第四十九幕:姫君と共に城の奥へ
更新が遅れて申し訳ありませんでした。(汗)
フェンリルとヨルムンガルドの2匹が呂布達に狙いを定めた頃、織星夜姫を先頭にした連合軍は城の中に入っていた。
「各自、4人1組で行動しなさい」
馬から下馬した夜姫はハルバードを如何にしたのか・・・・・・消した。
そして腰に差していた2尺6寸(78cm)の打ち刀を鞘から抜いて、悠々と城の中へ入っていく。
「ひ、姫様っ!!」
少し遅れて城に入った連合軍---袁術、劉備、孫堅は一人で進もうとする夜姫を追い掛けようとした。
総大将---と事実上にいる夜姫が一人で進むなど論外だ。
何より彼等からすれば、夜姫は娘であり、妹であり、仕えるべき大事な主人でもある。
臣下として付いて行かねば、と考えるのも無理ない。
しかし、彼等よりも早く2間半(4.5m)はある櫓落とし(要塞の建物の櫓を突き崩す為の長柄の槍)の柄に2尺(60cm)はある穂先を合わせた大身槍を持った男が行く。
腰には3尺5寸(106.5cm)という異様な長刀を1本に、2尺1寸(63cm)の片手打ち剣を差しており、如何に巨漢か物語っている。
元董卓の部下にして、現在は夜姫の近衛兵となった文秀だ。
「文秀、流石に城内では2間半は長すぎるわ。少し柄か穂先を短くしなさい」
足を進めながら夜姫は言い、文秀は言われるままに柄を短くした。
柄の長さは忽ち2間半から7尺(約2m)にした。
どうやったかは定かでないが、7尺の柄にした大身槍を片手に文秀は夜姫の後を追い掛ける。
その後を袁術達も部下を引き連れて追い掛けようとしたが、項羽達が止めた。
「貴様等は我々と共に別方角から攻めるぞ」
「しかし、姫様は・・・・・・・・・・・」
「ふんっ。たかが餓鬼如きに我等が姫君が敗れる訳ない」
と、袁術の心配に李広が鼻で嘲笑して否定する。
「それに、だ。我等の中で決まり事がある」
「決まり事?」
袁術は思わぬ言葉に首を傾げる。
「新たに近衛兵となった者は、戦場にて姫様の御命を我が身だけで護る」
それが近衛兵の中にある決まり事らしい。
「別に姫様なら大概の者達---人間如きには負けん。他の奴等にも負けはせん。だが、問題は新たに入隊した近衛兵だ」
近衛兵になれるのは夜姫の眼に適った者だけ。
「姫様の眼に狂いはないが、我々は何時も疑っている。この者は・・・・姫様を護れるのか、とな!!」
李広がハルバードを一閃する。
ぐぎゃあ、と断末魔の悲鳴が城内に響き渡ると同時に太い柱が斜めに別れた。
その柱の影には敵兵が一人潜んでいたが、柱ごと身体を斜めにして事切れている。
「邪魔が入ったので、改めて言うが・・・・・・これは姫様が己を取り戻す戦でもあり、都へ帰る為に通らなくてはならない道だ」
だからこそ、夜姫は文秀を連れて城内へと向かっているのだ。
「董卓を倒す為---あの男を姫様の物にする為に、な」
そして・・・・・・・・・
「姫様の筋道を通しつつ、貴様等の顔を立てる為だ」
誰にも邪魔は出来ないし、させもしない。
「小僧、貴様も姫様の臣下ならば・・・・・・ここへ入ってくる敵を腹違いの兄弟と共に防いでみせろ」
フェンリルとヨルムンガルドが呂布達に狙いを定めたから、何れ来るだろう。
と、李広は言い劉備と孫堅を見た。
「そなた等は我等と共に城内の敵を倒すぞ」
『・・・・・御意』
老将の李広に諭された連合軍達は静かに、その儀に従う他なかった。
それとは別に夜姫と文秀はと言うと・・・・・・・・・・
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城内を進む一組の男女が居た。
その男女は互いに武装しているが、どちらかと言えば女の方が「付いて来なさい」という感じで男が従っているように見える。
娘は20を越えた位であるが、身体から放たれる雰囲気は遙かに大人の雰囲気であり、同時に戦場の雰囲気だった。
濃紺色の見た事もない鎧を身に纏って、2尺6寸(78cm)もある片刃の大刀を持っているのが良い証拠である。
娘の名は織星夜姫と言い、現在は連合軍の総大将を務めている娘だ。
彼女に従っている男の方は夜姫より数歳年上で、中々に整った顔立ちをしている。
しかし、見た事もない鎧兜を身に付けた上に・・・・・3尺5寸(106.5cm)という異様な長大刀と、2尺1寸(63cm)の片手打ち剣を差していた。
極め付けに2尺(60cm)もある穂先に、7尺(2m)の柄を合わせた槍---大身槍を持っている。
男の名は文秀と言い、元董卓配下の武将だったが今は夜姫に仕える新米近衛兵だ。
「姫様、そのように先を行かず私の後に・・・・・・・・・・」
文秀はドンドン先に行く夜姫を追い掛けながら言うが、夜姫の足は止まらない。
「貴女は私に付いて来なさい。爺達に何を吹き込まれたか知らないけど、これは私の戦いなの」
「別に私は吹き込まれていません。ただ・・・・・・・むっ!?」
なおも夜姫を止めようとした文秀だったが、何かを感じたのか足を止めて眼を細くする。
そして穂先と柄を合わせた直径9尺はある大身槍を構えた。
このとき腰を落として両足を大きく開いた辺り、文秀の武人としての才覚が垣間見える。
鎧などを着て戦う場合、腰を落として足を開かないと転倒して討ち取られてしまう可能性が極めて高い。
しかし、この場合は室内という事を考えての行動だろう。
「あらあら・・・・・もう追い付いたのね」
対照的に夜姫は2尺6寸(78cm)の剣を軽く握り、うっすらと微笑んでみせた。
「文秀、私の背中は任せたわ」
と、夜姫は言い・・・・・剣を構えると、片膝をついて突進してきた敵の胴を薙いだ。
「ぐぎゃ!?」
敵は民兵で、簡素な鎧を着ていたが剣によって腸を外に出して・・・・・床に突っ伏して事切れる。
「この女郎!!」
「死ね!!」
だが、まだ民兵は居り夜姫に襲い掛かった。
「ガッツク殿方は割と好みだけど、貴方達は例外よ」
静かに夜姫は言うと、膝を上げて民兵の一人を逆袈裟に乳首辺りまで斬り上げて、そのまま別の民兵を左袈裟に斬り下げる。
対して文秀は背後から来た民兵10人の内2人を一気に田楽刺しにした。
大身槍の穂先が深々と2人の心臓を貫くが、これにより大身槍は使えなくなり、隙が生じてしまった。
民兵の一人が文秀を横切り、夜姫を背後から斬ろうとするも・・・・・・・・・・
「ぐごっ!?」
その民兵は背後から心臓を貫かれた。
どうやって?
見れば・・・・鋭い石突きが貫いているではないか。
文秀は大身槍で3人も仕留めると、その3人を壁に叩き付けた。
「我が姫に指一本、触れさせぬ!!」
文秀は腰から3尺5寸(106.5cm)の長太刀を稲妻の如く鞘から抜くと、立て続けに2人の民兵を唐竹割りに斬る。
左右に4つの身体が分かれて凄まじい血飛沫が迸り、文秀を染めた。
だが、構わず文秀は夜姫を護る如く仁王立ちになる。
「我が名は文秀!織星夜姫様を護る近衛兵なり!我と思わん者は掛かって参れ!!」
血と脂で汚れた長太刀を片手に文秀は名乗りを上げた。
「怯むな!!」
と、残った民兵の遙か後方より上等な剣を持った男が声を荒げる。
「その者も殺せ!あの淫売女と共に殺せ!!」
男は剣を振り上げて、民兵達を奮い立たせようとするが、民兵達は文秀に恐れたのか動こうとしない。
「文秀、前は片付けたから前に行くわよ」
夜姫の声がして振り返ると、前の敵は皆・・・・・・一撃で事切れていた。
ある者は首筋を切られて、ある者は腋下を切られて、ある者は股間を下から切り上げられて、ある者は眼を射貫かれて・・・・・・・・・
全て人体の急所---動脈が流れており、鎧などを着ても防御し難い場所でもある。
「流石は我が姫君。雑兵など物の数になりませんな」
文秀はニヤリと笑った。
「当たり前よ。でも、貴方の豪快な戦い振りも素敵よ。さぁ、行きましょう」
「御意」
我が姫君、と文秀は言い背後を警戒しながら夜姫と共に城の奥へと向かった。