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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
148/155

番外編:天将の転機

更新が遅れました!


今回からは呂布と夜姫の妹の話になります。

「ちっ・・・・・何て様か」


燃え盛る長安を離れた丘の上で見ていた一人の武将が舌打ちをする。


その武将は中々に立派な鎧を着て、隣には立派な駿馬を置いており如何にもと見えたが、その通りであった。


彼の名は呂布と言い、渾名は「飛将」である。


しかし、つい最近に彼は自分の渾名を「天将」に改名した。


それは彼の元養父であり上司でもあった董卓が攫ってきた天の姫こと織星夜姫を我が物にせんとしたからに他ならない。


もっとも蛇笏の如く嫌われた上で手酷い眼にもあったが、それにより彼は天将になった、とも言えた。


「・・・・・少し長安を見て来る」


赤兎を頼む、と呂布は生き残った己が私兵---五原騎兵団に預けると背中を少し丸める。


すると・・・・・左右から翼が生え出てきたではないか。


「ふんっ・・・・この程度では足りんな」


と、呂布は意味あり気に言いつつ翼を羽ばたかせて丘から昇ると・・・・・長安へ飛翔した。


それを部下達は黙って見ていたが、余り良い感じはしない。


まるで別人のように見えるからだろうか?


それとも・・・・・・・・・


「何か、私の顔についているの?」


呂布に仕える部下の一人がチラリ、と少し離れた場所に立つ娘を見て、その娘は部下を流し眼で見つめ返したが、それだけで部下は背筋に冷たい物を感じた。


『やはり、この女は・・・・・危険だ。危険すぎる』


己が武人としての勘が、本能が警報を鳴らす。


しかし、それだけだった。


何せ・・・・・警報を鳴らすと同時に絶対に自分では勝てない、とも本能は告げていたのだからな。


その娘は年齢が10代後半くらいで、赤い髪に水色の瞳を宿し金色と真紅を使った派手な鎧を纏っている。


この時代には作れない胸当て、籠手等を見ても立派であり堅牢であるが、兜の左右に翼が生えているのも珍しい。


腰には80cmほどのロング・ソードと、70cmほどのショート・ソードを提げており、左手には全長40cmの円形型の盾---カエトラを持っていたが、本来のカエトラは革製の盾に対し、娘のカエトラは周りを金属で覆われており堅牢に仕上がっている。


この時代の人間ではない、と明らかに装備で分かるが・・・・・同時に人間でもない、と雰囲気が告げていた。


それは人間には出せないような雰囲気が滲み出ていたからだろう。


娘の名は不明ながらも呂布が熱を上げている織星夜姫なる娘の妹、という事は確かであり姉妹仲も最悪というのは確かだった。


何せ燃え盛る長安が灰になる原因の一端を娘は持っているからだ。


だが、そんな事は娘にとって関係ないのか、飛んで行った呂布を見ながら口を開く。


「貴方も呂布みたいになりたい?」


「・・・・どういう意味、でしょうか?」


意図が解らず問うと娘は艶やかに微笑んだと思えば一瞬にして近付き、問いを投げた男の前に立つと左手を頬に当てる。


「・・・・・・何の積り、ですか?」


一瞬で距離を詰めた娘に戦慄しながらも男は平素を装い尋ねる。


「貴方・・・・呂布みたいに強いわね。いえ、違うわね。呂布以上に将としての器があるわ」


「・・・そんな事はありません。私は、あの方ほど優れた実力はないのですよ」


と、男は言うが娘は「謙遜ね」と告げる。


「貴方の事は見ていたけど堅牢で素晴らしい戦い振りだったわ。業腹だけど・・・・・姉上も貴方を高く買っているわ」


これを聞いて男は僅かに驚いた。


あの夜姫が自分を見て、その上で高く評価していたなんて・・・・・・・・


「ねぇ、どう?貴方も呂布みたいに・・・・私の力を持ちたくない?持てば今以上に強くなれるわよ?それに私の好みでもあるから側近に取り立てて上げるわ」


何とも甘い言葉---甘言だが、この手の話ほど裏がある。


とは言え・・・・この娘の甘言は何と心地良い事か。


『これが人外の者の誘い、か・・・・・・・』


幼き日に寝物語で聞いた話を思い出し男は思うが、それを振り払うほど・・・・・・まだ出来ていないのか、それとも余りに心地良い甘言に惑わされたのか、思わず手を取ろうとした。


しかし、ここで呂布が戻って来る気配を感じ男は思い留まり呂布に視線を向ける。


「呂布様、長安の様子は?」


「ここからも見ての通り・・・・・死体ばかりだ」


胸糞悪そうに呂布は言う。


それは自分の部下も大勢・・・・・死に絶えて長安に居るからに他ならない。


「おのれぇ・・・・織星夜姫ッ。この俺を愚弄したばかりか、部下まで嬲り殺しにしおって!!」


「まだ一撃で殺されているんだからマシだと思うわよ?」


激昂する呂布を更に刺激するような発言を娘はして、誘われていた男は咎めるように娘を睨む。


「貴様に解るか?!俺の大事な手足となり、共に戦場を駆ける者が大勢死んだのだぞ!!」


「えぇ、そうね。でも・・・・・私にとっては新しい手足が増えて嬉しいわ」


なに?


この言葉に呂布を始めとした者達は眼を見張るが、娘は右手をパチッン、と鳴らしてみせる。


すると・・・・・燃え盛る長安の門より勢いよく何かが出て来た。


それは・・・・・・五原騎兵団だった。


「な、んだと・・・・・・・」


呂布は自分の眼を疑い、眼を凝らして見直すが・・・・・間違いなく、あれは自分の部下だった。


しかし、どうも様子がおかしい。


血塗れだが、身体は普通なのに遠目でも分かるほど異常な気を発しているのだ。


「悪いけど貴方の部下は今日から私の部下になったわ」


と、娘は何でもないように言い呂布は娘を見るが、その眼には・・・・・絶対に勝てない、という色が含まれており悔しいが従う他ない、と告げていた。


「・・・・・好きにしろ」


自棄な口調で呂布は娘に言うと、娘は「そうするわ」と素っ気なく言い返した。


「で、これから・・・・どうするんだ?」


「そうねぇ・・・・・・」


娘は呂布の問い掛けに手を顎に当て思案する顔をするが、既に決めている顔をしていた。


にも拘らず思案しているように見せたのは・・・・・戯れているからだろう。


「恐れながら戯れは止めた方が宜しい、と思いますが?」


「あら、よく分かったわね」


悪戯を知られたように娘は笑うが、男にとっては・・・・それすら人外が戯れを思い付いたような笑みにしか見えなかった。


「その態度は止めた方が宜しいです。如何に貴女が強くても墓穴は掘る。ですから・・・・・お止め下さい」


何故こんなに真摯な態度を取るのかは自分でも不明だ、と男は思いながらも娘に讒言する。


それを娘は戯れる顔を消し真剣に聞いていて、呂布は馬鹿馬鹿しく思ったのか生き残った部下を集めて兵力の確認などを行っていた。


「貴方、名前は・・・・・?」


娘は小声で問いを投げつつ手を軽く振り・・・・・何かを自分と呂布達との間に張った。


「少し結界を張ったの。これで会話は聞こえないわ。ねぇ・・・・貴方の名前は何て言うの?」


「何故・・・聞くのですか?」


「あら、女が殿方の名を問うのに理由が要るの?」


「・・・・・・・・」


「沈黙は肯定。私の言葉に何も言えないのね?じゃあ・・・・貴方には特別に私の名前を教えて上げる」


「貴女様の・・・・・・・」


この言葉を聞いて静めていた己が気持ちが昂ぶったが、表には出さないようにしながら娘を見る。


「えぇ、教えて上げる。その代り貴方の名前を教えて。これなら交換する形で良いでしょ?」


と、娘は言い「お願い」とも付け足した事で・・・・・・根を上げた。


「私の名は張遼ちょうりょうと言います」


「張遼、ね。良い名前だわ。じゃあ、今度は私の名を教えて上げる」


貴方で2人目よ、男では・・・・・と娘は言いながら自身の名を張遼にだけ教えた。


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