思い出すのが遅い!
三階、四階は特に何も無く、ただ部屋があるだけで一応中を見てみたが誰もおらず、物すらなかったのでほとんど素通りする形で上へと昇って来た。
五階は一番奥の部屋は食堂がある所だったが、そこにも誰も居なかった。ただ、人では無い者はいたので斬り伏せたが。
「まったく、何よこいつら~」
「エンジェルスソードが反応してるから幻魔、だと思います」
人の形を保とうとスライムのような黒い物体が形をなすが簡単に斬れて、だけどそれだけだとまだ死ななくて。
全然この幻魔の事が分からない。
しかし、一つだけ言える事がある。
――この幻魔を操る悪魔は、少なくとも上級悪魔以上の悪魔だ。
と、ルナがいっていた。
「ねぇルナ。こんな幻魔を操る悪魔、わからない?」
『そう言われてものぅ。おそらく、記憶があっても妾じゃ分からんと思うぞ?』
「そっか……」
ボクはそう答え、悪魔の事よりもルナの記憶と言う発言に考えてしまった。
昔のルナに会う事は出来た。だけどボクが契約した時はボクの事を知らなかった。だからたぶんルナはボクがこっちに返ってから向こうで何かあったのではないかと考えた。
今更ながら昔のルナを見て入れば記憶の事で何かわかったのではないかと思ったが、そんな素振りも見せなかったし、ましてやユミがルナの記憶を封印する理由も見当たらないし、さっぱりだ。
「ルナ。昔の事で何か思い出した?」
『思い出すと言われてものぅ。ここまで来てもさっぱりじゃな。それよりもリク。妾の事よりも早く階段を昇ったらどうじゃ?』
「え? でもどこに……」
『ほれ』
ルナが言うと同時、前を歩いていたレナは振り向いた。
「わたくしが知っている階段はここまでですわ。五階以上は行った事ないですの」
レナの後ろには上に上がる階段があり、上からは浄化されたこの階と違い、禍々しい魔力が漏れて来ていた。
少しずつその魔力が強くなっている事を考えると、確実に近づいている事はわかっている。
もしかしたら、ヘレスティア王事態が悪魔なのかもしれない。ただの王じゃないとだけはわかっているから。
ボクは上の階へと走ってあがって行くと、その途中にも幻魔が出てくる。
今まではそれぞれの階に徘徊しているだけであったのに、階段に現れてくるなんて、まるで行く手を遮っているように見える。
これ以上先にこられると困るという事だろうか。
「〈二の太刀 雪麗〉!」
魔力を込めたルナの刀で切り払い、形が元に戻れないくらいに連続して切り捨てる。
おかげでほぼ一瞬で元の形を保てなくなった幻魔がその場に崩れ落ち、残りの幻魔も同じように崩れ落ちた。
「ねぇルナ。幻魔って倒しても倒しても生み出す悪魔がいる限り無制限に出てくるんだよね?」
『まぁそうじゃろうな。ただ、操れるだけの上限は決められておるが』
初級悪魔は250体。そこから500体。750体となっている。ただ、さらにその上がいるようで、邪神級悪魔は1000体は呼び出せるようだ。さらに階級があがる事で幻魔の力もあがるようだから怖い。
だけど、それは上限であり、幻魔が減ればまた新たに作る事ができる。
だから無限に出てくる。数えるのも嫌になる。
上がりながら倒していく幻魔をよそに、ようやく六階までたどり着いた。だけどそこも部屋になっていて、七階、八階、九階とすべて部屋が続いていた。十階までたどり着くと、そこはボクたちが過去に行ったときの風呂場に出てくる。さすがに外に階段があったが、そこも何もないように感じて、ボクたちはすぐそこにあった上への階段に足を向けた時だった。
『りく! うしろからきます!』
脳内にシラの言葉が響き、とっさに後ろへと振り向く。
すると、一番後ろを歩いていたレナに、今にも水が覆い被さりそうなほど近くに迫ってきていた。
「!? レナさん後ろ!」
「後ろ、ですの?」
そうしてレナが振り向いた瞬間に、水がレナへと覆い被さった。
「レナさん!?」
「な、音がしなかったなんて!?」
「レナさん大丈夫!?」
水が覆い被さった後も、まだボクたちを襲おうと迫ってくるが、その前に水は停止された。
何の事がわからないと口にする前に、ボクたちはその理由に至った。
「い、きなり攻撃するなんて卑怯ですわ!! 〈レインガード〉!」
ザ、バーン!! まるで海が岩岸にぶつかったときのような音を残し、水が割れてボクたちにあたる事なく左右に流れた。
「後ろにいたのがわたくしでよかったですわ……。一体誰ですの!?」
多分、マナが一番後ろにいたら少し危険な事になっていたのかもしれない。
それは別として、水がきたのは浴槽の方だったはずだ。どちらからもきたところを見ると敵は二人、もしくは今は男湯と女湯の仕切りがなくなっているのか。
「水属性だとすると……マナちゃんは上に行くのは決定ね」
「さすがにここにきてまで水使いと戦いたくないからね~。了解~」
レナと一度戦っているし、そのときに相当魔力を使ったはずだから温存するためにマナは上へと向かう事になる。
そうしていると、もう一度奥の方から大量の水が襲ってくるのに対し、レナがその間へと割って入った。
「はっ!」
手をふるう事によって、先ほどぶつかり合った水が意思を持つかのように動き出して襲ってきた水を止める。
同じ量の魔力を流していたからか、水はぶつかり合った後にその場に水溜りを作るだけでそれ以上は襲ってこない。
それよりも、レナが何の魔法の発動もなしに水を操った事に少し驚く。
「レナさん、いつ魔法を使ったんですか?」
「あぁ、これは別に使っていませんわ。カイシンと契約した恩恵ですの」
そ、そんな事が!?
ボクの場合はそんな恩恵な――くはなかった。
(そういえばソメの恩恵って状態異常ならないのと風を操るんだった)
『私の能力忘れられてたなんて……。さすがに堪えます』
放置は嬉しいのに忘れられるのはダメらしい。一体どういう基準なのかわからないが、とりあえず第二撃目がくる前に早く階段を上り始めようとする。
「水使い相手ならばわたくしは有利ですわ。お三方は先に」
「いえ、ソウナさん、レナさん一人だと大変かもしれないのでお願いします」
「えぇ、まかされたわ」
「一人でも十分いけると思いますのに……」
「レナさん、慢心はだめよ?」
この階の事を二人に任せて、ボクたちは先を急ごうとして階段を駆け上がっていった。
それからしばらく上がって行って、次の階に到着すると、唐突にマナがしゃべりだした。
「ねぇリクちゃん」
「?」
話しかけられたボクは足を止めてマナに振り返る。マナは真剣な表情になって考え込んでおり、何か思うところがあるようだ。
「今思い出したんだけど、レナさんって弟いるの?」
弟? それな確か、シーヘルさんのお見舞いに行ったときに、レナが車椅子を引いていて、それに座っている子が弟だとか言わなかっただろうか。
「えぇ、レナさんの弟はいますよ? なんだか、不治の病とかで、病院にずっといましたから」
「名前は?」
「確か……か……かん……」
「カンマ・ルクセル」
「そうです! それ……って、なんで知ってるんですか? あ、マナちゃんもあった事が?」
それだったら、あの子の冗談とかも聞いたのかな? カンマは結構人をからかうのが好きかもしれないし。ボクの時はやられたから――
「これ言ってなかったと思うんだけど。【死海】とウチ戦ったとき、あいつは自分の名前をカンマ・ルクセルって名乗ったの」
――え?
「そ、それってどういう……」
「戦ってる最中もウチの事を知っているみたいだったし、レナさんのところには風香っていう前例もいた訳だから、もしかすると……なんて思って。病院にいたって言うのは、まさかとは思うけど演技なんじゃないかな。何かしらの魔法を使って、欺いていたとしか……」
それじゃあ、さっきの水の攻撃はカンマからの攻撃?
だとしたら……。
「マナちゃん、今すぐに戻りましょう! もし本当に攻撃してきたのがカンマ君だったとすると、レナさんがどうなるかわかりません!」
「あぁ、もう! なんでもっと早くに思い出さなかったのよウチ!!」
そう言い、ボクたちは今の階に背を向けて走り出そうとしたその時だった。
後方から無数の何かがいきなり飛んでくる。だがよく感じ取るとそれは魔法ではない事がわかる。
しかもそれは、ボクを狙っているというよりも……。
「マナちゃん! 避けて!!」
「!?」
顔だけ後ろを振り向いたマナが緊急回避をとって、低く飛んでいた空中から床へと投げ出されるようになる。
「ぁう!」
あまりに急だったために受け身もとれず、少し転がってしまうが飛んできた何かはマナの向こう側、つまり階段の方へと飛んで行き、まるで塞ぐかのように突き刺さった。
「これは……?」
ボクの目には無数の魔力粒子が浮かんでおり、触れては行けない物と見てわかる。ルナを使えば簡単に解けるかもしれないけど、量が半端ではないのでむやみやたらと斬る事ができない。
「誰よ! いきなりウチを攻撃したと見せかけて階段を塞いだバカは!?」
マナは起き上がり様にそう言うと、暗かったこの廊下にすべてロウソクが灯り始めた。
すると、この廊下は既に朽ちており、所々穴が開いて中の部屋まで見れるが、いろんな柱や穴の開いていない部分で死角ができ、あまり見通しのいい階だとは言えない。
そんな中で、廊下のずっと向こう側にいたのは一人の人間。その手には大きな弓を握っており、今にも矢を放ちそうな感じだ。
「久しぶりだなぁ、篠桜マナぁ!!」
「げぇ! あんたは!?」
そしてどうやら、マナはあった事があるらしかった。
かなり嫌な顔をしているが。




