黒い光
視点はルナです。
影が差す。雲の隙間から本来太陽の光がカーテンのように降り注いでいるはずの場所から。
「リク! 妾の声が聞こえぬか!?」
4つの支柱がその降り注ぐ影を寄せ付けぬかのように防いでいる。
結界。生命線であるこれが失われれば、たちまちここにいる神の断片達は飲まれてしまうだろう。
この場所はリクの中にある聖地とは、また違った場所。リクが契約した神はすべてこの場所にいる。
「大変な事になってるわね〜」
困った顔をしながら、のんびりと、だがその手は必死に支柱の1つへと魔力を注いでいる。春の女神の断片であるサオがそうしているように、他の夏、秋、冬といった女神達も必死に柱を支えている。中心では月の女神であるセレネが苦しみながら結界の核のような物を支える。
「『ヘカテ』! まだ『リク』はきがついていないのですか!?」
「やってるわ! だが、それすらも聞こえておらん! 妾が降臨しておきながら、なんてざまじゃ……ッ!」
そう、降臨。
リクは白夜との戦いのさなか、妾自身である、神を降臨させた。それは契約者が心の底から望み、莫大な魔力を消費する事で神の断片を元にして呼び出す事ができる。
でも、それは鍵が必要だ。鍵と呼ばれる神言が無ければ、それぞれの神は降臨されない。
ネプチューンなら、『|Dii Consentes《オリュンポス十二神》』
火之夜藝速男神ならば、『数々の神々を生みし、母殺しの神よ。燃え上がる罪焔として真名を解放せん』。
このように、それぞれ神を呼ぶための神言がある。
もちろん、妾にも。
だが、リクはそんな物をすっ飛ばして直接妾を呼ぶ事によって、白夜の破壊の魔法をすべて打ち砕いた。神として降臨させて。
そこまでは良かった。
今こんな状況になっているのは、リリカとか言う鬼族が現れてからだ。
白夜が瀕死。リクは……暴走、と言った所だろうか。まるで理性が働いていない。
半神半人な為に、神とも、邪神とも違う現人神な彼は、善にも、悪にも染まる。その事を知っていたのだろうリリカに挑発され、今。一度も考えてもしなかった『殺す』という感情に飲まれている。
そしてその想いがリクの中にも浸水し、神具として使われている妾達のいる場所の所まで黒い光となって染まってきている。
神である妾達がそれに飲み込まれれば、正気を無くし、神としての使命も、善も忘れ、ただひたすらに絶望を起こす邪神となってしまうだろう。
神の断片である妾以外の者ならばまだ何とかなる。神が断片を自らの一部という事から切り離せば良い事だ。
だが、妾は違う。ヘカテとして降臨している今、切り離す事などできず、そもそも本体がこの場所にいるために、飲まれたら最後。リクの体にも影響し、リクは現人神から理性もなく、ただ殺す事を目的とした邪神へと成り下がってしまう。
「な、なんとかならないんだぜ!?」
「苦しいのは好き、でも絶望は好きじゃないッ!」
「くっ。妾の声では聞こえぬのか……リク……ッ!」
「…………ねぇヘカちゃん」
「何じゃツキ!」
中心で震えているツキが汗を流しながら呼ぶ。
「どうしたのじゃ? ツキ」
「ごめん」
ツキが笑った。
「もう、無理……ッ」
――支柱が一斉に割れた。
「「「「きゃぁ!?」」」」
いままで流していた支柱が割れた事により、驚く四季の女神。ツキはその場につらそうにして倒れ込む。
「ツキ!? はぁ!!」
両手を振りかぶり、四方へと結界を張りなおす。とたんに両腕に鉄が乗っかったかのような感覚を覚える。
「う、くぅ……ッ!?」
このままではもたない。力が先ほどの結界を壊したときよりもさらに濃く、強くなっていく事がわかる。
「もって、あと数十分、か……ッ?」
見えない砂時計を見ているかのような感覚にぞっとし、打開策を考える。
1つ目。リクに声を届け、正気に戻す事。だがこれは先ほどから試して入るのだが、反応する気配はない。
2つ目。この地を妾の魔力で溢れさせ、リクを強制的に意識を沈め、リクの体を妾が動かす。様は妾がリクを乗っ取ると言った事だ。
だが2つ目のは危険だ。下手をするともう二度とリクが意識からさめる事が無くなる事がある。
何せ、リクのすべての魔力を妾の魔力で上書きするのだから。
だが……。
「それしか無い……か……」
もう四季の女神達も、ツキも限界だろう。今立っているのは妾だけ。
ならもう、使うしか……。
「すまないリク。しばし眠りにつけ」
魔力を拡散しようとした瞬間。
――黒い光が一層強くなり、結界へと叩き付けられてきた。
「なっ!?」
それだけではない。拡散し始め、結界の外へと出て行った妾の魔力を、まるで貪るように喰っているのだ。
すぐさま魔力を止めて元に戻す。だが結界の外に一度でもでた魔力はすべて喰らわれ、戻ってはこなかった。
「い、一体、どういう事じゃ……」
今ので外に出ていた魔力以上に魔力が消費されていて、結界の維持が厳しくなる。
妾の魔力を喰らうなど、ただの人間にできるはずが無い。半神半人であっても、本来あり得ない事。
そもそも、実態のない魔力を喰らうなど、魔法が本文である妾が遅れを取るはずが無いのだ。
様々な疑問が産まれるとともに、ここからの窮地を奪回するための方法は、リクに声を呼びかける事しか無くなったのだが、そう考えた所で、視界の端に何かが移る。
「何じゃ?」
素早く目で追い、這う様にしてこの地を蠢く何かを目にした瞬間、更なる疑問が産まれた。
「な、なんでじゃ……なぜ貴様がここにいる!?」
それは、気持ち悪く笑みを浮かべ、赤い双眸で見つめてきた。
「ヨコセ……」
「何?」
「モット、モットヨコセ。オマエノ……チカラ……タマシイヲ」
目を見開く。
次にみたものは、赤い双眸を光らせ、大きく開けた口で丸呑みにしようとする光景だった。
「不味いッ!?」
急いでその口よりも広げようとするが黒い光が押さえつける力が強くなっており、これ以上広げられない。
「お、おのれ邪龍よッ!! 妾達を呑もうと言うつもりか!?」
「ワレ、モトヨリコノミヲヨリシロトシテイタモノ。セイチニヨリテダシデキナカッタガ、モウナイ」
「な、ならばなぜ今までしなかったのじゃ!? 二週間もの時間があったはずじゃ!」
問いに少しの間。そして、一度口を閉じ、まるで返答するかどうかで悩んだようにしたあとで、もう一度開く。
「ヨリシロガモトメナカッタ。ユエニクラワナカッタ」
ダガ……と続ける。
「イマコノミハ、モトメテイル。コロスタメノチカラヲ。ユエニ、ヨコセ。キサマノタマシイ」
結界に喰らいつかれ、ちぎられる。
「初めから、妾達が集まるのを……いや、妾が降臨されるのを待っていたと言うつもりか!?」
でなければ、こいつの言う事は、まるでリクと契約している神の様にも見受けられるからだ。リクが、こんなのと契約しているはずが無い。そう思ってこその発言だった……。
儚い夢だった。そいつは答えてほしくない答えを、答えたのだ。
「コノヨリシロハ、ワレデアリ、ワレデナイ。ノゾメバチカラヲカシ、ノゾマナケレバナニモシナイ」
「は、はは……。ここにヨルムンガルドまでいたら、それこそラグナロクでもおっぱじめるつもりかと思うのじゃ……」
視界が奴の口内で覆い尽くされた。




