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ヒスティマⅥ  作者: 長谷川 レン
第四章 闘争
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真影


「どうして……」


 ボクの耳元から、小さな、そして、綺麗な声が響いてくる。


「どうして、殺さなかったの……。大切なもの、沢山奪ってきたのに……」


 いつもの無感情な、それでいてクールな声音ではなく、明らかに人の熱が籠もった、そんな声だった。でも、聞いた事がある声だ。


「ボクは友達を迎えにきただけです。マナちゃんのお母さん、真陽さんにした事は許されない事だけど、だからこそ、白夜さんは生きて謝りに行かないといけないんです。これまで傷つけてしまった、大勢の人のために、謝って、何かしらの罰を受けないと行けないんです。それは、ボクが決める事じゃないです」


 ボクはそっと抱きしめている。顔は見えないけど、白夜はちゃんと、命があって、ボクの腕の中に居る。

 先ほどの魔法は、このフロアと視界をすべて白く埋め尽くした。だけど、白夜の命までは刈り取っていない。強大な魔力を使ったのと同時に、ボクは自分で力ずくで魔法を制御し、白夜の体を動けないぐらいまでにしかダメージを与えていない。


「だけど……リクちゃん……。そのために、右腕……」

「あー、えっと……大丈夫ですよ、これくらい。ボク、シラの加護で寒いの平気ですし」


 現状を説明するなら、白夜の体には、髪の毛には確かに茎の無い氷の華がついており、少なからず体内にも凍るはずだった場所があるのだろう。だけど、外見は無傷だし、内部も、おそらく魔力線を斬っただけで、暫く動けなくなるだろうけど、歩く事ぐらいは出来ると思われる。それほどまでに、白夜の体は無傷。

 そのかわりと言っては何だけど、ボクの服の右袖から全部は無くなっており、今のところ壊れていないシラの腕輪と、伸ばしたまま完全に凍ったボクの右腕が存在していた。寒い、と言った感覚は平気なはずなため、何か硬いものが右腕を覆っているかのような感覚はあるかと思われたのだが、なぜか、右腕の感覚は完全に無くなってしまっているのが少し怖い。自分の物じゃない、何か重い物がぶら下がっているかのような感覚だ。

 おそらく、強引に魔力を制御したために、本来白夜の命を刈り取るはずの力がルナの刀を通して、ボクの右腕に全集中してきてしまったものと考えられる。


「なぜ、そうまでしてまで私を救おうとするの。破壊神である私を……」

「言ったじゃないですか。白夜さんは白夜さんです。ボクは友達を迎えにきました。ついでに、上に居るヘレスティア王を倒すだけです」


 少し、目を見開く白夜。ボクが少し離して続ける。


「だから、白夜さんは少しの間、待っていてください。すぐに戻ってきますから。ダメですよ? もう勝手に居なくなったりしたら」


 ボクは笑って白夜に返す。もう二度となくしたくない。そんな想いが、ボクにはあった。たとえそれが、罪を持った友達でも、生きる事で罰を与えられるならば。


「…………リクちゃん、あなたは――」


 口を開いた白夜。だが、その続きは、放たれる事はなかった。

 大きく見開く瞳。それは、ボクの目だったか、いや、彼女の目だったか……。

 いつの間にか、白夜の腹部から突き出している、それは――刃だった。



「ダメじゃなぁい。まさか今更寝返る、なんて事は言わないわよねぇ?」

「……リリ、カ……」



 2つの角の生えた大鎌を持つ鬼族、名つき『|囚人〈プリズナー〉』リリカ・オーガが立っていた。

 その周りにはまるで主を守るかのように浮く黒く燃える火の球があったのにも関わらず、ボクたちは『|囚人〈プリズナー〉』の気配を感じる事が出来なかった。

 リリカは大鎌を白夜から引き抜くと、一歩二歩と下がり、そしてボクたちから数メートル距離を取る。

 ボクの腕に倒れ、抱かれている状態となった白夜はぐったりとしていて、まだ荒い息はあるが、それもいつまで持つかわからない状況へとなっていた。


「白夜さん! しっかりしてください! 〈ルナ・キュアー〉!」


 少しでも痛みと、血を止めるために回復魔法を使うが、一向に治る気配がない。


「なん……でッ! 治れ……治れ……治れ……ッ!」


 使っている魔力が足りないのか? それなら、魔力を増加させる。それでも治らない。むしろ、どんどん血が流れ出てきて、痛々しい。

 何度も、何度も治れと念じながら回復させる。ほんの少しの治らない穴に、ボクの鼓動は次第に早くなり、所々から汗が流れ出てくる。だけど……。


「……リク……ちゃん……」

「白夜さん、今すぐ治しますからね? 今すぐ……」

「……リクッ!!」

「!」


 白夜の声で、一瞬ボクの頭の中が真っ白になる。


「……リク……。……私を……殺して……」

「なッ!? そ、そんな事出来ません! 絶対、やりません!!」

「……ちが、う……。これ、は……みんなの、安全の、ため……。……神、は……殺されると……強制的、に……その人がその、神に……」


 話を聞くも、ボクは何を言っているのかいまいちわからない。

 そんな顔をしていたボクに対し、リリカが変わりに答えた。


「神様ってのはねぇ? 神様以外の生物に殺されると、強制的にその殺した生物が神様に慣れるのぉ。だ・か・ら……あんたがなってても宝の持ち腐れ。あたしが破壊神となって、かわりにこいつ等を皆殺しにしてあ・げ・る。きゃはははははは!」

「……じ、じゃあ、神様はどうなって……」

「神様ぁ? 消えるんじゃなぁい? 神様って、元々魂だけの存在のようなものだしぃ」


 消える……? 白夜が……消える……?


「あ、それとぉ。その傷。治らないわよぉ? だって、私の最高傑作の武器で傷つけられたんだからぁ。あたしを殺さない限り、出血死はか・く・じ・つ♡ きゃはははははは!!」


 傷が治らない……傷つけたリリカを殺せば治る……。

 ボクは、頭の中で数回その言葉を繰り返すと、不意に白夜を柱へと体を預けさせて立ち上がる。


「……だ、め……。リク、ちゃん……。怒りに任せてしまったら、あなたは……ごほっごほっ!! ……早く、私を……ッ」


 白夜がすがる想いでボクのバトルコートの裾を掴む。高魔力が宿っていたとはいえ、白夜との戦いで斬り傷が付き、少し凍っている部分もある。


「ごめんなさい、白夜さん、絶対に、死なせたりしませんから……」


 目を細める。頭の中はなぜかクリアだ。


 ただ1つの言葉だけが頭の中に残っているのを除いて――。



「リリカさん……」


 その手に握るは鋭い刃〈クリアブレード〉。


「貴女は……」


 頭の中で誰かの呼ぶ声がするも、聞こえず。


「貴女だけは……」


 本来ならば空白色で何も無いように見えるはずの〈クリアブレード〉は……。


「今ここで、殺します」



 ――とてもドス黒い真影へと変わり果てていた。





「いらっしゃい。神にも邪神にもなれる神の子よ」


 口端をつり上げ、その大鎌を振り上げた。


誤字、脱字あったら言ってください〜。

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