番外編:愛しき英雄たち4
更新が遅れて申し訳ありません。(汗)
後数話ほど書いたら次は曹操や呂布の話を書きたいと思います。
道化が連れて来た場所から何処へ移動したのか?
それが分からなかった一同だが、暗かった光景が少しずつ明るくなるにつれて先程まで居た場所とは違う場所だと認める。
何故なら・・・・・・綺麗な赤い布が敷かれて、その周りを覆うようにして綺麗に咲く花が周りにあったのだ。
「こ、これは・・・・・・・」
「凄い・・・・・・・・」
「何と美しい・・・・・・・・」
一同は景色を見て、その美しさに目を奪われた。
花は大木から生える枝に咲いており淡いピンク色をしているが、風に揺られて舞い散る姿も儚げながらも美しい。
「相変わらず・・・・何と儚くも美しい花か」
「うわぁ!?」
先程まで文秀を殺そうとしていた老将は花を見るなり文秀を解放して愛おし気に花を見上げる。
「はぁ・・・・このような物だからこそ花とは美しいのだろうな」
ヒラヒラと舞い落ちる花弁を掌で受け止めた老将は感慨深い顔をした。
「人間も同じだな・・・・・・散るべき時に散りさえすれば晩年を汚さん。儂みたいに過去の栄光に縋り付いて晩年を汚した者には痛い」
「それは・・・・・最後の事を言っている、のですよね?」
文秀は尻を撫でながら老将に問う。
「あぁ、そうだ。貴様には解らんだろうが・・・・・・今まで積み上げて来た実績を若造に奪われた上で、その若造に蔑まされる事ほど悔しいものはない」
自分は何度も戦って勝利を掴んで来たが、急に現れた若い将に今までの実績を奪われる形になり最後など眼も当てられない。
「だから・・・・・己で首を刎ねた。しかし、それを姫様は拾って下さり栄光ある近衛兵の副将に抜擢して下さった」
死して尚も戦う事を運命づけられた瞬間だが、悲観など全くしなかった。
「寧ろ死しても活躍できる、と儂は思ったぞ。嗚呼、まだ戦えるのか?まだ現役で居られるのか、と」
ただ・・・・・この花を見る度に過去を思い出す、と老将は語った。
「全く年は取りたくないな。こんな感傷に浸るのだから・・・・・・・・」
「あら、何を言っているのかしら?」
ここで声がして老将の眼前に一人の娘が現れて、皺だらけの手に綺麗な手を重ねた。
その娘は20になったくらいの年齢で、銀と紫という2色を上手く混ぜた感じで艶がある髪を垂らしている。
身を包む淡い色を何枚も重ねた服を纏い、綺麗ながら最低限の飾りをした頭部と合わさり美しいが、それよりも美しいのは月の瞳だろう。
月の瞳は老将を労うように優しくて、何処か惹かれる力が感じられた。
「嗚呼、姫様・・・・・・・・」
老将は皺だらけの顔を破顔させた。
「年を取っても楽しむものよ。それに晩年を汚した、と言うけど・・・・・それだって他者が決める事じゃない?」
自分が悔いらなければ晩年云々は他者の評価だ。
「まぁ、貴方自身が悔いているから仕方ないにしても・・・・・私は気にしてないから安心しなさい」
「・・・・・有り難き御言葉を」
老将は娘の手を返してから片膝をつくと深く首を垂れる。
「良いのよ。さぁ、皆・・・・待たせたわね」
『いいえ』
娘が老将以外の者に謝罪すると皆は首を横に振る。
「特に袁術と袁紹は駄々っ子みたいに道化に文句言っちゃって可愛いわね」
クスッ、と娘は笑みを浮かべるが名指しされた本人2人から言わせれば堪らない。
「ひ、姫様・・・・・・・」
「聞いていたのですか?」
異母兄弟である2人が問うと姫と言われた娘は「えぇ」と悪びれもせず頷いてみせた。
「でも、少しは我慢してよ。女は忙しいのよ?愛しい殿方が嫌わないように化粧、衣服選び、靴選び、髪型なんかを全て考えるんだから」
だから、遅刻は女の特権という言葉もある、と娘は尤もらしい事を口にするが言い得て妙だ。
「それを待つのも殿方の特権よ。だってそうでしょ?」
女が如何なる化粧を施し、そして如何なる衣装に身を纏い来るか・・・・・・・
「考えるだけでも良いわ。それを楽しんでこそ真の殿方、と私は思うけど」
娘の言葉に2人は沈黙するが、娘の言葉が正しくて、それでいて自分達では程遠いと思い知らされたからだろう。
「まぁ良いわ。さぁ、爺。先ずは貴方よ」
娘は老将の手を引くと優しく誘った。
「おお、これはこれは・・・・・・姫様が直々に儂を席に案内して下さるのですか?」
「年寄りは労われ、と言うでしょ?」
「ははははは。年寄りと言われても激怒しないのは姫様に対してだけですな」
と、老将は笑いながら娘に手を引かれて赤い絨毯の上に乗る。
そして娘は壮年の男に近付いたが、その男は暫し娘をジッと見つめるに留まったのは・・・・・今の状況が果たして現実なのか、という事を考えているのだろう。
しかし、現実だと娘が差し出す手を見て男は自覚する。
「これは現実よ。董卓」
と、娘は男の名を口にして「さぁ、自分で手を取りなさい」と告げる。
「・・・・・御意のままに」
董卓は・・・・・・洛陽から長安へ遷都し、歴代皇帝の墓を暴き、民草を尽く虐殺した稀代の大悪党は娘の言葉に従うように手を掴む。
嗚呼、なんて温かい手だろうか・・・・・・・
「さぁ、来なさい。今宵の主役の一人なんだから」
「・・・・・仰せのままに。我が主」
娘に手を引かれて董卓は歩くが、一歩一歩が羽みたいに軽く感じるが、逆に鉛みたいに重い気持ちでもあった。
この娘に手を引かれる瞬間が・・・・・永遠に・・・・・・いや、ほんの少しでも良いから遅くなって欲しい。
そうすれば娘は自分の手を引き続けたままになる。
そんな気持ちが彼の足を鉛みたいに重くさせつつ・・・・・・羽みたいに軽くさせた。
だが、思いとは裏腹に娘は手を引き続けて上座と思われる席に連れて行くと手を離した。
「・・・・・・・・」
董卓は餓鬼みたいな気持ちになった己を恥じるが、ここで娘が月色の双眸を向けて薄らと微笑む。
「そんな顔しないの。まだ宴は始まってないのよ?」
「・・・そう、だな。失礼した」
娘の言葉に董卓は微苦笑して席に座ると、娘は再び群雄達---いや、愛しき英雄達の下へと行き一人ずつ席に誘う。
嗚呼、自分だけではないか・・・・・・・
僅かに抱いた淡い希望を董卓は無残にも砕かれたが直ぐに気を取り直す。
自分は臣下だし、夜姫の言葉を借りるなら・・・・・まだ宴は始まったばかりだ。
ならば・・・・・今少しは、この餓鬼みたいな敗れた恋慕の念を肴に味わうのも一興というものだろう。
そう考えていると横から酒杯が差し出された。
横を見れば老将が居り、左手には酒瓶が握られていた。
「まぁ、少し早いが一献どうだ?」
「・・・・・頂かせてもらう」
酒杯を持った董卓に老将が酒を注ぐと今度は董卓が老将の酒杯に注いだ。
「そなたとは少し宴の前に話してみたかった」
「儂と・・・・・・?」
酒杯を口元に運びながら問えば老将は「あぁ」と鷹揚に頷く。
「聞けば歴代皇帝の墓を暴き、民草にも非道な真似をしたと言うが・・・・・何故に姫様に対しては優しく接した?」
「・・・・あの娘に惚れたとしか言えん」
自分では如何にしても手に入らない娘だが、それでも傍に置きたい、見て欲しい、話し掛けて欲しい。
そんな気持ちがあり、こうしていると董卓は言うと老将は「なるほど」と相槌を打った。
「して、今後の流れ的には如何なさる積りか?」
「それは姫様が決める事だが、先ほども言った通り・・・・・先ずは、そなたの伝手を頼りに動くだろう」
しかし、それだけではない。
「恐らく一度は群雄達を拠点に返し、劉備達と行動を共にする。大勢で動くより少人数で動いた方が目立たん。何より・・・・・あの小娘が居る以上は少しでも伝手を広げつつ勢力を広げたい」
まだ姫も万全ではないからだ、と老将は語るが・・・・・それ以上は言わず董卓も聞こうとはしなかった。
何せ・・・・・既に娘---姫は全員を自ら誘い席に座らせたのだからな。