第五十五幕:年貢の納め時かもしれない
更新が遅れました。(´・ω・`)
長安を焼け野原にしようとばかりに炎は燃え盛り、ついには城にまで迫る勢いだった。
しかし、その前に焼こうとばかりに・・・・・事切れている民兵達を無慈悲に焼く。
民兵達は迫る炎を甘んじて受け入れて、その身体を焼かれては異臭を長安中に撒き散らす。
長安は地獄絵図だ。
家々は壊され、砕かれ、人は槍で貫かれて、剣で斬られて、棍棒で殴打されて、はては馬の蹄で踏み殺された死体で一杯だった。
中には生きている者も居たが、生憎と手足を捥がれたりしているので自力で脱出する事は不可能だ。
「た、助けてくれぇ!誰か!誰か、助けてくれぇ!!」
その者は肩から先が無い右腕を抑えて、糞尿を漏らして泣き叫んだ。
そして助けを求めるが、生憎と誰も答える者は出て来ない。
城の中に入っても・・・・・夥しい血と死体しか残されていないのが良い証拠である。
「誰か助けてくれぇ!誰でも良いから助けて!!」
男は泣き叫んだが、血は今も大量に流れ続けており男から生気を奪い取って行く。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・か、誰か助けてくれ!!」
息が荒くなり、男は呼吸を整えてから再び叫んだ。
すると、男の声が届いたように・・・・蹄の音が城の方から聞こえてくるではないか!!
「た、助かった・・・・・ぐ、うぅぅぅぅぅぅ」
痛みを堪えて男は背中を預けていた壁から立ち上がり、重い身体を引き摺るようにして音がする方角へ向かう。
動きが思う様に早くならず、その間も蹄の音は近付いて来る。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・お願いだから待っていてくれよ」
男は霞みそうな双眸を無理やりハッキリさせて、鉛みたいに重くなり、力が入らなくなった足を叱咤して前に進む。
その気力が実を結んだのか・・・・・・ちょうど馬に乗った兵達---五原騎兵団の前に出た。
「お、おいっ。俺も一緒に・・・・・・・・!?」
前に出た事で男は停止してくれる、と思ったのか声を掛けたが・・・・・・それを彼らはせず、いや、眼に入らなかったのか男を踏み付けた。
1頭だけではない。
2頭・・・3頭・・・4頭・・・5頭・・・10頭・・・20頭・・・50頭・・・70・・・100・・・・・
数え切れないほどの馬に男は無慈悲にも踏まれ続けて、悲鳴すら掻き消された後・・・・・ボロボロになった身体を仰向けにした。
五原騎兵団は燃え盛る長安を掻い潜り、粉々に砕けた門を風の如く通ると・・・・・そのまま何処かへ消え去った。
「げ、ゲホッ・・・・・も、もう・・・・・駄目、だ・・・・・だ、・・・・ない・・・・・死にたくねぇよ・・・・・・・・・」
ボロボロ、と男は涙を流して天を仰ぐ。
普通なら馬に踏まれて死ぬ筈だが、最後位は独白させる時間をやろう、と神が与えたのだろうか?
いや、違う・・・・・・・・
これは懺悔みたいなものだ。
要は己が犯した所業を後悔して、その後悔に苦しみつつ・・・・・ゆっくり死に絶えろ、という訳だ。
“あぁ、そうさ。小僧・・・・・ゆっくりと苦しめ”
誰かの声がして、その声が男の耳に聞こえてきた。
「だ、誰だ!?」
息も絶え絶えの声で男が問い掛ける。
“お前らが殺そうと娘の臣下だ”
「何だ、と・・・・・・・・」
男が眼を剥いて天を見上げると・・・・・・何時の間にか一人の男が現れた。
年齢は30代後半から40代前半で、腰には3尺(90cm)余りの大刀を差している。
「よぉ、自称天の姫に仕える兵隊さん」
しゃがれた声で男は笑いかけるが、金色の眼は「死ね」と言っていた。
「て、てめぇ・・・・・・・・」
「良い眺めだね・・・・・てめぇみたいに他人の褌を付けて相撲をする奴等が苦しみ抜いて死ぬ様を見るのは」
「ふ、ざけるな・・・・今に見ていろ。必ず俺の仲間や姫様が、あの偽者の小娘等を・・・・・・・」
「いいや、出来ねぇよ。言っただろ?他人の褌で相撲を取るような奴等は苦しみ抜いて死ぬ様が似合いだ」
男は冷酷に告げると、男を横切る。
「まぁ、精々・・・・もがき苦しみな。姫さんに仕える俺等は執念深くて残忍なんだ」
ははははははははは、と乾いた声を漏らして男は去って行き残された男は・・・・・・ただ、その背中を怨めしく睨むしか出来なかった。
やがて男の眼から生気が失われて行き・・・・・・そして死んだ。
しかし、男以外の人間---老若男女を問わず、死人は沢山出ているのだから悲しむ事はないだろう。
いや、男は悲しむ事がないか。
何せ天より至高の存在を治める姫に仕える臣下なのだから・・・・・・・・・・・
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長安の城奥では、血生臭い雰囲気---いや、臭いがプンプンしている。
「ぎゃああああ!!」
一人の兵士が肩に矢を射られて仰け反ると、それを護らんとばかりに盾を持った兵達が前に出た。
だが、それを押す勢いで家具などで即席の防御壁を設けた隙間---銃眼からは絶え間なく矢が飛んでくる。
「射て!射て!敵を一歩たりとも近付けるな!!」
防御壁の奥から壮年の男の声が聞こえてきた。
恐らく指揮官だろう。
即席の防御壁を築いて、更には銃眼などを設けて的確に相手を狙い撃ちさせる辺りは中々に頭が切れる、と見受けられた。
対する攻撃を仕掛けた方は盾を前にして少しずつ近付く。
しかし、城は広い上に廊下などもあり複雑だから・・・・・伏兵が隠れる場所は幾らでもある。
「それ!掛かれ!!」
バッ、と盾を持った兵達の側面に剣を持った壮年の男が斬り掛かると、それに続く形で武装した兵達が側面を突く。
『くそ、またか!?』
兵達は敵の戦術に再び引っ掛かった事に苛立ちを隠しもせず側面を突いてきた・・・・・敵伏兵を迎え討とうとした。
ところが、前からの矢も雨霰の如く襲い掛かり・・・・・忽ち殲滅されたのは言うまでもない。
「このまま押し返せ!!」
指揮官らしき男が叫ぶと、兵達は矢の援護を受けながら一気に側面から敵兵を攻撃する。
もちろん敵兵も負けじと押し返すが、如何せん前哨戦での疲労困憊が出て来たのか・・・・・押され始めてしまい、最終的には扉の外にまで追い返されてしまった。
「よし、盾を前に進ませろ!少しでも敵を遠ざけるのだ!!」
指揮官が命じると、即席盾を分解し直して兵達は前へ進む。
十字路の所で盾を組立て、十字路を占領した。
もっとも・・・・・十字路は運が悪ければ敵が一斉に来る可能性もある。
つまりは自ら敵の数を増やす事になる訳だ。
それなら十字路の手前---即ち合流して真っ直ぐの道に盾を設けた方が良い。
真っ直ぐな道に設ければ仮に来ても一直線で来る敵を相手にすれば良いのだから。
しかし、指揮官は十字路に盾を設けて、そこに兵を配置して迎え撃つ構えを取るから不思議だ。
「華雄、来い」
と、指揮官が部下と思われる男の名を呼ぶと直ぐに一人の男が駆け寄って来た。
年齢は壮年で中々の男前であると同時に鎧から察するに・・・・・一将だろう。
この男こそ董卓の養子だった呂布の代わりを担う華雄で、指揮官が上司に当たる胡しんだ。
「殿は?」
胡しんは華雄に主人である董卓の事を聞いた。
「幸いな事に回復しております。親族の方も無事ですが・・・・・時間の問題かと」
「・・・・・・・・・」
華雄の言葉に胡しんは無言になるが、それこそ答えだった。
呂布と五原騎兵団は離脱して、更には民草が暴動を起こした。
挙句の果てには連合軍も攻めて来て・・・・・最早、逃げ道は無い。
何せ呂布と五原騎兵団が離脱したのが痛い。
あんな男でも実力と軍団は有り難い戦力だったのだから・・・・・・・・
「年貢の納め時、というヤツか?」
胡しんは普段なら言わない言葉を吐いたが、現状を打破する術が無い以上は・・・・・その通りだった。
「そうかもしれません。ですが、何とか戦えるだけ戦いましょう。その積りですよ。殿は」
と、華雄は言い即席盾の隙間---銃眼から様子を見る。
今の所・・・・・敵は追い出されて来ないが、また再び来るだろう。
そう思った時だ。
華雄の眼に・・・・・・1組の男女が眼に入ったのは。