番外編:愛しき英雄達よ7
ここの所、更新が遅れて申し訳ありません。
で、これにて愛しき英雄達よ編は終わりです。
次は以前から書いていた通り曹操や呂布などを書きたいと思います!!
音楽が変わり、夜姫が立ち上がると項羽も静かに腰を上げた。
それを見て群雄達---英雄達は「まさか」と眼を見張る。
2人は皆が見える位置まで行くと静かに会釈を交わしてから・・・・・項羽は剣を抜き、夜姫は扇を左手に持ち開いた。
差し詰め英雄達の眼には・・・・・劉邦に追い詰められて愛人(中国では恋人か妻)である“虞美人”との最後の別れを惜しむ舞をするように見えたのだろう。
音楽こそ違うが、絶世の美女と称されて項羽が最後まで手放すのを惜しんだ虞美人と夜姫は重なっている。
項羽は剣を持った手を掲げると静かに動いて夜姫に剣を突き出す。
突き出された剣を夜姫は扇で受け流すと静かに舞って遠ざかるが、項羽は距離を縮め続けた。
「綺麗・・・・・・・」
「本当ね・・・・・・」
朱花と翠蘭は2人の舞に見惚れつつ感想を述べた。
「なら、貴女達も入りなさい」
と、夜姫は2人に背を向ける形で立や小声で囁く。
「え、で、でも・・・・・・」
「踊りなんて・・・・・・・」
突然の言葉に2人は驚愕し、そして恐れ多いと思ったのか口を濁らせる。
「大丈夫よ。私も項羽も手伝うわ。それに・・・・・貴女達なら出来るわ」
私の侍女だもの。
根拠のない言葉に聞こえるが、それが2人を奮い立たせる力になったのか・・・・静かに2人は腰を上げて夜姫と項羽の舞に入った。
「ほぉ、新たな美女が2人も・・・・これは男冥利に尽きますが、いささか3人では私も持て余してしまいますゆえに・・・・・・文秀!!」
項羽の鋭い声に近衛兵になったばかりである文秀は飲もうとしていた酒を零した。
「酒など飲んでおらんで私と御婦人の相手をしろ。これは近衛兵団長の命令だ」
「は、はいっ」
文秀は格上の項羽に命じられて急ぎ立つと4人の所へ向かう。
「では、姫様。ここは互いに新参者同士でやりましょう」
一種の余興だと項羽は言い、夜姫も「えぇ、良いわ」と承諾した。
「文秀、剣---刀を抜きなさい」
「は、ハッ」
夜姫に命じられた文秀は急ぎ腰から大刀を抜き放つ。
「それじゃ・・・・・踊りましょう。貴方に優雅さは要らないから荒々しく・・・・貴方の色を出しなさい」
艶っぽい声で夜姫が言うと文秀の眼に僅かな血の気が宿り、気も荒くなった。
「ならば・・・・・行きます!!」
グワンッ、と勢いよく距離を縮めた文秀は左袈裟懸けに大刀を振り下ろすが、それを夜姫は扇で受け流すと軽やかに横へ移動する。
「むぉん!!」
それを追うように文秀は地を蹴るが、項羽のように優雅さは無い。
寧ろ獣みたいな荒々しさが前面に押し出されているが、逆に言えば・・・・夜姫の言葉を借りるなら「文秀の色」だ。
「うふふふ・・・・本当に荒々しくて良いわね。そっちはどうかしら?」
項羽、と夜姫が問いながら項羽に眼をやる。
「こちらも中々に筋が良くて可憐な色を宿しておりますよ。我が姫」
と、項羽は笑みを浮かべながら2人と舞をしていた。
しかし、2人は侍女だが舞なんて出来ない事もあり、拙い行動だったが、それでも自分の色を出していて良い感じだ。
「そう、そうだ。そなた達にはそなた達の色がある。なぁに、何れは今以上に良くなる・・・いや、今以上に輝かしく、そして美しくなる」
今でも美しく可憐だが、と項羽は言い朱花と鈴蘭は紅潮しながらも手に持った扇を開閉し、項羽の剣を裁いた。
不思議な光景だ・・・・・
2人は先日まで侍女だったが、項羽のような武将の振う剣を裁くなど出来ない。
それなのに項羽の剣を裁き、軽やかに舞う事が出来るから不思議だったが・・・・何とも言い知れぬ懐かしさも覚えた。
もっとも2人も何れは解るだろう・・・・・・・
前世の記憶を取り戻しつつある文秀のように。
「ぐああう!!」
獣の雄叫びを上げた文秀が乱暴だが覇気のある横薙ぎを夜姫に繰り出すが、それを夜姫は軽やかに宙を舞い避けると項羽に背中を預ける。
「項羽、少し文秀の相手をして」
「おや、姫様は獣のような文秀も好みでは?」
「そうだけど、その2人に多少は教えて上げないといけないでしょ?これは命令よ」
「ははははははは。何とも可愛らしい命令ですな。では・・・・・御意のままに」
と項羽は言い、夜姫と入れ替わるように文秀と対峙した。
文秀は項羽を見るや足を止めて・・・・・元に戻る。
「何だ、止めるのか?」
項羽の問い掛けに文秀は静かに首を横に振った。
「いえ。ただ、一武人として・・・・・貴方様とは手合わせをしたかったのです」
前世でもした筈、と文秀が言えば項羽は頷く。
「確かに。姫様の寵愛を賭けにしたり、酒も飲み合った。しかし、転生した身とは初めてだな。では、以前と同じように・・・・・・やろうではないか」
言い終えた瞬間に項羽は距離を縮めて文秀に斬り掛かるが、それを文秀は見事に捌いて反撃を繰り出す。
突然、舞手が変わり男同士と女同士になり、英雄達は左右に眼をやるが・・・・・やはり伝説の武人と謳われた項羽と文秀の舞に惹かれる思いがあるのか、そちらに眼をやる。
ただし、夜姫と侍女2人との舞も見るから何とも器用であるが、舞手の方はどうやらそうではないらしい。
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「どうかしら?貴女達」
織星夜姫は扇を左手に持ち、右手に何時の間にか持っていた大刀を振りながら侍女である朱花と翠蘭に問いを投げた。
「何だか不思議な感じです・・・・・・」
「まるで私たちじゃない気がします・・・・・・・」
2人は扇だけで夜姫の攻撃を捌くが、心底では何かが熱くなり・・・・・何かを出さんとしている。
だが、それが何なのかは分からない。
ただただ・・・・無性に身体が熱くなるだけだ。
「そう、それで良いのよ。いきなり変わろうと考えては駄目。少しずつ慣れて行きなさい」
貴女達は貴女達の時間などがある。
「爺たちが煩く言おうと自分の時間を大事にしなさい。そうすれば“然るべき”時になったら自ずと手に入るわ」
然るべき時?
「それは、あの・・・・・・・」
「どういう事、ですか?」
「何れ解る時が来るわ。・・・・時の流れは残酷なれど、時は死と同じく誰にでも平等に訪れる存在。だから、何れ解るの」
何故か、それを言う時の夜姫は何か遠くを見るような眼差しをしており、それが2人には酷く哀憫を備えているように見えた。
そして思った。
「夜姫様、私共は・・・・・・・・」
「私達は・・・・・・・・・・・・」
『貴女様の侍女として生涯を過ごします。それを誇りに今これから生きて行こうと思います』
と朱花と翠蘭は口を揃えて告げた。
「そう・・・・決して楽な道じゃない・・・・・茨の道にして、屍山血河の道なれど私と共に歩むのなら行きましょう」
『御意のままに。我が姫様』
2人は夜姫の言葉に静かに頷くと舞を続けた。
そして何時の間にか項羽と文秀の舞は終了しており、夜姫たちだけが舞をする事になっていた。
「・・・・星と月の女神の舞、だな」
道化がポツリと呟いたが、それは消え入りそうな声で舞に魅了された者達の耳には聞こえなかった。
ただ・・・・・道化の言葉通り、まさに3人が見えたのは当たりであり当然の帰結とも言えた。
3人は時間がある限り舞を続けるが、それは戦で死んだ者達に対する鎮魂の意味も表している如く、3人を囲むように白い結晶が天へと昇って行く。
もっとも・・・・・・・・そうでない者も中には居るし、今後も更に増えると・・・・・地上では行われようとしていたのである。