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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
152/155

番外編:梟雄の意地

更新が遅れました!


今回は曹操の話になります!!

遠く長安から離れた何処とも知れぬ場所にある丘で一人の男が立っていた。


その男は身形が良かったのだろうか・・・・・・ボロボロの衣服だというのに立派な剣を装備している。


いや、衣服も最初は立派だったが、敗軍の将ゆえに・・・・・・ボロボロとなったのだ。


「・・・・・・・・・」


男は丘から何を見ているのか分からないが・・・・・ふと微苦笑する。


それは己に対する嘲笑だった。


「読みを間違えたな・・・・・・・・」


自分の両手が震えるのを見て男は力強く握り黙らせようと試みるが・・・・一向に止まらない。


それもそうだろう。


何せ・・・・・・自分は、死に掛けたのだからな。


洛陽において逃げる董卓軍を背後から追撃しようとしたが、逆に待ち伏せされる形で迎撃されたのである。


飛将と謳われた董卓の養子である呂布に・・・・・・・・・


あの男と五原騎兵団によって散々に自軍はやられてしまい、何とか這う這うの体で逃げる事には成功したが大勢の将兵が死んだ。


「・・・・“乱世の梟雄”が聞いて呆れる」


かつて自分を評した者の言葉を口にしながら男は自嘲し続けた。


そうする事でしか己を慰められないし、また再起を促せないのだろう。


「ここに居たのか・・・・・・・・・」


男の背後から声を掛ける者が現れ、男は首を僅かに動かして背後に立つ者を見た。


その者は男より少し歳が離れているが、左眼に白い包帯を巻いており如何にもと思わせる風貌をしている。


「ああ、ここが・・・・気に入って、な」


「ふっ・・・・・相変わらず貴様は高い所を好むな」


隻眼の男は丘から何かを見る従兄弟に微苦笑せずにはいられなかった。


昔から従兄弟は高い場所を好み、それに自分も従兄弟も付き合わされたものだが・・・・・大人になっても変わっていない。


とは言え・・・・・・・・・


「散々な眼に遭ったな?」


「あぁ・・・・どれだけ将兵が犠牲になった事か」


男は重い息を吐いたが、直ぐに気を引き締めるように眼を鋭くさせた。


「して・・・・・勝敗は?」


「連合軍の・・・・・勝利だ」


隻眼の男は戦の勝敗を簡潔に伝えるが従兄弟であり主人である男は「そうか」とだけ相槌を打った。


「やはり・・・・・連合軍の勝利か。恐らく呂布が寝返ったのだろ?」


「いや、そうじゃない。寧ろ逆だ」


「逆?」


男は隻眼の男の言葉に反応し始めて身体を向けた。


年齢は壮年で背は余り高くないが、顔立ちは悪くなく品性も感じられるが・・・・・大きな野望を胸に抱いているように見えた。


「呂布は董卓を殺し、長安を牛耳ろうとした。しかし、董卓は生きて、連合軍と呂布軍の三つ巴の戦いを行った」


「そして連合軍は両軍に勝った訳・・・・か。なるほど。流石は天の姫を味方にしただけあるな」


「残念だが、お前が執着している蝶は・・・・・天の姫じゃない」


「何と?」


再び隻眼の男に己の答えを否定されて男は眼を丸くする。


「くくくく・・・・久し振りに見たぞ。お前が俺の言葉に驚く顔を」


「ふん。悪かったな。して蝶が天の姫ではないとは?」


「どうやら貴様が執着する蝶は偽者のようだ。そして本当の天の姫は、長安に居るとの事だ」


「・・・・・どう思う?」


隻眼の男に神妙な顔で男は問いを投げるが、己自身の中では些か腑に落ちない点があった。


『あの蝶が偽者とすれば・・・・何故に連合軍は味方した?』


寧ろ自分達を騙したと思い、想像を絶するやり方で処刑するだろう。


それなのに本物に従わない理由が分からない。


「これは未確認だが・・・・・長安に居る本物は、呂布軍を侍らせているとの事だ」


「・・・・・・・・」


この言葉を聞いて男は更に顔を神妙にした。


呂布を侍らせている・・・・・・・・・・


「・・・・戦を行うならば呂布と、五原騎兵団は問題ないな。しかし、人間として見ればどうであろうな?」


「俺自身の意見を言わせてもらえるなら・・・・人を見る眼が無い。あの男は過去に何度も裏切りを重ねたような奴だ。董卓を裏切ったのも文官辺りの入れ知恵だろうな」


「そうであろう。しかし、董卓とは出身地が違うからな・・・・・恐らく将兵の争いもあったと見て良い」


「確かにそうだが、そこを差し引いても呂布を傍には置けん。貴様としてはどうだ?」


「彼の者の実力は誠に天晴れだ。その実力に見合った位等を与えれば飼い慣らせるだろうが、心を最後まで許せん・・・・・だろうな」


そこは董卓の養子であり、自分を打ち負かした事もあるが・・・・・そう男は言い、隻眼の男も頷いた。


「俺もだ。で、どうする?」


「・・・・どうするもこうするも一先ず国へ帰り兵力を回復させる。愚息に任せているが・・・・傍に居る奴は、呂布同様に信用できん」


国で留守を任せている愚息の教育係は実に頭が切れる反面で・・・・・・内に強大な野心を抱いているのが自分には解る。


「儂と同類だからな。ただ、儂が生きている間は危険と察して爪を隠し、愚息を飼い慣らそうとしている」


現在、魏と言う国を治めているのは他ならぬ自分で、愚息は次代だが・・・・その次代の者に取り入り信用を得る位は朝飯前に考える。


自分の立場が奴の立場だったら・・・・・・同じ事をするからだ。


「なるほど。しかし、長安に居座れては面倒ではないか?」


「あぁ、面倒だが今の兵力ではどうにもならん。ただ、間者を放ち奴等の動向を監視させろ。そして国に帰り次第・・・・・使者を出せ」


そして表側でも情報を得るのだ。


「分かった。だが長安だけ見張らせるのか?」


隻眼の男が試すように問うが、それを男は鼻で嗤った。


「まさか・・・・袁紹、袁術、孫堅、そして劉備の動向も見張らせろ。特に孫堅と劉備は厳重に、な」


「袁紹と袁術はどうなんだ?」


現在お前と対等に渡り合えそうなのは袁紹で、次が袁術、孫堅と劉備は3番から4番辺りが妥当である。


それなのに敢えて3番と4番目を厳重に監視させる意図は?


「何れ袁紹とはケリをつける。袁術は、蝶の影響を受けたとはいえ・・・・まだ問題ない。しかし、劉備か孫堅が絡めば別だ」


孫堅は連合軍内でも勇猛を馳せた。


そんな男を袁術は部下として持っているし、蝶の影響を受けてからは・・・・・・劉備まで彼の傍に居た。


「ここが厳重に監視させる理由だ」


「なるほど。承知した。では、早々に間者を放っておこう」


「あぁ、そうしてくれ」


儂は・・・・・・・・


「まだ、ここで暫し地上の様子を見ている事にする」


「らしくないな・・・・・何時もは、この手に掴むまで全て警戒しているのに」


早くも取った気分になったのか?


隻眼の男が皮肉気に問うと男は口端を上げて笑い返した。


「まさか・・・・・この手に掴むまで全ては安堵できん。特に蝶は手に捕まえても、だ」


少しでも手を開けば蝶は直ぐに逃げてしまい、再び捕まえるのは至難の業だ。


もし蝶を永遠に手元に残しておきたいのなら・・・・・・・


「針を羽に打ち込んで飛べなくするしかない。ただ、それでは蝶本来の美しさが著しく劣る」


「だろうな。で、どうするのだ?」


自分は行くがと隻眼の男が問うと・・・・・・・


「ここの景色は気に入ったから暫し居る」


ただ、眺めるだけでも・・・・・・・・・・


「儂の心を癒してくれる。だから暫し居たいのだ」


「くくくく・・・・・・感傷的な男になったものだな」


「知らんのか?男という生物は女子に、その感傷を癒してもらい生き永らえるのだ」


「生憎だが俺には必要ない。いや、あるとすれば・・・・・・傍に居てもらうだけで良い」


癒しを求めるのは一方的過ぎるからな・・・・・・・・・・


そう隻眼の男は言い残すと背を向けて、一人残された男は暫く景色を眺め続けた。


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