第六十一幕:勝負の結末は・・・・・・・
更新が遅れてすいません!!
次回の2話で長安編は完結しそうです。(前にも書きましたが・・・・・・・
燃え盛る長安の城の最奥部で、天下の大悪党である董卓と天の姫こと織星夜姫の戦いは間もなく終焉を迎えようとしていた。
しかし、夜姫の内部---心と頭は違っていたようだ。
『・・・・・・・・』
自分の身体だというのに、まるで自分ではない感覚を抱いてしまう夜姫は・・・・・目の前で手傷を負いながらも立ち向かおうとする壮年の男---董卓を見ていた。
『あんなに血だらけなのに、まだ来ようとしているのね・・・・・・・・』
大した男だ、と冷静に思う反面で血の臭いに酔いそうにもなる。
『大丈夫?現世の私』
と、夜姫に語り掛ける・・・・・もう一人の夜姫。
こちらが今、身体を動かしている夜姫---即ち前世の夜姫であり、その彼女の心中で今までの事を見ていたのが現世の夜姫だった。
『ね、ねぇ、どうするの?』
前世の自分に問い掛けると・・・・・・・・・・・
『そこは貴女も考えて。私は戦とか政の観点から董卓を生かしたいの』
貴女も感づいているでしょ?
『今は三国志の時代に突入する手前。そして貴女が知っている時代ではなく、一種の異世界なのよ』
つまり・・・・どうなるかは分からない。
『その証拠に曹操なんて既に魏を打ち立てたわ。まぁ、恐らく脱落した所を見る限り呉みたいに群雄たちの寄り合いかもしれないけどね』
更に言えば孫堅だ。
『あの方は既に死んでいるわ。それなのに生きているのよ?十分に異世界で、何でもありと思えるでしょ?』
『そうだけど・・・・・・あの、それで私にも考えろって言うのは?』
現世の夜姫は戦とは無縁の生活を送り、大学に通う2年生で演劇の団員である。
それを考えろ、と言われても分からない。
『嗚呼、言葉が足りなかったわね。私は董卓を生かしたいと思うのは・・・・・・あの男の伝手と軍事力よ』
これの意味が解るか、と前世の夜姫は現世の夜姫に問いを投げた。
『董卓は若い頃、辺境の民族と交流があった。しかも、戦ったら戦ったで強いから民族たちは董卓に畏敬の念を抱いた。そして部下達には気前よく褒美をやる事から・・・・・人心掌握の術にも長けている』
と、現世の夜姫が言えば・・・・・・・・・
『その通りよ。流石は私の生まれ変わりね?良い将か参謀になれるわ』
『私には無理よ。だけど、貴女が董卓を生かしたいと思うのは理解できたわ・・・・・魏や貴女の妹と呂布達を相手にするとなれば・・・・・・・厳しいもの』
現在、連合軍の主力は半ば袁紹と袁術で賄われている、と言っても良い。
劉備は義勇軍で国が無いし、孫堅も呉を治めているが・・・・・呉は寄り合いで出来た国で些か危うい。
逆に袁紹は袁家の当主で曹操と唯一対等に渡り歩ける力を所持しており、袁術も袁家の嫡男であるから袁紹には劣るが・・・・・それでも力を持っている。
しかし、この2人だけで曹操と呂布達を相手にするとなれば厳し過ぎる。
では、どうするべきか?
この国---漢王朝の力が及ばない、または敵対している勢力などを頼れば良い。
『今の時点では私、満足に戦えないの。臣下たちが力を貸してくれたから出来るだけなのよ。そこを妹が見落とす訳ないでしょ?』
『だから・・・・・董卓を生かしたいのね。でも、董卓が果たして承諾してくれるのかしら?』
現世の夜姫は疑問を抱いた。
少なくとも・・・・この世界に居る董卓は肥満体じゃないし、呂布に殺されてもいない。
そればかりか個人戦でも強いし、部下の手綱も握っており、今も折れた剣を手に戦おうとしている。
こんな男を跪かせて・・・・・力を貸せ、と言い承諾させる事が出来るのか?
『出来るわよ。私だと荒っぽいけど・・・・・・貴女なら出来るわ。董卓を説得できる』
前世の夜姫が現世の夜姫の抱く疑問を砕くように言った。
『どうして私なら出来ると言えるの?』
『あら、解らない?私は貴女で、貴女は私なのよ』
だから、出来ると解る。
『それに・・・・・・もし、失敗しても私が動くから大丈夫よ。貴女の身体を使って人殺しをしているから気分は悪いでしょうけど』
『・・・・・・・・・・』
現世の夜姫は前世の言葉に無言になるが、確かに嫌な気分ではある。
ここに辿り着くまで・・・・・・数え切れない人を殺してきた。
自分の身体なのに・・・・・・自分ではない者が動いているのだから尚更だった。
『でも、貴女は私だもの。それに・・・・・死にたくない、と思うわ』
現世の夜姫が無言から言葉を発したが、それは自分を納得させる言葉だったのは言うまでもない。
『そう・・・・・私も最初に人を殺した時は嫌悪感で一杯だったわ。そうやって自分を何度も納得させる言葉を言ったの』
しかし、一番手っ取り早かったのは・・・・・・・・・・
『酷い話だけど、場数を踏む事よ。でも、何かを成し遂げる為には犠牲は付き物。そして私はやる事があるから死ねないの』
『それは私もよ・・・・だけど、ありがとう』
現世の夜姫は前世の言葉に礼を述べて、何かを決意したように・・・・・先程とは違う力強い声を発した。
『私、董卓を説得してみせる。貴女は・・・・何もしないで。私がやるわ』
『うふふふ・・・・やっぱり私ね。そうやって決意するんだもの。じゃあ、決着をつけるわよ?』
『うん』
現世と前世の夜姫は声を合わせると・・・・・・身体を動かした。
「どあああああああああ!!」
董卓が渾身の力を振り絞り、折れた剣を上段から振り下ろす。
身体ごと打ち込む捨て身の技だった。
『現世の私、よぉく見てなさい。これで・・・・・・・・・・』
『チェック・メイトね』
2人の声が重なると同時に夜姫の身体が動いた。
捨て身の技に出た董卓に・・・・自ら進んだのだ。
「!?」
これに董卓は驚いたが、既に剣は振り下ろされており如何に兜を被っていようと・・・・・・危険だ。
それなのに夜姫は自ら進み出て・・・・・・董卓の剣を頭一つ分ほど横に捌く。
どうやったのか?
分からない。
しかし、確かに・・・・・夜姫の剣は董卓の剣を頭一つ分ほど横に捌いて、己が剣を董卓に向けたのは確かである。
要は一つの動作で攻防を・・・・・・やり遂げたのだ。
そのまま刀身を董卓の右小手に当てる。
いや・・・・・当てる寸前で止めていた。
後少し動かせば右小手が切断されるか、そのまま突けば右肺を貫いて致命傷を与えられる。
「・・・・わしの負けだな」
董卓は笑みを浮かべると剣を捨てた。
「さぁ、わしを好きにしろ」
ドカリ、と董卓は胡坐を掻くと夜姫を見上げて告げる。
「随分と潔いのね?」
「ふっ・・・・これだけ完璧に負けたのだ。そして最後に主役になれた。何も思い残す事などない」
まるで遊び疲れた子供みたいに董卓は笑い、夜姫は血を吸った白刃を董卓の首筋に当てる。
「潔い男ね・・・・項羽が貴方に剣を持たせたのも頷けるわ」
少なくとも項羽は自意識過剰な性格ではあるが、潔い所もあり人を見る眼もある。
故に・・・・人の好き嫌いはハッキリしており、剣に魂を宿した身だった頃も同じだろう。
恐らく気に入らなければ何かしらの手を使い、自ら手放せるように仕向けた筈だが・・・・・・董卓に関しては今まで従っていた。
きっと董卓を買っていたのだろう。
やはり・・・・・この男は殺すには惜しい。
かと言って自分では力尽くで従わせる可能性は高い。
ここは・・・・・・・・・
「・・・・交換するわ。現世の私」
と、夜姫は言った。
「どういう意味だ?」
董卓が問い掛けるも夜姫は答えず・・・・・・月色の双眸から剣呑な色を消した。
それを見て董卓は「嗚呼、そういう事か」と納得したのである。