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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
145/155

番外編:愛しき英雄達よ5

更新が遅れましたが、何とか次の話---流浪編なる話が浮かびました。(汗)

群雄達を全員、座らせた天の姫こと織星夜姫は静かに右手で銀と紫という2色が使われた艶やかな長髪を梳くと静かな足取りで自身の席に向かった。


席は上座で、そこには黒い毛の狼が一頭居り、酒が入った銚子には蛇が一匹居た。


自身が助けたフェンリルと、その弟であるヨルムンガルドだった。


しかし、その者達の隣には侍女の朱花と翠蘭が居て双方の肩には対を成すように鴉が1羽ずつ止まっている。


「あらあら、その子達に気に入られたのかしら?」


夜姫は朱花と翠蘭の肩に座る2羽の鴉---フギンとムギンを見た。


フギンとムギンは朱花と翠蘭の肩に座ったまま数回ほど鳴いたが、それが夜姫には解るのか月色の双眸を細める。


「そう、良い子ね。喜びなさい。貴女達を気に入ったばかりか、私の侍女として認めたらしいわ」


「そうなんですか?」


朱花はポカン、と夜姫を見るが翠蘭は「そうですか」と必要最小限の返事をした。


相方である朱花が夜姫に失礼な言動を繰り返したり、軽はずみな行動も多々する事から自分がシッカリしなければ、と考えているのか・・・・・最初に比べると豪く冷静であるのも頷けるだろう。


「えぇ、でも、ヨルムンガルドとフェンリルは難しいわね。特に貴女に関しては」


と、夜姫は朱花に言い、朱花はフェンリルとヨルムンガルドを見たが・・・・・どちらも朱花を「無礼な真似をする侍女」と認識しているような眼付きだった。


特にヨルムンガルドは董卓に捕まった時から朱花の無礼---無意識だろうと、好奇心旺盛だろうと夜姫に対する態度が赦せないのか・・・・・・ジッと縦眼で睨み据えている。


そしてフェンリルも「ほぉ、見るからに無礼を働きそうな娘だな」と値踏みするような眼付きだった。


しかし、狼にしては大きく、また長安を攻略した際も・・・・・・巨大化して、ヨルムンガルドと共に城壁を破壊した。


その光景は遠目からでも見えたから・・・・・・朱花は怯えた眼差しをする。


「別に私は・・・・・・・・・・・」


朱花は狼と蛇に弁解しようと口を開いたが、そんな朱花をフェンリルもヨルムンガルドも怯えさせるような態度を取るが・・・・・・・・・


「こら、貴方達。好い加減にしなさい」


と、夜姫が強く叱ると大人しくなった。


「全く・・・・・悪戯好きな神の息子だけあって悪戯好きね」


夜姫は微苦笑して上座に朱花と翠蘭を伴い座ると、フェンリルとヨルムンガルドは恐る恐ると言った感じで寄り添った。


「さて、これで全員が座った事だし・・・・・宴を始めるとしましょうか?」


『御意のままに』


左右の下座に腰を下ろした群雄達---英雄達は夜姫の言葉に頷く。


「じゃあ、宴を始めるけど・・・・その前に言っておくわ。皆、この度は私の為に戦ってくれて誠に感謝するわ」


夜姫が静かに言うと群雄達は無言で頷く。


「でも、戦いは始まったばかり・・・・・恐らく私の妹は曹操の所へ行った筈よ」


彼の男は今の時点では最も天下に近い存在で、しかも、強大な軍事力を誇る。


如何に完全な国家でなかろうと侮れない。


「その上で呂布も加わり、王英達のような文官も混ざるだろうから私達の事は悪く言われるか、それとも知られる筈よ」


だから・・・・・これからは血で血を洗い、屍の山が幾千幾万も築かれる事だろう。


「故に覚悟して。そして備えて。私も備えるわ」


これから董卓と劉備達と共に力を蓄える。


「そして私の都---つまり・・・・・この地に帰る。でも、その時は貴方達も一緒よ」


既に貴方達は私の臣下にして家族。


「誰も手放さないし、決して見捨てたりもしないわ。戦死した者達の魂も・・・・今、まさに来ているわ」


かと言って死ぬのを恐れるな、とは言わない。


「寧ろ恐がって生きなさい。それでも死んだら私が責任を持って都へ連れて行くわ」


『仰せのままに』


「では、最後に・・・・・この度の戦で死んで行ったエインヘリャル達の為に鎮魂の酒を」


夜姫は注がれた酒杯を掲げて英雄達も倣う。


「彼等の魂に安らぎと栄誉を」


『安らぎと栄誉を』


グイッ、と夜姫が飲み英雄達も飲み干し、新たに注ぎ直す。


「じゃあ・・・・宴の始まりよ」


皆、心行くまで飲んで楽しみなさいと夜姫が言うと英雄達は酒を飲み、料理を食べて宴は幕を開けた。


それを見ながら夜姫は董卓を見た。


「董卓、これからの事を話しましょう」


「あぁ、良いとも。先ほど李広副将軍とも話したが、先ずは“”に行こうと思う」


この胡とは漢民族が蔑称として中国北部と西部に居る遊牧民達の事である。


歴史は古く既に戦国時代(紀元前403年~紀元前221年の間)から名が出ており、行く度も他国とは刃を交えていた。


董卓も役人になった頃は彼等を取り締まった事もあるが、交流を同時に深めたりもしていた。


「西と東のどっち?」


夜姫は酒を軽く飲みながら問うと「先ずは西だ」と董卓は答えた。


「ただし、向こうは遺恨もある。故に最初は儂と僅かな供のみで行く」


「それなら李広も連れて行きなさい」


李広も匈奴なる異民族と戦った過去がある事を夜姫は言いたいのだろう。


「分かった。で、それまでは・・・・・・・・」


「ああ、それなら考えているわ」


と、夜姫は言って劉備を見る。


「私は劉備お父様達と一緒に・・・・・“蜀”を手に入れるわ」


蜀?


「ほぉ、あの“流刑地”として名高い場所か」


董卓は皮肉気に笑うが、夜姫を嘲笑した訳じゃない。


この蜀とは現在の四川省・湖北省一帯の事で、夜姫が居た世界の三国志では劉備が治めていた土地であるが・・・・どうやら董卓の言葉から察するに今も流刑地となっているのだろう。


「えぇ。魏に比べれば明らかに国力は劣るし、呉にはある海が無いわ。でも、護りには向いているでしょ?」


「そして誰も手を殆ど出していないから・・・・・そなたの色に染められる、という訳だな?」


「あら、酷い言い草ね。私は自分の色もあるけど、好きな殿方色に染められるのも好みなのよ」


「ほぉ、そうなのか?これは失礼」


臣下として些か無礼な言葉と態度を董卓は取るが、それを夜姫は咎めずに2人して笑いながら酒を飲み合う。


「という訳よ。宜しくて?」


「あぁ。良いとも。ただし、劉備は果たして・・・・どうかな?」


董卓が言えば劉備は「夜姫様」と、夜姫の名を呼んだ。


しかし、何処か固い声で何かを決めた感じだったのは言うまでもない。


「その件について・・・・お話があります」


「何でしょうか?劉備お父様」


と、夜姫は問うが何となく察しはついていたようだ。


劉備は席を立ち、そのまま夜姫の前まで着くと両手と首を垂れて・・・・・何かを決めた、重い口調で用件を口にした。


「貴女様の言葉・・・・・臣下として、そして父として嬉しいです。しかし、一緒に同行する事は御断りさせていただきたいのです」


「理由を尋ねても宜しいでしょうか?」


「・・・・・貴女様を最後まで護れる自信がありません」


自分は土地を持たぬ義勇軍の長であり、曹操の如く強大な城も持っていないし、頼れる親族衆だって袁紹や袁術、そして孫堅の如く居ない。


「現に董卓殿と戦った際も護れませんでした。ですから、今後の事も考えると・・・・・・一先ずは袁紹様か、袁術様の所に身を寄せて頂きたいと思います」


「それについては私も賛成です」


今度は孫堅も前に出て来て劉備の言葉に同意した。


「恥ずかしながら私も呉と言う国を治めていますが、まだ地盤は緩く何時、私に代わり別の者が当主になるか分かりません」


故に自分の土地に身を寄せるのは・・・・今は無理だ。


「そこで話し合いの末に・・・・・袁紹様と袁術様の御二方に頼みました」


この2人は仲こそ悪いが、それでも連合軍の長同士だし領土も広ければ親族衆も居る。


「ですから、暫し御二方の領土に身を寄せて下さい。それまでには私共も力をつけて・・・・・貴女様が訪れても良いようにします」


孫堅は呉の基盤を、劉備は蜀の国を取り、董卓は異民族との伝手を、そして残る愛しき英雄達も戦準備に備える。


「なるほどね・・・・・・・・」


最後まで聞き終えた夜姫は暫し劉備と孫堅を見ていたが、月の瞳は目の前で頭を垂れる2人の父親を優しく見ていた。


そして夜姫は静かに2人に対し・・・・・・声を放った。


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