番外編:愛しき英雄達よ
更新が遅れて申し訳ありませんでした。
次の編が上手く思いつかず・・・・少しばかり番外編と称し長安編で書けなかった部分などを暫くは書きたいと思います。(´・ω・`)
洛陽から遷都されて新たな首都になった長安。
しかし、その長安は・・・・・最早、風前の灯火ならぬ風前の塵---物事の儚さを表現していた。
既に長安は紅蓮の炎に包み込まれており、殆どの物が灰になって風によって飛ばされていたのだ。
それを離れた場所---少し高い丘から覗く者達が居て、その者達に視線を向ける。
丘に居る者達は全員が武装して、中には傷付いた者もおり戦場の凄惨さを表現しているが、長安を見続ける眼は・・・・・・人間の創る物が如何に儚いか・・・・・それを見つめていた。
ただ、先頭に立つ娘は誰よりも感慨深い眼で見つめているのが興味深い。
娘は20になった位だが、月色の双眸は誰よりも世の中を知っているような感じが強くて・・・・とても儚い視線をしていた。
見た事もない鎧甲冑に身を包んだ娘は銀と紫が綺麗に混ざった妖しい気を放つ髪を髪で揺らしながら燃え盛る長安を見つめている。
「・・・・・・嫌な物ね」
静かに娘は馬上から見える長安を見て評したが、何が嫌なのだろうか?
「昔を思い出したのか?」
ここで娘の隣に男が立ち、馬の轡を掴んで問いを投げた。
「えぇ・・・・・まるで、あの時のように見えるんだもの」
と、娘は男を見て答えるが・・・・・月色の瞳は寂し気だった。
嗚呼、と男は金色の双眸を細める。
確かに・・・・娘には嫌な物---光景に映るだろう。
今、娘の眼に映る長安は・・・・・かつて住んでいた都だ。
皆が仲良く暮らし、そして娘が治めていた豊かな都だったが・・・・・・・最後には燃えた。
それは庇護していた民草が裏切り、あろうことか城を攻めて娘と自分達を追い出したからに他ならない。
お陰で都は無政府状態に陥ってしまい、女は犯されるし、虐殺と略奪は当たり前の阿鼻叫喚の地獄絵図になったのである。
故に・・・・・娘は決断したのだ。
『都を・・・・城を燃やして。私の思い出と共に燃やし尽くすのよ!!』
と、娘は泣きながら叫んで自分達は従う形で・・・・・・都と城に火を点けて、外側から門を閉じると中に居た民草と言う下衆共を一人残らず焼き殺した。
当然の報いだ。
あれだけ娘の庇護を受けて暮らしていたのに裏切ったばかりか、刃を向けて来たのだからな。
しかし、その時の娘は・・・・まだ踏ん切りがついていなかったのだろう。
『嗚呼、私の思い出が・・・・私の家族と過ごした都が・・・・・お父様から・・・・・やっと褒めて下さった御父様から貰った都が!!』
あそこまで感情を爆発させたのは自分が知る限り・・・・・片手で数える程だが、それだけ娘にとっては強かったのだ。
まさか、また・・・・・似たような光景を見るとは思いもしなかったが、それは娘も同じだったのだろう。
今回も自分で命じて、そして気持ちは整理したのだろうが・・・・・やはり駄目か。
「安心して。大丈夫よ」
ここで娘が声を掛けた。
「本当かい?見たんだろ?過去の事を」
「えぇ、見たわ。でも、私が命じたんだもの。自分が命じた光景くらい見ないと駄目よ」
「・・・・・強くなったね。姫さん」
男---道化は金色の双眸で娘---仕えるべき主人を見て評した。
「強くなければ生きられないし、優しくなければ生きる資格なんて無い・・・・・貴方の口癖でしょ?」
「はははははは・・・・・そいつは俺が人間界で暇潰しに見つけた小説の主人公が言った台詞だよ」
と、道化は笑いながらネタをばらした。
「あらそうなの?でも、良い言葉じゃない。まぁ、私の場合は苛烈さが凄いけどね」
娘は小さく笑うと燃え盛る長安を暫し見続けたが、道化は少しばかり違っていた。
「さて、長安も燃えて敵も一掃できた。これで一件落着だが、少し俺から姫さんにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「あぁ。なぁに・・・・・なけなしの力を使って、少し姫さんを喜ばせようと考えたんだよ。どうか、この道化に従ってくれませんかね?」
クルリ、と回り道化は恭しく頭を下げてみせるが、それが道化らしく見る者を笑わせた。
「うふふふ・・・・・相変わらず催しを企むのが好きね?じゃあ、聞くけど・・・・・それは私以外の者も楽しめて?そう、例えば老いたけど心優しき婦人や幼子とかも」
嗚呼、こういう所が元婚約者と違う点だ、と道化は思った。
元婚約者---娘の妹は自分中心で、他は飾りか、供え物みたいな感覚でしか見ていない。
自分も似たような存在と思っているから娘の言葉は嬉しいものだった。
「あぁ、楽しめるさ。ただ、俺は姫さん・・・・・あんたが一番大事だ。だから、あんたが楽しめる催しではある」
「忠義心御苦労ね。では・・・・・頼めるかしら?」
娘が道化に問うと、道化は待ち侘びていた言葉を言われたのか・・・・・・・
「既に準備万端です」
と言い、指を鳴らした。
すると・・・・・・一団は一瞬にして丘から姿を消してしまい、全てが燃えた後の長安を見る者は誰も居なくなってしまい、長安は寂しく・・・・・・何も残さずに消えた。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
長安から姿を消した一向だが、どういう訳か・・・・・・見た事もない景色を皆で浮遊していた。
「こ、これは・・・・・・・」
連合軍の総司令官の一人である袁術は今の状態に眼を丸くして、同じく浮遊している劉備、孫堅、袁紹達を見るが、彼等も同じく訳が分からないようだった。
「ああ、安心しろ。今、俺の力で全員を“ある場所”に連れて行く所なんだ」
と、道化が何処からともなく現れて袁術たちに伝える。
「ある場所とは何処だ?いや、それ以前に姫様は何処だ?」
袁術は辺りを見回して自分と、他の者達が仕える主人---織星夜姫が居ない事に問い掛ける。
「姫さんなら一足早く着いているぜ。まぁ、あんた等も直ぐに到着するから安心しろ」
「何が安心だ!こんな訳の分からない状態にしておきながら!!」
「そうだ!早く何とかしろ!!」
袁術と袁紹は腹違いの兄弟だけあってか・・・・・ほぼ同時に道化を罵倒した。
「憎んでも血は争えねぇな?やっぱり兄弟だぜ」
2人の様子に怒りもせず、寧ろ笑いながら道化はクルリと一回転した。
「そう、焦るなよ。姫さんたちを先に到着させたのは・・・・・まぁ、言うなれば宴の催し、そして何れ帰る予定の“家”を見せたかったのさ」
先程の態度を一変させて道化は何か感慨深い表情をして袁術と袁紹、そして連合軍と董卓軍の者達に伝えた。
「家・・・・か。なるほど。夜姫様の為だけに動く、と言ったのは過言ではないな」
ここで一人の男が道化の言葉に相槌とも賛同するような言葉を口にした。
男の名は華雄と言い、董卓の片腕---呂布よりも董卓の信頼があった、と言える武将である。
「お前さんは勘が鋭いな。姫さんなら探偵にでもなれる、と言う所だぜ」
「探偵?」
「ああ、密偵みたいなもんだ」
と、道化が言うと華雄は「あの方らしい」と微苦笑してみせる。
「そういう所も姫さんが好む所だから気を付けな?姫さんは恋多き女だ。嫉妬する野郎は多いぜ?」
「だろうな。だが・・・・・・いや、止めておこう」
華雄は道化の言葉に同意しながら何かを言おうとしたが、途中で自ら首を横に振った。
「何だよ?途中で言うのを止めて」
「いや・・・・・流石に二度も女の心を覗きたいとは思わん。そして・・・・・・それが私の忠誠の証なんだよ」
道化は華雄の言葉を聞いて「そりゃ言えてるな」と相槌を打ったが、本心では華雄の気遣いに感謝していた。
『あんたは気遣いが上手いな。とは言え・・・・所詮、俺達は繋ぎ役か、相談役、よくて兄貴的な存在にしかなれねぇ』
夜姫と言う娘が愛する男は・・・・・・転生した後も前も唯一人だけなのだからな。




