二ヵ月後の帰還
もはや俺から怯えて逃げている兵士を蹴散らしながら、俺は自分の家に向かう。
たまに恐怖に勝って攻撃してくる奴が居るけど俺から半径5mに張られている〈爆雷陣〉によって瞬殺。もとい、気絶させている。ライコウ侵略時にあれだけの力を見せておきながら今では雑魚しか居ないとは、何とも期待はずれなものか。少しぐらいはこの〈爆雷陣〉を耐えるような奴はいないのだろうか。
進むうえで名付きも一応捜してはいたが誰一人としていなかった。まさかとは思うが全員塔に籠っているのか? それはそれで面白そうだが、一対多でこちらが多くなると面倒なのでリク達は先に行かせるか。
塔の中で暴れて壁が壊れなければ良いが。
「っと、ここらか」
『あ~あ。誰も相手してくれなくなってきたな~』
ミカヅチがまるで暇だと言わんばかりにのんきに言って来た。だけどそれも仕方ない。
全ての兵士は俺の姿を見るなり逃げるような奴らばかりで襲ってすら来なくなった所で丁度俺の家の近くまで来た。後は何も無い道を進めば良いだけだ。とは言うのも、俺の家の周りはオヤジの結界が張られており、中にいる人の魔力、景色、道など全てが認識阻害され、その場に何も無いかのように見える。もしくは、俺が味方だと思っている人も入れる。
それ以外はただの空き地に足を踏み入れている感覚しかない。
さすがに名付きやヘレスティア王にはバレるのではないかと思うが、あいつらがここら辺に興味無ければヘレスティア兵では見つける事は出来ないから大丈夫だとは思うが。
「攻められたときに名付きが此処を通った可能性を捨てきれないしな」
『だけど、見た所結界が破壊されていないから大丈夫なんじゃないか?』
「たぶん、な。まぁ一応だ」
家が壊れてたらどうしようか。被害届けはロピアルズに出せばいいのか?
「ともかく、進むか。周りに居るか?」
『いんや? 今の所誰も敵いないよ』
誰もいない事をミカヅチと一緒に確認した俺は何も無い空き地のような場所に足を踏み入れると波紋が広がりその奥へと進んだ。そこでもう、外から見れば姿は消えている。
俺の視界に広がったのは少し遠くに見えるそれなりに大きな家だ。一人で住むには大きすぎるが。
そして、その家のカーテンは閉められているが特に壊れた様子は見当たらない。
「とりあえず第一関門突破だな」
『後は、居るかどうか、か?』
「だな」
電気はつけられていないので人がいるかどうかは分からない。この状況だからつけないのは当たり前だが。見えなくとも、もし万が一結界を壊されたら家に誰かいる事がまるわかりだ。
足を踏み出し、とりあえずその家の前まで行き、玄関の扉を開ける。
もちろん鍵が掛けられているけど、俺が元々スペアの一つを持ってるし、難なく鍵を開けて入る。
中を見ると埃は無く、毎日欠かせずに掃除がされていた形跡が残されている。
誰かしらが掃除をしていたに違いが無い。
「クハハハッ。やっぱこっちに居やがった」
俺がそう声を漏らした時だった。ふと、廊下の曲がり角から、人影が出てきた。その人影は、俺が予想していた通りの人物だ。
相手は警戒心マックスだったが、背後の戦争の明かりに照らされた俺の姿を見てか、すぐにその警戒心を解いた。
「お帰りなさいませご主人様」
もはや家に帰って来る時の定番。弦がメイドの姿で綺麗な礼をして立っていた。その手には護身のサバイバルナイフが雷を帯びて握られていた。すでに刃はしまわれて手の内に隠しているが、女になって掌が小さいのでイーグルダガーの端が見えている。
「久しぶりだな、弦。ショウで姿を見なかったからまさか家に居やしないだろうなと思ったが、大正解だったみたいだな」
「留守番を頼む、と言われたからな」
そんやそうだっけ? あの時は結界の外で何やら騒がしかったからまた外に出るとか言って留守番を頼んだったんだっけ。
「ンなの守んなくてもショウに逃げりゃよかったじゃねぇか」
「留守番しか頼まれなかったからな。それに、逃げるならちゃんと留守番以外にも命令してくれないと、ヒスティマは許してくれないみたいだ」
「ん? そうなのか?」
「あぁ。ご主人が出て行ったあと、心配だったからついていこうとしたら結界から外に出られなかったからな」
命令は絶対、か。まぁでもここは結界で襲われていなかったから結果オーライか。
「ンじゃ、まだ留守番頼むか。せめてあの塔が無くなるまではな」
「あの塔か。そういえば、あの塔の事、何か知っているのか?」
「ん? あぁ。お前ずっと中に居たんだよな? それだったら、あの塔についても知らないか」
俺はそういうと、不思議な顔をしている弦にあの塔について知っている事を教えた。
本人は驚いたような顔をしていたが、最終的には納得してくれたみたいだ。
「それなら、早めに消した方がいいな」
「あぁ。まぁ壊したら明らかにヤベェだろうが……」
それ以前に壊れるかどうか心配だとそう思ったのと同時、部屋に入った時不思議と疑問を感じた。
「…………なぁ弦」
「何か?」
俺はリビングにあるまだ繋がっているらしい水道水の隣にある食器置き場。そこに、片付け途中なのか、コップや食器などが複数枚置いてあった。
「さっきまで誰か来てたのか? これは、夕食の時に使った皿か? お前、女になってからそんなに食わなくなったって言ってたよな?」
「ああ。つい先ほどまで。南に炎が上がったのと同時、外に出て行ったが」
「誰だ? お前以外に居るとしたら、ヘレスティアの野郎しか思い浮かばなかったが。名付きか? それにしても、ここが残っているとしたら、白夜しかいねぇが」
「いや。ヘレスティアでも、白夜でも無かったが、ご主人もよく知っている人だ」
「誰だ?」
知っている人物で部屋に上がる事の出来る人。まさかレナか? もしくはアキか? あいつ等ならこの場所を知っていて、結界の中に入ってこれる。そういえば二人ともショウで姿を見れなかったな。ずっとこの国に居たのか?
そう考えるも、俺は弦の答えを待った。
そして弦が口を開いたのと同時、部屋の奥から一人の気配を感じた。
「おい弦。一体誰と話し……て……」
奥から顔を見せた人物。その人物に、俺は驚きを隠せなかった。
ショウに居なかったと言えば居なかった。だけど、ソウナやリクから聞いた話しじゃ、確かこいつは……。




