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99話: 跳び馬の制御装置

「ねぇ、ホー君。せっかくだし、マーサさんの教会までレースしない?」


 出発する前に、オレが耳にイヤホン型の無線機を装着するとナハが勝負を申し込んできた。


 そんな余裕があればいいけど。


 計画では、お城の人間に追跡されずにマーサーの教会まで逃げ切る予定だ。

 しかし、逃げきれるの困難な場合はここから20キロ先にある国境を越える必要がある。 

 その先には、侵入してきた時に使用した貨物列車の終着地点であるネル帝国。

 クンバ帝国と友好関係であり、今回はセレナ局長が無条件で入国出来るように事前に手続きしてくれたらしい。


「いいよ。でも、事態が悪化したら打ち切りだからな」

「そうこなくちゃね!」

「今から5秒後に開始するぞ、5、4、3、2、1、スタート!」


 スタート開始直後に2台が同時に走り出し、宝物庫を抜けるとタイヤから白い煙を上げながら横滑りしながら右折する。   

 先に出たのは、インコースで走っているオレのF12べルリネッタ。

 すぐ後ろをナハのカレラGTが追走している。


 古い車と言えど、オレの車と大差ないな。


 サイドミラー越しから見える黒のカレラGTを見て、オレは改めて性能の凄さに驚かされる。

 走り出す前は、F12べルリネッタ方が有利だと考えていた。

 F12ベルリネッタの時速100キロまでの到達時間は3,1秒。

 一方、カレラGTが3,8秒。

 エンジンのスペックから見ても、べルリネッタはV12エンジンの740馬力、対してカレラGTはV10エンジンの612馬力だ。

 しかしながら、あまり差は感じられない。

 それは2台ともスーパーカーだからなのだからか、それともオレの実力がナハより劣っているからなのだろうか?

 甲高く力強いエンジン音を響かせながら、2台は直線を駆け抜けていく。


 そろそろ、減速していかないと。


 目の前に緩やかな左カーブが迫ってきたので、オレはブレーキを踏んでパドルシフトを操作する。 

 ナハのカレラGTをブロックしながら、カーブをドリフトで進入していく。


 うわっ、パワーを制御するのが難しいな。


 表現するなら、力が有り余っている大型犬を素手で押さえつけている感覚だ。

 先日はラ・フェラーリに乗ったばかりだが、あれと比較するとこの車は正真正銘の暴れ馬だ。

 ラ・フェラーリは技術で制御されている感覚を感じられたが、これはそれがあまり感じられない。

 自分の手で感覚を把握しないと、確実に事故るマシーンだ。

 アウトコース気味で無事に通過すると、お城の出口に繋がる道に合流する。

 石畳で出来た一本道を2台は、おてんば姫のように軽快に走っていく。

 100キロに到達するかしないか速度で、細い道を慎重に進むとお城の前に出た。

 まだ大丈夫、騒ぎになってない。ここを左折さえすれば、すぐに出れる。

 キュキュキュとタイヤで音を鳴らしながら、直角カーブをドリフトで通過する。

 見通しのよい直線道路の先には、お城の検問所があるだけで障壁となるものは特にない。

 この時間帯の検問所の人数で、時速100キロを越えて走る鉄の塊を止めることは難しいだろう。

 そうこうしているうちに、検問所がすぐ目の前に迫っていく。

 警備の人間達が急接近してくる2台の存在に気づいたようだが、突然の出来事にどう対処していいか戸惑ってる様子だ。

 F12べルリネッタとカレラGTは、ナイフのような鋭さで警備の人間を突破していく。


 この調子を維持すれば……そう思ったときだ。


 お城の門の目の前にある道を左折した瞬間、オレの運転しているフェラーリに異変が起き始めた。


 どういうことだ、なんで加速しないんだ!


 アクセルを踏んでいるのに、どういうわけか加速しない。

 それどころか、ブレーキが勝手にかかり減速を始めたのだ。

 モニターでF12ベルリネッタのコンディションを確認するが、数値に異常は見られない。

 色々とボタンを押したりして、なんとかしようとするも減速は止まらない。

 クソ! これはここで乗り捨てていくしかない。

 最終的にF12ベルリネッタは、自動でエンジンが切れて道路の真ん中で完全停止してしまった。


「ホーくん! ちょっと、何で車を止めているの?」

「勝手にロックがかかって止まったんだ! そっちの車はどうだ?」

「私の方は大丈夫。車を止めて待っているから、早くこっち来て!」

「わかった、ちょっと待ってろ! 今すぐ行く!」


 無線機でナハと通話を終えたオレは、ドアを開けて外に出るとカレラGTのもとに走っていく。

 まだ間に合う、追っ手は来ていない。


「そこを動くな! 止まれ、そこの男!」

 そうオレが思ったとき、背後から女性の鋭い声が聞こえてきた。

 ナハが言っていた追跡者、もう追いついてきたのか。

 だが、振り返っている余裕なんてない。

 今は前に進むだけだ。

 カレラGTが目と鼻の先までに近づいたときだ。


「聞かないなら仕方ないわ、ブレイク・ダウン!」

「おい、マジかよ! このタイミングでそれかよ!」


 追跡者が唱えた魔術は、重力に変化を及ぼすものだ。

 下に力がかかり始めると、オレは自然としゃがむような姿勢になる。

 手を突き立てて、必死に抵抗するが全く歯が立たない。


 ダメだ、どうすることもできない!


 せめて、ナハとマイケルでも逃がさないと。

 オレは、耳に装着している小型の無線機でナハにメッセージを送ることにした。


「ナハ、聞こえてるか!?」

「どうしたの? 何かあったの!?」

「重力魔術をかけられた、無理だ! オレを置いていけ!」

「ホーくんを置いて、そんなの出来ないよ!」

「いいから行くんだ! 早くしろ、このままじゃみんなが捕まる! それじゃ、意味がないんだ!」

「わ、わかった! あとで絶対に迎えに行くから!」


 ナハがそういった瞬間、カレラGTがけたたましいエンジン音を鳴らして走り始める。

 あっという間に、カレラGTの姿ははる遠くへ行ってしまう。


 これでいい、そうこれで。

 

「世話が焼ける侵入者ね。車を奪ったのは褒めてあげる」

「そりゃ、どうも。それで、ここでオレを殺すか?」

「さぁ? 上の判断次第?」


 美しき追跡者は多くは語らず、感心したような目をオレに向けてきた。


登場車種


ナハ・フナボリ:ポルシェ・カレラGT


ホクト・シノザキ:フェラーリ F12

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