第五十四幕:与えられた気の副作用2
呂布の左肩から大量の血飛沫が迸り、それから間もなく内臓と思わしき物も出て来た。
「ぐ、ぐぐぐぐ・・・・・・・・・」
片膝をついた呂布は左肩を抑えて呻く。
「分かったか?それが副作用だ」
文秀は大身槍を静かに握りながら告げた。
「な、何?」
「知らないのか?与えられた気なんだ。つまり・・・・てめぇの気じゃない。要は他人様から貰った気なんだよ」
そんな気を連続で、しかも、全力で使えば副作用は必ず起こる。
「特に我が姫君の妹も人間を遥かに凌駕する力を持っているんだ」
我が姫君に比べれば大した事ない、と断ってから文秀は言う。
「しかし、そんな女でも人間の身体には毒にも薬にもなる。それを知らずに・・・・・全力で使い続けたんだ。それ位の副作用は起こる」
文秀の説明を呂布は激しい激痛に耐えながら頭の中で整理した。
『夜姫の妹は人間を遥かに超えた力を所持しており、それを俺に与えた・・・・・・・』
これが気というヤツだ。
『そして俺は全力で使い続けて・・・・・・それが故に副作用が起こった訳か』
何とも馬鹿な行動である。
普通---少なくとも本当に武を学んで、自分の血肉と化した者や仙人などの知識を持つ者なら解る事柄だ。
いや、恐らく董卓なども理解しているだろう。
辺境だからこそ自然の強大さを理解して、己も自然の一部と考える。
となれば己の体内には気という物が流れている、と分かるのだ。
しかしながら、呂布は知らなかった。
与えられた気を自分の力と勘違いして、勝手に副作用を起こした愚か者でしかない。
「ぐ、ぐぐぐぐぐ・・・・・・お、おのれ!!」
左肩を抑えて呂布は文秀を睨む。
「おいおい、俺に怒るのは筋違いだ。元を正せば・・・・・お前の軽率な言動が招いた結果でしかない」
文秀は大身槍の柄の端---を握って長く持つようにした。
そしてダラリ、と脱力させて構えが無いような構えを取る。
あの構えは最速で槍を繰り出す構えだ。
「さぁ、そろそろ死んでくれ。お前さんを殺して姫様の加勢に行きたいんでね」
空中では今も文秀の主人と、その妹が戦っている。
主人---織星夜姫は無用、と言ったが臣下である以上・・・・主人の窮地を救わないと立つ瀬がない。
「という訳だ・・・・死ねよ」
空を切り裂き文秀の大身槍が呂布を貫かんと繰り出された。
それを見て呂布は激しい憤りを覚えた。
『俺が死ぬ?死ぬだと?!この天下に名を知られた呂布が?冗談ではない!俺は死なんぞ!必ず夜姫を物として、天将として天地に名を広めるのだ!!』
身体の底から激しい気が沸き起こり、呂布は自分の身体に異変が起こっていると感じたが、先程と違い別の異変だった。
まるで、殻を破り新たに誕生せんとする生命のようだ。
一体・・・・・・・・
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
呂布がカッ、と眼を見開いて仁王立ちになる。
すると・・・・・・彼の両肩が鎧を突き破り何かを出した。
あれは・・・・・・・翼だった。
真紅の翼を生やした呂布は猛然と文秀が繰り出した大身槍を奉天戟牙で弾き飛ばす。
「ハッ・・・・面白いじゃねぇか」
文秀は大身槍を弾かれた事よりも呂布の凄まじい気に眼を細める。
あの翼は呂布の気で間違いないが、人間が翼を生やすなど在り得ない。
では、何が彼に翼を生やせたのか?
夜姫の妹がやった気だ。
副作用が起こり始めたが、それを呂布は強靭な意志で己の物として・・・・・翼を生やしたに違いない。
『こいつは中々だな。だが・・・・所詮は、その程度でしかないな』
少なくとも文秀から見れば翼を生やした位が恐らく呂布の限界だろう、と見ていた。
本来なら凄い事だが、所詮は人間という殻を破ったに過ぎず・・・・・超人、仙人、悪鬼、魔神などの位の者には程遠い。
「まだ俺は死なんぞ!そして貴様を殺してやる!!」
呂布が血走った眼で文秀を睨み据える。
「へぇ・・・・・・俺を殺すか。それならやってみやがれ」
文秀は大身槍の穂先を下に向けると静かに口端を上げて笑った。
そんな所へ・・・・・・・・・・
「呂布、ここは引くわよ」
夜姫と同い年くらいで赤い髪に水色の瞳を宿し、金色と真紅を使った派手な鎧を纏った娘が呂布の前に出て文秀に80cmほどのロング・ソードを向けた。
左腰にはロング・ソードの鞘と、70cmほどのショート・ソードを差しており左手には全長40cmの円形型の盾---金属で覆い、より堅牢に仕上げたカエトラを握っている。
「まだ戦いは終わってないぞ!!」
娘に呂布は激昂した。
「怒鳴らないでよ。でも・・・・・自分で殻を破ったのね?おめでとう。それは貴方の力よ」
と、娘は呂布の背中から生えた翼を見て微笑む。
「ふんっ。貴様に踊らされるのが気に食わんだけだ。しかし、俺は引かんぞ。貴様こそ夜姫を倒せたのか?」
「・・・・いいえ。悔しいけど、今回は姉上に勝ちを譲るわ。でも、次は・・・・・最終的には私が勝つ」
娘は文秀の前に立った自分と同い年くらいの娘を見た。
銀と紫という色を絶妙に合わせた髪を惜し気もなく龍か、何かの獣を象った飾りを中心に羽を真上に伸ばした---変わった兜を被り、一枚の鉄板で出来たように繋ぎ目が表面に見られない濃紺の鎧を纏っている。
肩当ては長方形だが、左側は丸くて動き易いようにされており、籠手は腕から手の甲まで繋がっていて丈夫な布地に鉄板を縫い付けていた。
親指の部分は独立して他の指部分は露出しており自由度が高そうだ。
下の方はスカート状だが、脛と足を護る脛当てなどは付けている。
左腰には2尺6寸(78cm)の大刀と、2尺(60cm)の中刀を差して、右腰には9寸5分(30cm)の短刀を差していた。
娘は月色の双眸で対峙するように立つ娘を月色の双眸で見た。
「あらあら、随分と勇ましいわね。でも・・・・・本当に勝てるの?」
もう貴女を護っていた・・・・・・・・
「お父様もお母様も居ないわ。つまり貴女は、自分だけしか居ないわ」
と、意味深い言葉を娘は言って、手に持った2尺6寸の大刀を両手で握った。
「別に居なくても私は勝てますよ。姉上。それに・・・・・それは貴女にも言える事です」
私には両親の愛情と加護があるも・・・・・・・・・
「姉上にはありません。姉上にあるのは、かつて仕えた者達だけ。私とは違います」
「えぇ。違うわね。でも・・・・そんな傲岸不遜を画に描いた殿方で良いのかしら?」
「えぇ、構いません。何れ私には本当の殿方が来るのですから」
と、真紅の髪を持つ娘は言い、姉である娘---織星夜姫を睨みつつ・・・・・その姿を消して行く。
「見ていろよ。夜姫・・・・・・必ず俺は貴様を物にしてやる」
「まだ言うか。この野郎」
文秀が大身槍を片手に呂布に挑もうとするが、それを夜姫は止めた。
「放っておきなさい。何れ・・・・・殺すわ」
夜姫に止められた文秀は大身槍を退けて「御意」と言い、身を引いた。
それを見て夜姫の妹と呂布は完全に姿を消して・・・・・残ったのは民兵の死体と、夜姫、そして文秀の3人だけとなった。
「さぁ、文秀。いよいよ詰めに入るわよ」
「御意。ですが・・・・・あの2人とは長い勝負になりそうですね」
文秀は大身槍を右肩に掛けて、血で汚れた顔を手で拭いながら言った。
「えぇ、長いでしょうね。それこそ人間の一生が終わる位の大勝負よ。でも、貴方達を始め優秀な臣下が居るんだもの」
負ける確率があるのか?
と、文秀に夜姫が問い掛ける。
「いいえ。勝ちは貴女様の物となりましょう。我が姫君」
「でしょうね。さぁ、行きましょう。この勝負を・・・・勝つ為に、ね」
と、夜姫は言い文秀と共に城の奥へと向かった。