作戦開始
しっかりと耳に通信できるインターカムを装着し、トントンと叩いても、ジャンプしても外れない事を確認した所でボクは変わり果てたライコウの国を見ていた。
ボロボロとなっている城壁、所々崩れているがその穴の奥にある街の状況も非常に悪かった。少しの余波を受けただけでも家が崩れてしまうなんて建物もあるだろうと安易に予想できる。
「リクちゃん♪ インカムはバッチリ?」
「はい。少し動きづらいけど簡単にカバーできる位ですから。ただ、ずっとしていると少し忘れそうなくらいの認識阻害魔法が掛かっているからボクから外そうと思わない限り外れたら外れた事を知らないでいそうな気がしますけど」
「む……それは困るわね。少し改善する必要があるわ♪ ……としてもどうしようかしら? ケオズはもう亡くなってしまったし……」
「え? ケオズさんが?」
ケオズと言えば魔法研究会にお世話になった人ではないか。とても不気味で、神出鬼没だ。だからこそ死んだなんて思えなかったのだが……。
「ええ。黒騎士にサクッと、ね」
語尾に音符が無い所を見ると悔しいんだろう。言葉は軽そうに思えるけど声は違う。長年母親の息子をしていたボクや、ユウだったらこの差が良くわかると思う。
「母さん。母さんは何故この作戦に? ジーダス以来です、よね?」
「失礼ね~♪ 母さんはいつでも忙しく駆けまわってるのよ♪」
「主にルーガさんに追われてですか?」
「グサッ! い、以外と鋭い所をついてくるのね……。さすが私の娘だわ……」
「だから息子ですってば! ボクは男です!」
「最近女の子に慣れつつある?」
「な――ッ!? そ、そんなことありません!! ボクは男です! 何としても男なんです!!」
(((緊張感のない親子だなぁ……)))
ボクと母さんがそう二人で言い争っている間、緊張で体をこわばらせていたロピアルズ会は全員が呆れた顔で体をやわらげて行った。
「さて、リクちゃんの性別は女の子として置いておいて――」
「置いとかないでください!!」
「――変ね。そろそろ南に向かった軍が花火を鳴らしても良いと思うのだけど」
そう言えば、ボク達が此処についてから軽く四時間は立っている。決行である二十四時から数分経過している。だからもう爆発音が響いてきても良い頃の話なのではあるのだが。
「ミュアちゃん。通信の方は?」
「それが、東や西の方は通信が取れるのですが、南の場所までは距離が届かず。やむなく東と西に訊いてみた所、南はまだついていないと言う所」
「まだつかない? まぁ数分だったらまだ誤差で大丈夫だけど……。待機していればしているほどバレる危険性が高くなってくると言うのにね♪」
南へと向かったのは確か……マナとアラレウンド軍、そしてロースクルス軍ではなかっただろうか。ロースクルス軍はともかく、アラレウンド軍もマナもいるからつけるとは思うのだが。
と、その時になってようやく派手な爆発音が聞こえてきた。夜だと言うのに反対側の景色が夕焼け色に染まり上がり、火柱が天高く燃え上がっている。
――マナの〈火炎旋風〉で間違いない。
先ほど思ったことは杞憂だっただろうか。そんなふうに思いつつも、作戦が実行されたのでボクは地面を蹴った。
「先に行かせてもらいます! 〈神速〉」
ボクがその場から魔法を発動し、すぐさまライコウの城壁へと迫って行く。門は閉まっているが――。
「なんだ!?」「待て、こっちにも敵が!?」「こんな奴居たか!?」
「〈六の太刀 月刺氷破〉!」
激しい金属音の音が鳴り響き、ルナの刀の先が門の丁度中心に突き立つ。
しばらくそのままでいると……時間差で門がひとりでに崩壊していった。
「「「…………は?」」」
「ごめんなさい!」
ボクは城壁の上で門が一瞬で崩壊した事で呆けていた騎士を斬って気絶させると、すぐさま塔へと向かって走り出し始めた。
「…………いや、何で門壊せんのさ」「あの門ってあれだろ? 誰も壊せなかったから何年も残ってるあれだろ?」「俺もリクちゃんにアタックされたい……」
「はいはい♪ バカな事やって無いで私達は掃討作戦と出るわよ♪」
「「「ハッ」」」
後ろに置いてきた母さんやロピアルズの人達がどんどん遠くへと離れて行き、ボクはすれ違うヘレスティアの兵士をどんどん無力化していく。
ある者は気づかれる前に斬り、ある者は気づかれても剣を抜く暇を与えず、またある者は剣を振るってきても軽く避けて斬り裂いた。とは言っても全て峰でやっている事であり、死ぬ事は無いが全員白目をむいて気絶している。後から来るロピアルズの人達に任せようと考え、ボクは真っ直ぐ塔に向かって進んでいった。
「なんだあいつは!?」「まるで俺達なんて眼中に無いみたいに進んでやがる! 止めろ!」「是非結婚してくぶべらっ!?」
本来の〈神速〉の半分しか魔力を込めていないとはいえ、普通の兵士なら見えない速度で移動しているにもかかわらずヘレスティアの兵士はボクの姿を捉えてくる。ただの兵士ではない事は重々承知だったが、たまにボクの振るうルナを受ける人がいるのは正直驚いた。
だけど受け止めればボクはもう片方のツキで通りぬきざまに斬り裂いていく。どちらの神具なので死ぬ事は無いし、致命傷の場所を斬ったって血が流れないから便利だ。殺意させなければ神具は人を殺す事は無い。体をすり抜けたみたいになって精神を削られて気絶していくだけだ。
(このままなら塔まで数分で着くかな)
通りはほとんど兵士だと思うと、ボクは少しだけ〈神速〉に入れる魔力を込めた。
――と、その時。
「〈デッドエナジー〉」
「ッ!」
ボクはすぐさま目の前の地面から右へと避けて、魔法が放たれたコンクリートを見る。コンクリートは腐敗した様に溶け、異臭が漂って来た。
もしかしてと思い。いや、もしかしなくてもあの人だと思ってボクは魔法が放たれた方に目を向けた。
「…………久しぶりなのね」
案の定。ボクが目を向けた先。家の屋根の上には桜花魔法学校に一緒に通っていたはずのネイ組の少女。【腐敗花】の鏡詩ハナが居た。




