第五十六幕:部屋の奥へと・・・・・・・・・
更新が遅れました!!
もう直ぐ長安編が完結します。
董卓軍の者達は連合軍の方から出て来た一組の男女に眼を見張る。
女の方が・・・・・見覚えがあったからだ。
男の方も知っていたが、女の方は印象がガラリと変わっていた。
華雄と胡しんは眼を細めながら女---20代になったばかりの娘を見る。
雪みたいに透き通った肌を護る防具は・・・・・自分達が着ている防具より遥かに堅牢そうだ。
先ず胴当てが一枚の鉄板で出来たように繋ぎ目が表面に見られない。
少なくとも自分達の防具は繋ぎ目が見える。
その胴当ては黒に近い濃紺で、他の防具も同じ色だった。
右の肩当ては長方形だが、左の肩当ては丸くて動き易いように見えるし、籠手は腕から手の甲まで繋がっており、丈夫な布地に鉄板を縫い付けていた。
下の方はスカート状だが、脛と足を護る脛当てなどは付けている辺り中々に考えられている。
そして兜は真ん中に龍とも虎とも見える・・・・・様々な動物が合わさった怪物の飾りがあって、その怪物の翼は上に伸びていて何かを連想させるが何だろうか?
防具を一通り見た2人は娘が持つ剣に眼をやる。
反りは浅くて、左右には稜線があって見た事が無い刃文まである。
長さは2尺6寸(78cm)で、刃毀れは一つも無いが・・・・・人間の血と脂は刃に付着しているから人を斬った、という事は判明した。
しかし、それだけではない。
左腰には鞘を差していたが、その鞘は2本あって1本には柄まである。
つまり予備の剣だ。
予備の剣は2尺(60cm)程だったが、右腰には9寸5分(30cm)の短刀を差していた。
恐らく右腰のヤツは・・・・・組み討ちに持ち込む際に使うのだろう、と華雄と胡しんは推測してから男の方に眼をやる。
全身を真っ赤な血で染めた男は7尺(2m)の櫓落としの柄に、2尺(60cm)はある穂先を取り付けた直槍を所持しており腰には3尺5寸(10.65cm)の長刀と、2尺3寸1分(70cm)の特注大脇差を差していた。
どちらも知っているが、華雄も胡しんも余りの雰囲気に息を飲み込む。
この2人は自分達が知っている2人ではない。
いや、娘の方は匂わせる言動があったが・・・・・まさか、ここまで鎧甲冑を纏い来るとは予想外だった。
「約束通り・・・・・会いに来たわよ?董卓」
娘が足を止めて即席盾の遥か背後に居るであろう男の名を呼ぶ。
すると・・・・・・・・
『・・・・・本当に来たな』
と、盾越しに声が返ってきた。
「私は約束を守る女よ。個人的にも借りがあるし、今後の事も考えると貴方は必要だもの」
月の瞳を宿した娘が滑らかに言うと、盾越しに笑い声が聞こえてくる。
『はははははははは・・・・・・中々の口説き文句だな。しかし、呂布はどうした?』
「あら、天下に名を広めた極悪人ともあろう男が聞くの?」
クスッ、と娘は笑うが・・・・・その笑みは酷く冷たい。
「取り逃がしたわ。でも、奴らに加担していた者達は片っ端から殺したけどね」
『なるほど。しかし、王允は逃げたぞ。他の宦官や文官を引き連れて、な』
嗚呼、そんな男も居たわね、と娘は思い出したように相槌を打つ。
「私の記憶では長安で死んだけど、こちらでは逃げたのね・・・・・・まぁ良いわ。それより今すぐ盾を退かして私に降伏しなさい」
『断る。わしを降伏させたいなら力尽くで来い。わしは天下の大悪党---董卓だ!!さぁ、来い!わしを倒す敵---織星夜姫よ!!』
構え、と男---董卓が命じると銃眼から一斉に鏃が顔を出す。
「なら、力尽くで降伏させるわ。文秀」
「御意」
娘---織星夜姫の声に文秀、と呼ばれた男は前に出る。
右手には大量の人間を殺したであろう・・・・・・大身槍を持っていた。
「我が殿・・・いえ、元我が殿。我が新しき主人の命により・・・・・貴方様を腕尽くで屈服させます」
『文秀か・・・・良かろう。放て!!』
ヒュンヒュンヒュンヒュン!!
董卓の命に銃眼から出ていた鏃が勢いよく飛び出す。
「参る!!」
文秀は大身槍を片手に矢の雨に自ら突っ込む。
何本かの槍が文秀の肩などに命中するが、それに構わず彼は即席盾に当て身を喰らわす。
『うわぁぁぁぁぁ!?』
即席盾に体当たりをした文秀は・・・・・・盾と逃げ遅れた兵達を一緒に吹き飛ばす。
しかし、それを狙っていたように矢が文秀に射かけられる。
そして矛や戟牙などを装備した者達が一斉に穂先を文秀に向けて・・・・・突撃した。
ところが、待っていたように夜姫が地を蹴る。
対して文秀は石突きを利用して一気に敵兵を飛び越えて弓兵の所へ行った。
まるで最初から話し合ったような感じだが、驚くべきことに・・・・・文秀は無意識にしていたのである。
「ていや!!」
夜姫は2尺6寸(78cm)の剣を振い、戟牙や矛の部分を切り落として舞でもする如く・・・・兵達に当て身や蹴りをくれて倒す。
「悪いけど邪魔はさせないわ」
静かに言う夜姫の足元には・・・・・・一撃で倒された兵達だけが残る。
そして先を見れば文秀も似たように弓兵の弦を切断して、弓を使えなくしてから敵兵を倒していた。
「さぁ、董卓・・・・・もう直ぐ行くわよ」
軽い足取りで夜姫は兵達の間を進んで、文秀は夜姫が来るまで待ち続ける。
「さっきの行動は偉いわね」
「はぁ・・・・何か、身体が勝手に動いたんで」
文秀は素の言葉で夜姫の褒め言葉に曖昧に頷く。
「あら、前に戻ったの?私としては獣みたいに荒々しい方も好みなんだけど」
「はぁ・・・・・・・・」
何と言えば良いか分からず・・・・・・いや、正確に言えば背筋に冷たい殺気を感じて文秀は曖昧に頷く。
下手に言えば・・・・・・あの近衛兵の副長---李広に殺されてしまう、と本能で理解したのだろう。
ここには居ないが、あの老武将の事だ。
夜姫の事となれば直ぐに気付いて自分を締め上げるに違いない、と短い付き合いで文秀は理解した。
「まぁ良いわ。さて、まだ先は長いわ・・・・・行きましょう」
「御意」
夜姫は2尺6寸の剣を持つと悠々と歩んで、その後を文秀は追い掛ける。
対する董卓軍は兵達を前にこそ出したが・・・・・・攻撃して来ない。
「もう降参するの?それなら無駄な時間を掛けずに済むんだけど」
「・・・・・・・・」
戟牙や矛を突き出しながらも攻撃して来ない敵兵に夜姫は問い掛けるが、何処か余裕が見え隠れしている。
それに対して文秀は無言で周囲を警戒した。
少なくとも董卓は馬鹿でもなければ無能でもない。
寧ろ切れる男だ。
あの即席盾だって見上げた物だ。
そんな事を考え付く男だ・・・・・きっと自分達が民兵と戦っている間に仕掛けを施したに違いない、と文秀は勘ぐる。
ところが、夜姫は無造作に足を進めて行く。
「姫様、そのように・・・・・・・・!?」
余りの不用心さに注意しようとした時である。
斜めから何本もの矢が飛来した。
狙いは夜姫だ。
同時に・・・・・・前からも敵兵が一斉に突っ込んで来る。
「姫様!!」
文秀は慌てて駆け寄ろうとしたが、その文秀にも矢は飛来してきた。
「ぬぅ!!」
大身槍で矢を全て弾いた文秀は今度こそ駆け寄ろうとしたが、それを見た華雄と胡しんが剣を抜いた。
「今だ!皆の者、掛かれ!!」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
華雄と胡しんの命に従い兵達が一斉に突っ込む。
しかし、夜姫は落ち着いた表情のまま文秀を見て・・・・・・・
「後は頼むわ」
フワッ、と夜姫は宙を舞い・・・・・敵兵を全て乗り越えて部屋へと入る。
そして残された文秀は・・・・・・・・残りの兵達を全て一人で相手にする事になった。




