番外編:愛しき英雄達よ3
更新が遅れました。(汗)
今の時点で少しずつですが、次の編を考える事が出来ました。
ただ、まだしばらくは番外編を書いて呂布達の動向などを描きたいと思います。
「何時まで待たせる気だ?!」
何処とも言えぬ空間に男の怒鳴り声が木霊した。
怒鳴った男は壮年で、見る限り身分が高そうな鎧を纏っているが怒鳴り声を聞く限り性格は余り褒められなさそうだ。
「こ奴と同意見なのは甚だ気に食わんが・・・・私も同じだ。何時まで我々を押し込めている気だ?!」
またしても怒鳴り声がした。
その怒鳴り声を上げた男は、最初に怒鳴った男と年齢と容姿が似ており血縁者と思われる。
鎧の色なども似ているから・・・・・兄弟だろう。
怒鳴る口調も似ているから尚の事だが、当人たちから言わせれば甚だ遺憾であるが。
「そう怒鳴るなよ。女を待つのは男のエチケット。そして男を待たせるのは女の特権というヤツだ」
怒鳴る2人に対して、一人の男は微苦笑して宥めるが・・・・・・子供みたいに怒る2人を面白い動物でも見ているような眼もしていた。
金色の双眸を持つ男は道化と言い、ここには居ない娘を主人と仰ぐ者である。
そして連合軍と董卓軍と言う大軍を一人で・・・・・この空間に運んだ人物だから何者だろうか?
「見てみろ?劉備と孫堅を。2人は姫さんから父と慕われるだけあってドンと腰を据えている。しかも、董卓だって同じなんだぞ?」
道化は両手で掲げるようにして3人の男を怒鳴った2人---袁術と袁紹に見せる。
3人の男は共に年齢が壮年だが、容姿も衣服も別々だった。
ただ、1人だけは酷くみすぼらしい。
みすぼらしい格好をしているのは劉備と言い、字は元徳で漢王朝の末裔とも言われている義勇軍の長だ。
「道化殿、私は・・・・・あの方---夜姫様の臣下であるから待っているだけだ。別に腰を据えている訳ではない」
劉備は道化の如何にも、という口調に苦言にも似た言葉を吐いた。
「そいつは失礼した。しかしな・・・・・姫さんは娘なんだ。あんたは父親。だから、ちぃっとは娘の気持ちを酌む形で言ってくれよ」
ここ等辺は道化の本心なのか、少し苦言を言うような口調だった。
「以後、気を付ける。とは言え・・・・・・どうしても臣下という気持ちを強く持たないと己を保てない面もあるのだ」
家族は持ってないし、寄せ集めの義勇軍を纏める身だから一人の娘に構ってはいられない。
いや、夜姫を大事に思うからこそ必死に己を律しているのだ。
「相変わらず己を律するな」
ここで一人の男が劉備の言葉に反応するように言った。
その男は年齢が壮年で、かなりの長身にしてガッシリした体格を誇っていたから一軍の・・・・いや、数軍を束ねる将だろう。
劉備は男を見て名を口にした。
「董卓殿・・・・・・・・・」
そう、この男こそ連合軍が打倒せんとしていた董卓その人である。
しかし、劉備は黄巾の乱において董卓と対面した事があり・・・・・その戦振りは噂も合わせると高く評していた。
「そなたと初めて会った時も・・・・義弟2人を叱り己を律していたな」
「・・・・えぇ。どうも、義弟2人は些か感情に流されるきらいがあるので」
確かに、と董卓は劉備の言葉に頷く。
「関羽も張飛も強いが、片方は自意識過剰で他人を見下す。もう片方は酒乱癖があり、苛烈な性格をしているからな。長兄がシッカリせねばならん」
オマケに寄せ集めの連合軍の中に在り、更に寄せ集めの軍団である義勇軍を統率したのだから・・・・・
「無理もない。しかし、道化の言う通り夜姫から見れば・・・・そなたと孫堅は父親だ。そして既に戦は終わったのだから少し位は楽になれ」
鋭く尖らせた剣は斬れるが・・・・・・・・
「研ぎ過ぎれば刃毀れも直ぐするし、運が悪ければ折れてしまう。少なくとも儂は・・・・そなたは何れ天に昇る龍となるだろう」
そして孫堅は翼を生やし、龍と共に昇る虎だ。
「どちらも夜姫と言う姫君を・・・・・・帰るべき場所へ帰す為の護衛役として、な」
儂も行くが・・・・・・・・
「龍でもなければ虎でもない。差し詰め熊か狼だ」
2人には劣る、と董卓は自嘲の笑みを浮かべた。
「では、曹操殿は・・・・・・どうですか?」
劉備は自嘲した董卓に問いを投げたが、その眼は・・・・・董卓の言う通り龍にならんとする眼だった。
「・・・あの男か。治世の能臣、乱世の奸雄とは言ったものだが流石は“許劭”の評価ではないか?」
この許劭とは後漢末期の人物批評家で、曹操を評価した人物として有名であり、董卓の言葉がそれだ。
「あの男は治世では能臣だが、乱世でも英雄だ。世の中を上手く立ち回れる器量がある。儂を暗殺せんとしたが、失敗するや上手く逃げてみせたからな」
そして僅かな時間で魏と言う国を立ち上げたから手腕は認めるしかない。
「とは言え・・・・・欲が深ければ自滅する。特に夜姫という娘に手を出すなら尚の事だ」
董卓の言葉に劉備は黙っていたが、彼の言いたい事は理解できた。
「つまり貴方は曹操も・・・・・天を昇る龍か、虎、または鳳凰となると言いたいのですね?」
「あぁ、そうだ。少なくとも今の状況を考えれば曹操が一番だ。しかも、恐らく儂の元養子である呂布や王英、そして夜姫の妹も加わるだろう」
「確かに・・・・貴方の元養子は節操がありませんからね」
ここで孫堅が話に交ざり、董卓の元養子である呂布を皮肉った。
「呂布は強いですし、軍を指揮する能力もあります。しかし、生来の狡猾な心などは害を振り撒く。何れ・・・・いえ、既に我々に害を振り撒きましたからね」
夜姫と言う娘を嬲ったばかりか、殺そうとまでしたと更に皮肉な事実を述べると董卓は微苦笑するしかなかった。
「確かに呂布は害を振り撒いたが、王英も負けておらん。あ奴が文官共を先導したのだからな」
呂布も王英も自分が眼を掛けて取り立てたのに・・・・・歯向かわれたのだから・・・・・・・・・
「飼い犬に手を噛まれた。ここ等辺は子供の頃から変わらん」
子供の頃に犬を見つけて育てたが、他の兄弟には懐いたのに自分には懐くどころか噛んだ。
「怒りと悲しみを覚えたが・・・・・今にして思えば儂の心底を見抜いたのかもしれん」
それは自分と言う男の性にして裏切られる末路・・・・・・・・・
「大丈夫よ。私は裏切らないわ」
ここで静かだが凛とした声がして一同が声の方向を見るが誰も居ない。
「おい、姫さん。悪ふざけしないでくれよ」
道化が声に苦言を言えば「あら、ごめんなさい」と可愛らしい謝罪の言葉が返ってきた。
「それで準備は?」
「出来たわよ。貴方達と言う愛しい英雄達を迎える準備がね」
特に今宵の功労者である・・・・・・・
「文秀には御褒美があるわ」
という声を聞こえてきたが、その文秀なる男は喜ぶよりも前に殺され掛けていた。
「貴様!よくも儂の姫様に色目を使いおったな?!」
「ご、誤解です!私は・・・・・ひぃっ!?」
文秀は初老の武将に胸倉を掴まれて揺さ振られていたが、その老将は腰から剣を抜くと文秀と思われる男に突き付ける。
「覚悟しろ・・・・・姫様を汚す者は爺である儂が・・・・・・・・」
今にも殺しそうな老人だが、文秀だって負けていない。
「わ、私は別に・・・・・・・」
必死に弁解もとい誤解を解くように言いつつ老人の持つ剣を遠ざける。
「嘘を吐くな!貴様が姫様を誘惑したのだろ?貴様の眼が告げておるわ!!」
何とも酷い言い掛かりだが、仕舞いには「貴様の存在自体が」と老将は言うのだから何とも・・・・・・
「さぁ、大人しく我が剣の錆に・・・・・・・・・」
今にも老将が剣を文秀に突き刺さんとした瞬間・・・・・彼等は何処かへと消えた。
それが何処なのかは・・・・・・・・・・・・