海の姉弟と病魔を操る治癒天使
レナさん視点です。
「お前ら、調子に乗るなよ! Dii Consentes! 〝ネプチューン〟!!」
カンマはそう叫ぶと、その身に数多の水を呼び寄せ、それがカンマを守るように周りに浮き始める。
さらに槍が変化し、荒々しい海水の絵柄が入り、三叉槍の先にかえしがついた。
「何よ、それ?」
「何だお前、神覚も知らないのか?」
馬鹿にしたような笑みにソウナが少しむっとしながらも表情には出さず、聞いた事は無いと正直に答えていた。
「知る訳無いわ。第一、そんなの昔の人も使ったところは見た事は無かったし」
「昔の人? 何の事を言っているのかさ……いや、ここ二ヶ月間、いなかたのはまさか【自由な白銀】に過去に飛ばされていたって感じか?」
「まぁそういう事。ほとんど強制的にだったけれどね。よく生きて帰って来れた物だと自分でも思うわ。何たって七千年前は今と比べると、本当に化け物しかいないのだから」
七千年前。わたくしが想像もできないような過去だった事は明らかだが、そんなに昔にどうして飛ばしたのだろうか。彼女らがとてつもない力を手に入れたその理由がそれなのだろうか。
「さてそれじゃあ、カンマの剣激は私がなるべく押さえるから、レナさん、お願いね」
「えぇ。まかされましたわ。行きますわよ、カイシン!!」
わたくしの言葉に従って、その手に再び現れるハープ。そして、そのハープに少し違和感を覚える。
先ほどまでの力と違う、明らかに魔力が強くなっている。
(なぜ……ですの? でも、これなら……)
なぜ魔力が増幅したのかはわからないが、それでもこれだけの力があれば、カンマのあの体に一撃を入れる事ができる。
どうやったらあの病気を治すかはわからない。第一、病気の病名すら親に聞かせてもらえなかったのだ。その親に口止めされるように、医師も話さなかった。
だから、あの病気を治す事さえ……と考えたそのとき、1つ、思い出したかのようにソウナの周りに浮かぶスフィアを見た。
「そういえばソウナさん、そのスフィア、一体……」
「ごちゃごちゃと話している暇なんて与えない!」
わたくしがソウナに声をかけるよりも早く、準備万端となったカンマの三叉が襲いかかってくる。
「レナさんには指一本触れさせる訳無いでしょ」
纏った魔力の渦を散らせながら、ソウナはその三叉の槍を防いで行く。
今は話ができる状態ではないという事みたいだ。だけど、それならば話せる状況を作る!
「行きなさい、〈螺旋槍〉!」
わたくしの声を聞き取り、ソウナはカンマの三叉を弾いて距離を取る。
しかもそのタイミングが絶妙で、跳躍した入れ替わりの様にわたくしの魔法がカンマを襲った。
「じゃまだよ!」
そう言ったカンマは槍を振り抜き、水槍を力で破り、水がカンマの体にかかる。
それを見計らってわたくしはさらに魔法を発動させた。
「〈スプリングボム〉!」
「なっ!」
飛び散ったわたくしが放った水が球体へと変化した後、すかさず爆発を引き起こす。
魔力爆弾が引き起こした爆発に、カンマはゼロ距離でのまれるも、すぐさまその場を退散。外見に傷がついているものの、周りに浮かんでいる水がすぐさま覆ったようで、大してダメージを与えられていないかもしれない。
だけどそこはチャンスとばかりにソウナが襲いかかった。
少し反応に遅れたカンマはなんとか槍で防ぐも、その槍を弾かれてソウナの蹴りが腹部へと入る。
「が、は……」
さらに追撃とばかりに回し蹴りを放ち、カンマは飛んで水が張っている中へと落ちて行く。
ザッバーン! と派手な水音を立てながら沈んだカンマに少し心配になってしまったが、一度決めた事だ。近寄る訳にはいかなかった。
「ゲホッゲホッゲホッ……。はぁ……はぁ……。クソっ」
水と一緒に吐いた血を手で拭いながら、あがってくる。
「二対一で貴方に勝ち目は無いと思うのだけれど、まだやるの?」
「悪いね……。僕はお前らみたいに仲良しごっこなんてごめんだからさ」
「そう。じゃあもう私からは何も言わないわ。レナさん、ちょっとオーバーアタックしてしまうかもしれないけど、許して」
「えぇ。わかりましたわ」
カンマの頑固さにわたくしはまた新しい発見をしたと思う反面、これで諦めてくれれば、なんて思ったりもしていたので、苦い思いをしていた。
だけど、さすがにそうも言っていられず、カンマはソウナに対しては分が悪いと感じたのか、先にこちらへと攻撃を仕掛けてくる。
「〈レインレーザー〉!」
「〈ウォーターランス〉!」
直線的に飛んできて圧縮された数本に分かれた水を大きく横へと回避するとともに、魔法を放った。
カンマはその魔法を避ける事をせず、槍を振るう事で弾き、弾いた魔法の奥から出てきたソウナに驚いて急いで槍を戻すも……。
「〈パラライズミスト〉」
「グッ!?」
黄色い霧がすぐさま充満されたかと思うと、カンマの体が動かなくなった。
手に持っている三叉槍を落とし、まるで石になってしまったかのように動いていない。
「さ、レナさん。とどめは任せたわ」
「はい。有り難うございますわ」
「――ッ!」
わたくしは、最後の攻撃を譲ってくれた事に感謝しつつ、魔法を放った。
「〈ヴォルテックプリズン〉!!」
★★★★★★★★★★
「はぁ……はぁ……」
水の檻へと閉じ込められ、攻撃されたカンマは意識を失い、浴槽の脇へと上半身をのせて倒れてしまった。
そんなカンマの元へと近づき、カンマの頬に触れる。
「さて、早く昇らなければ行けないし、その子は後から来た人たちに任せて、行くわよ、レナさん」
ソウナのそんな声を聞き、慌てて行こうとするも、一声だけかけておく。
「カンマ……貴方の病気は必ず治しますわ。だから……あまり世界を恨まないでくださいまし。だって、わたくしにとっても、カンマは大切な弟なのですから」
声は聞こえていないだろうと思いつつ、それでもわたくしはそう声をかける。
立ち上がり、なるべく早く上の階へと昇ろうとする前に、ソウナの後を追って行った。
カンマの病気がどこまで進んでいるかわからない以上、なるべく早くこの件は片付け、専門医に見せたりしなくては行けない。
わたくしは焦る気持ちで、走るスピードが早くなる。
――ソウナに、こんな事を言われるまで。
「あ、そういえば。レナさんの弟の病気。あれ、私が貰ってしまっても言いかしら?」
「…………え?」
唖然とするわたくしに、ソウナはすました顔で階段を上がって行く。
「といっても、もう貰ってしまったのだけれど。だから、もうあの子が世界を壊そうとする必要は無いわ。進行していた病気も元通りなのだから。皮膚だって普通の人間と大して変わらないわ。少し黒ずんだ痣は残ってしまったけれど、病気の進行上、仕方ないもの」
治した……? あれを……? 一目見ただけで……?
「い……一体、貰ったって、どうやって……ですの……?」
「そんなの、メルム使えばいくらでもできるわ」
足をつい止めてしまったわたくしに、ソウナは振り返る。
「何を足を止めているの? リク君達が先に行っているんだから、早く行くわよ?」
そういって先に進むソウナに……。
「カンマは助かる……? 大きな事も無く、簡単に病気を取り除く事ができるなんて……。わたくし、なんと……なんとお礼を言ったらいいんですの……?」
滲んだ視界の先を見据えながら、一歩一歩と、階段を上って行った。




