいて意志は強く王女ということを思い知らされる。
「世界を守る? オレは転生者が世界を守っていると思っていたが、それは違うと」
「強力なモンスターを倒して人々に平和を与える一方で、本来住んでいた人達の仕事を奪い失業という破壊を生み出している。外側から破壊はしていないけれども、内側からこの世界を確実に破壊している。あなたもその犠牲者の1人。組織に入る前はギルドで大活躍している腕利きの魔術師だったのに、今ではどう? 満足しているのかしら?」
「余所の人の気持ちは知らないが、個人的には今の生活には満足している。魔法の箒に乗って生活するよりも、車で移動する方が快適だと知ったよ」
ルーン王女の言っていることはもっともな意見ではあるが、必ずしも道を失った人間が死ぬわけではない。
「ふふっ、意外と見所があるのね。少しあなたのことを見直したわ。ねぇ、あなたもこっちの陣営に来ない? 何だったら、あなたを婿にとってあげてもいいけど?」
「断るよ、そこまでする必要がないし」
「別に今すぐとは言わない。とりあえず、明日は別の場所に輸送するからそこでじっくり考えて。3日後にまたね。スズちゃん、この人を例の場所に送る手配をしてちょーだい」
「はいはい。さぁ、行くわよ」
スズに連れられて、オレはお城を後にすることになった。
「ははっ、このマシン、素晴らしいな! サクラくん、これはいったい、誰の持ち物なんだい?」
サクラが中央軍事基地にある格納庫に到着すると、帝国フレイト長官であるリチャードが出迎えた。
「これはホクトさんの車です。スバルWRX S4を改造して作られた特注のマシーンです。馬力は700、ボディの補強と防弾加工済みです」
「実に優秀なマシーンだ。私は気に入ったよ」
「ところで、これからなにを? こんな朝から、しかも長官じきじきとはよほどの事態ですか?」
現在の時刻は朝6時。
昨晩、セレナ局長から緊急で呼ばれてきたわけだけど、そのとき詳しい事情は教えてくれなかった。
切羽詰まっている感じはあったものの、最後まで勿体ぶって言わないということは余裕があるということなのか?
まぁ、でもセレナ局長も変なところあるから……。
「そうだね、緊急といえば緊急。いや、これは私の意見ではなくてセレナくんの意見だけどね。おっ、噂をすれば来たよ」
格納庫の奥からセレナ局長が、ひょっこり現れた。
セレナには珍しく、スーツではなくジャージ姿。
基本的に何を着させても似合うタイプ人間だと思っていたが、セレナのジャージ姿は想像以上に変だった。
美人な局長がここまで芋っぽく見えるなんて……。
「おはよう、サクラちゃん。緊急で呼び出してごめんね」
「それはいいですけど、これから何をするんですか? 軍事基地に呼び出すなんてよっぽどですよね? もしかして、戦争? それとも、強力なモンスターですか?」
「いいえ、そういうものではないの。サクラちゃん、ナハちゃんとホクトくんが最近出張でいないのは知っているよね?」
「もちろん。だって、二人の分まで働いてましたもん」
「実はその二人はね、極秘でペトス王国に派遣させてるの。それでホクトくんがね、ちょっと王女様に捕まったらしくてね」
「もしかして、ホクトさんを助けるっていうのが今回の任務ですか?」
「半分正解。残り半分はルーン王女を捕らえること」
ハードルが高いなぁ。
奪還作戦自体そのものが難しいのに、黒い噂が耐えない国に侵入して王女の護送を突破するなんて無謀に思えてきた。
「作戦はあるんですか?」
「いや、これから。あと十分もすればナハちゃんとマイケルくんも来ると思うわ」
「マイケル? 誰ですか?」
「ナハちゃんとホクトくんと同じ高校の同級生よ。所属は、帝国政府の外交部担当ね」
「ということは、私とその二人で作戦を?」
「いや、マイケルくんは物資調達と指示係。それに今回は私にも責任があるから私も参戦するよ。あと、イズモちゃんともう1人」
「もう1人?」
「約束の時間だし、もう来るんじゃないかな?」
……グキュォォン!
セレナがそう言った直後、格納庫の外から車が近づいてくる音が聞こえてきた。
入ってきたのは、2台の車。
緑色のランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテと黒色のマセラティギブリS。
「やぁ、サクラ」
「ごめんねぇー、少し遅れちゃった」
降りてきたのは、アカツキとイズモ。
なるほど、あと1人というのはアカツキのことね。
だけど、どうして? アカツキはフリーの魔術師なのに……。
「あっ、アカツキちゃんは個人的に参戦したいってことらしいから実力を考慮してメンバーに入れたの」
「大丈夫かな、ちょっと心配なんだけど」
「安心して、サクラ。私あれから、車の運転をイズモから教わったのよ」
それなら、多少は期待出来るかな?
「大体の役者は揃ったようだね、それじゃ私は戻るよ。セレナ局長、後のことは任せたよ。リー課長からの伝言で、ここにあるものは好きに使っていいとのことだ。帝国フレイトの押収品も魅力的だが、帝国政府のものも魅力的なものも知って欲しいと言われたよ」
そばで私たちのことを見ていたリチャード局長が、タイミングを見計らうとそれだけ言い残して格納庫から出て行った。
あれでも帝国フレイトのトップなんだよね。
赴任して3年ほどだが、リチャードの影響力は大きい。
表情や立ち振る舞いからは長官とは遠い人だが、リチャードがいなければ自由な帝国フレイトは今はないと思う。
「ナハちゃんはあと少しで到着するらしいから、それまでに作戦を決めましょう。みんな準備はいい?」
私がリチャードを見送り終わると、セレナ局長が声をあげた。
セレナ局長はどう攻略するのかな?




