番外編:梟雄の意地2
更新が遅れました!!
どうも曹操の立場は私的に難しい感じです。
乱世の英雄でもある為か、どうも好色丸出しが否めず他のキャラみたいに描けないのが何とも・・・・・・・
とは言え書き続けます!!
明かりも殆ど灯されていない陣を一人の男が歩いていた。
その男は片眼に布を巻いてボロボロの鎧を纏った壮年の男である。
「・・・・・・・」
男は陣の中を歩くが、呻き声や諦観の声が絶えず聞こえてきた。
『・・・・・急いで本国に帰らんと厄介だな』
ここまで士気が低下していると行軍の大きな障害となる。
かと言って「切り捨て」を行えば・・・・いや、これ以上の切り捨てを行えば脱落者は想像以上に増えるだろう。
そこを考えると何としてでも本国に帰らなくてはならない。
それも急いで・・・・・・・・
ズキッ・・・・・・・・
男は布を巻いた眼が痛むのか、手を添えた。
『糞っ・・・・・この世に生を与えてくれた方---両親から与えられた身体の一部を失うとは!!』
歯軋りしながら男は布に当てた手に力を込める。
彼からすれば五体とは、両親という創造主が与えてくれた代物であり一部でも失うのは罪悪なのだろう。
とは言え戦に出て五体満足で居られるのは相当な幸運と実力を持っていても厳しい。
しかも、彼は急所である眼をやられたのに生き延びているのだから寧ろ「不幸中の幸い」とも言えるが、それが彼にとっては屈辱でもあった。
『おのれぇ・・・・・呂布が。よくも両親から与えられ、武人として大事な眼を!!』
ギリギリと男は憎悪の炎を胸に宿し、そして燃え上がらせたが・・・・・ふと背後から気配を感じて残っている眼で振り返る。
背後に立っていたのは自分より数歳ほど年下で、やや小太りな体格をした男だった。
「惇兄・・・・・大丈夫か?」
男は自分の名を略し、兄と付け足して問い掛ける。
「・・・・あぁ、何とかな。それより何用だ?」
「いや、兵達の疲労も溜まってきて・・・・・また、脱落者が出たんだよ」
これを聞いて先ほど危惧した予想が現実と化した・・・・・と男は頭を痛ませたが、それも一瞬の事で直ぐに問い掛けた。
「・・・・・残っている兵はどれ位だ?」
「ざっと軽く見積もっても最初より半分も居ない」
今後も更に増えるだろうと背後から来た男---従弟は言い、隻眼の男は嘆息した。
「仕方ないな・・・・負け戦の将に付き従える兵は少ない」
いつ追っ手が来るか分からない恐怖と、本当に仕え続けて良いのかという疑問・・・・・・・・・
様々な負の感情が高まれば兵達は反乱か、逃亡を企てるものだ。
「ちくしょうめぇ・・・・・・呂布が殿を務めているなんて、予想外だったぜ」
「いや、お前のせいじゃない。どちらかと言えば・・・・・・孟徳の油断だ。しかし、もう過ぎ去った出来事を何時までも引き摺るな。問題はこれからだ」
隻眼の男は先程、丘の上に居た従兄弟であり上司でもある男との話を従弟に伝えた。
「・・・・・じゃあ、間者を送り長安を監視させつつ、“虎”と“龍”を監視させるんだな?」
「あぁ。孟徳から言わせれば袁紹と袁術より虎と龍が脅威に映るようだからな」
「確かに言えてるけどよ・・・・・信じられるか?」
「何を?」
従弟の問いに何となく察しながらも隻眼の男は敢えて問い掛ける。
「俺等が見た、あの娘---織星夜姫様が本当は天の姫じゃないって事だよ」
「・・・・・・・・」
従弟の言葉に隻眼の男は無言となるが、それは一瞬だった。
「・・・・天の姫、ではないだろう」
隻眼の男は連合軍が健在だった頃に行われた宴で会った、あの麗しくもあり、それでいて破壊してしまいたい衝動を駆り立てながらも・・・・・護りたいという保護欲をそそらせる娘を思い出した。
その娘こそ天の姫と称され、自分と従弟が仕える男が欲する人物---織星夜姫その人である。
先ほどの情報で彼女は天の姫ではないと分かったが、そうではなく隻眼の男は夜姫が天の姫ではないと薄々・・・・・思っていた。
「・・・・・“妙才”よ。お前は、どう思う?」
あの織星夜姫なる娘を・・・・・・・・・・・・
「まぁ、見た目は言う事なしの美人で、性格も大人しいように見えて頑固そうに見えた。後は、異常なまでに俺等の殿を恐がっていた・・・・か?」
「あぁ、そうだな。しかし、天の姫かと聞かれたらどうだ?」
「・・・・違う、な」
妙才と呼ばれた小太りの従弟は暫し間を置いた後に答えたが、些か疑問を抱いているような節があった。
それは天の姫と言うには・・・・・・些か雰囲気が違う。
「少なくとも俺が思う天の姫とは、もっとこう・・・・・清流みたいな雰囲気がある」
ところが織星夜姫からは・・・・・・・・・
「清流が少し汚れたような・・・・・なんつうか、妖しさも感じられた」
「だろうな。俺も似たような気を感じた」
小太りの従弟が頭を捻って出した言葉に隻眼の男も同意する。
「あの娘の気は天とは似ているようで違う。妖しさも備えているが、天以上に・・・・・・我々---地上の者を魅了する」
そんな気を彼の娘は持っていた。
「だから天の姫ではない・・・・だろう。そして孟徳を恐れていたのも奴の野望が見えたからだろう。そして自分を抱きたいと願う念も、な」
あの手の女は男の本心を見抜く力を持っていると隻眼の男は言い、妙才という字を持つ従弟は嘆息した。
「正直な話・・・・・あの娘を殿に抱かせたくないな」
「何故だ?少なくとも孟徳の命には従うだろ?」
自分みたいにズケズケと言いたい事は言わず、言葉を選び控え目に従弟は主人に讒言を行う事を隻眼の男は知っていたから疑問に思い問うた。
「まぁ、何て言うか・・・・・あそこまで露骨に怯えている娘を殿の前に出すのは、男として嫌です。それに・・・・どうせなら自分が・・・・・・って思っちまうんです」
「ほぉ、色恋沙汰には然して興味を示さなかった貴様の口からそんな台詞が出るとは・・・・・・・・」
「良いじゃないですか。というか俺だって男ですよ?色恋沙汰には興味があります」
「なるほど。では、改めて問うが・・・・・あの娘を孟徳に渡すか?」
「・・・・やれます」
従弟は問いに少し間を置きこそすれハッキリと答えた。
「確かに、あの娘を殿に渡すのは気が引けますが、それは俺自身の考えです。だから・・・・曹孟徳に仕える“夏侯淵”の気持ちではありません」
従弟は己が名を名乗る事により公私は切り離していると断じた。
「そうか・・・・なら良い。俺も・・・・夏候惇である曹孟徳に仕える“公”と、元譲である“私”は切り離しているからな」
「やはり、そうですか・・・・・」
夏侯淵は隻眼となった従兄弟にして、曹孟徳の片腕とも目されている夏候惇元譲を見て頷いた。
この男は幼い頃から公私に厳格だったが、どうやら女の扱いに関しても・・・・・・公私は分けているようだ。
しかし、それは多少ながらも想像は出来た事であるし、己も同じだから問題ではない。
ただ、あるとすれば・・・・・・・・
「夜姫様を殿の所へ連れて行っても・・・・・あの様子では話すら出来ないでしょうね」
「だろうな。そして本国へ帰れば孟徳の子息と・・・・・・“能ある鷹”も居る」
その上で癖の強い臣下も大勢いる事を考えれば・・・・・・・・・・・・・
「少なくとも俺達が傍に居なければならん」
「はぁ・・・・・本当に殿に仕えると気苦労が絶えませんね?」
「何を今さら・・・・・・まぁ、言っている事は正しいがな」
そう言って夏候惇は夏侯淵と別れ、何処かへ去って行ったが・・・・・・・その2人の様子を何処までも月が静かに見下ろしていた。
月は天よりも上の存在で地上を見下ろすが、そこに決して声も手も出さない。
しかし、2人を照らす光だけは・・・・・・・・