番外編:愛しき英雄達よ2
更新が遅れてすいません・・・・・未だに次の話が浮かばない次第ですので、暫し番外編が続くと思われます。(汗)
「・・・・はぁ」
何処とも分からない地に足をつかせた娘は静かに息を吐いた。
しかし、傍らには娘と同年代の娘が2人居り、その他にも齢90歳と思われる老婆なども居たが何者だろうか?
娘は見た事のない甲冑に身を包んで、腰に大小の剣を一振りずつ差していて見るからに殺伐とした感じだが、何処か・・・・・そう、まるで待ち侘びていた場所に来れた、という感じだった。
「懐かしい・・・・・わね」
娘は兜を取り、静かに地に片膝をつくと片手で撫でる。
この感触は・・・・・間違いない。
とは言え・・・・・・所詮は一時的な物だ。
戻るには時間を要し、残念ながら・・・・・まだ帰れない。
それでも何時の日か必ず帰る、と思う。
「あの・・・・何が懐かしいんですか?夜姫様」
ここで娘---夜姫なる娘の背後に立っていた侍女らしき娘が問いを投げた。
容姿は黒髪に黒眼で、着ている服装から察するに侍女だろう。
「ああ、朱花。いえ・・・・ここが私の・・・・・・私と家族の住んでいた都だから」
え?
「ここが・・・・・夜姫様の住んでいた都、ですか?」
朱花と、その隣に居た侍女---翠蘭、董卓の老母などは辺りを見回すが・・・・何も無い事に違和感を覚えた。
「何もないでしょ?でも・・・・・ちゃんとあるわ。ただ、今は帰れないの」
故に何もないのだ。
「ですが、それでも姫様にとっては・・・・・・御自分が治めていた都ゆえに懐かしいのですね?」
ここで朱花の隣に居た侍女の翠蘭が問うと夜姫が頷く。
「えぇ。最初の都---白亜殿は灰と化し、ここは2番目の都だけどね」
「あの、灰と化したって、まさか・・・・・・・・・」
朱花が興味本位で思わず聞いてしまうが、それを翠蘭が止めようとするよりも早く夜姫は答えた。
「あの妹と、私を裏切った“愚民”が燃やしたのよ」
最初に・・・・・・やっと両親に認めてもらえた証、という事で幼い時に貰った白亜殿なる都。
「でも、名前とは裏腹に酷い城でボロボロだったの。家臣達も殆ど居なくて民草も居なかったけど、私には・・・・・本当の都だったわ」
嗚呼、とうとう私も両親に認められたんだ。
こんなボロボロの城だろうと両親がくれた物なら娘の私には宝物だ。
「そう思っていたわ。でも実際は違うの・・・・・・ただ、私が邪魔だから押し込めただけ。それでも妹には我慢できなくて・・・・・・私から全てを奪い、そして灰燼に還したの」
『・・・・・・・・』
何と言えば良いか分からず朱花、翠蘭、董卓の親族は無言になる。
夜姫の過去なんて殆ど知らないが、それでも語ってくれた内容は酷い話だ。
「あの何で貴女様の御両親は・・・・・・・・・」
「朱花さん!!」
翠蘭が再び問いを投げようとした朱花を厳しく戒めるように名を叫ぶ。
それ以上の事は侍女である自分達が踏み込んで良い話じゃない。
前にも同じような過ちを犯したのに2度も犯そうとしているから翠蘭としては憤飯物なのだろう。
「良いのよ。翠蘭」
夜姫が優しい声で戒めるも翠蘭は「ですが」と食い下がる。
「貴女も少しは砕けなさい。確かに人には触れて欲しくない昔話があるわ。特に女は・・・・・その手の話---秘密にヴェールと言う名の被衣を羽織り美しさを保つんだもの」
だが・・・・・・・・
「私の侍女なら知っておくべきなの。今の私ではない・・・・・転生後の夜姫を傍で支えて欲しいのよ」
自分も支えるが、本体は転生した身の夜姫という女だ。
「だから・・・・・ね?」
「・・・・分かりました」
転生後という言葉に何か引っ掛かりを覚えた翠蘭だが、敢えて言わずに頷く事で夜姫の命に従う辺りは翠蘭という娘が抱く侍女の姿なのだろう。
「私の両親は名の知れた名君で、賢婦だったわ」
民草を想い、政も公平で、戦に出れば敵無しだった。
「御互いに愛していたもの。で、私が生まれたけど・・・・・それから間もなく妹も生まれたわ」
容姿も違うし、性格も違う2人だったが・・・・・・両親は妹を取った。
「理由は幾つかあるわ。私が妹より賢くて他人に媚びを売れなかった事、私が些か生意気だった事、甘え方が下手だった事・・・・・・・・・」
裏を返せば妹の方が媚びも売れて、甘えも上手だったという訳だ。
「・・・・・親は子を差別せず平等に愛するものですが、子供には見えるのでしょうね」
ここで董卓の老母が静かに口を開いた。
「私と亡き夫も子供は平等に愛しましたが、あの子---仲穎には自分は兄や弟に比べると私達には愛されていない、と」
そんな事はなく寧ろ愛したが・・・・・・・親と子の気持ちは違う。
「だから、あの子は色々と悪さをしました。ですが、裏を返せば不器用な・・・・・あの子なりの甘え方にして、自分も構って欲しいという訴えだったのです」
それを自分達は分かったが・・・・・・・・・・・・・
「貴女様の御両親は気付かなかったのですね?」
「・・・・そう取れるわ」
夜姫は董卓の老母の言った言葉を肯定するように頷いた。
「名君と賢婦なのに実の娘の事を解らないんだから笑い種よ。まぁ、妹が強欲だから私に奪われまいとしたんでしょうね?」
しかし、そんな事を知って正そうと・・・・・いや、怒りを向けたら逆効果だ。
「お陰で私は何時も一人。味方なんて誰も居なかったわ。いえ・・・・・傅役の亡き爺だけは何時も私の傍に居て、常に私の味方だったわね」
泣いていれば直ぐに駆け付けてくれたし、虐められたら剣を抜いて助けてくれた。
「一人で寝るのが恐い時も居てくれたわ・・・・・・・あの爺にも見せたかったわ」
あんな名前とは裏腹に酷い都ではなく、この自分で手に入れた都を・・・・・・・・
「でも、詮無き事ね。さぁ、暗い話は終わりよ」
夜姫はパンッ、と己が両手を叩くと振り返った。
「もう直ぐ道化が他の者達を連れて来るわ。だから、それまでに宴の準備をしましょう」
何もないが、だからこそ腕で勝負する。
「ですが、どうやってですか?」
「私達、何も出来ないですけど・・・・・・・」
朱花と翠蘭は侍女としての仕事は出来るが、それだって予め用意された物があってこそ出来る訳だから尤もな言葉だった。
「大丈夫よ。ヨルムンガルド」
夜姫が声を掛けると何処からともなく一匹の巨大な蛇が出て来たが、その蛇の口には何か布に包まれていた物が銜えられている。
それを夜姫の前に置くと、ヨルムンガルドなる蛇は静かに後退り距離を保つ形で動かなくなった。
女性を考えての事だろう・・・・・が、朱花に対しては「主に対し失礼な事を聞く小娘」という侮蔑と警戒の眼差しを送った。
「さぁ、手伝って。この風呂敷を広げて」
結ばれていた紐を夜姫が解いて四方から引っ張ると・・・・・あら不思議。
風呂敷は赤い裏地を広げて地面に舞い落ちた。
そして夜姫は赤い裏地の下に立つと包まれていた小さな箱などを上に放り投げた。
すると、これまた不思議な事に箱などは静かに布の上に置かれると・・・・・・綺麗な料理になっている。
「す、凄い・・・・・・・」
「これは・・・・・・・・」
「夢でも見ているようですわ・・・・・・・」
朱花、翠蘭、董卓の親族達は目を丸くさせるが、夜姫は「ほら、手伝って。人数分用意するんだから」と言った。
それを言われて皆は夜姫の手伝いを始めた。
差し詰め・・・・・家族が帰って来るから急いで準備をしている・・・・・そんな画になりそうな場面だったのは言うまでもない。
しかし、そんな平凡そうで、如何にも有り触れた絵画こそ夜姫が願う・・・・・・・・・・・夢なのだ。