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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
124/155

第四十七幕:破滅を呼ぶ娘

長安に戦女神こと織星夜姫率いる連合軍は一気に進入した。


その後を五原騎兵団が追い掛けるようにして中に入り、民達の中にも後を追い掛けようと門を潜ろうとしたが・・・・・・・・・


無情にも門は閉められた。


「おい、開けろ!開けろ!!」


ドンドン、と巨大な門を叩くも門は固く閉じられて開けられる気配は無い。


ぎゃあああ・・・・・・・断末魔の悲鳴が背後から聞こえて、背後から押し潰されるように前に居た民達は押された。


見れば、他の民達も押し寄せて門を押し開こうとしているではないか。


『開けろ!ここを開けろ!開けてくれぇぇぇぇぇぇ!!』


生き残った民達は声を上げて叫んで、門を押し開こうとする。


それにより大勢の仲間が下敷きにされたり、押し潰されたが誰も構っていない。


背後では巨大な黒狼と大蛇が仲間を喰い殺す音が聞こえてきて、それが民達の心を乱していたのだ。


「ええい、何をしている?!早く門を開けろ!いや、燃やせ!松明で燃やしてしまえ!!」


馬上に乗っていた男は黒狼と大蛇をチラチラ、と見ながら民達に叫ぶ。


その言葉に応える訳ではないが・・・・・・民達は松明を門に向かって投げた。


仲間が燃えようと知った事じゃない。


今は一刻でも早く門を破壊して中に逃げ込みたいのだ。


『燃やせ!燃やせ!門を燃やして中に入れ!!』


口々に民達は叫びながら松明を門へと投げた。


これにより門は・・・・・・忽ち燃え始めた。


「良いぞ!そのまま押せ!押して突き破れ!!」


馬上の男は更に怒鳴る。


黒狼と大蛇は逃げた民達を追い掛けたが、そいつ等を殺すのだって大して時間は掛からない。


だから、今の内に早く門を壊して中に入らなければならない。


『押せ!押せ!押して押して、門を突き破れ!!』


民達は全員で門を突き破らん、と燃え盛る門を押した。


一番前に居る人間は燃え出して悲鳴を上げて、更に肉と脂が焼け爛れる臭いを出すが誰も気にしない。


やがて・・・・門が動き出した。


それに民達は更に力を込めて門を開けようと力を込める。


“ケッ・・・・・馬鹿が”


誰かの声が聞こえてきたのだが、血生臭い戦場---殺戮の地と化した場所では、誰も聞いていなかった。


“仲間が何人死のうと自分だけは助かりたいか・・・・・実に人間らしいぜ”


しかし、その人間らしさも直ぐに終わる。


何せ直ぐ死ぬのだ。


があああああ!!


門の内側から人間の悲鳴が聞こえてきた。


“くくくくく・・・・馬鹿が。追撃できる、と踏んだのは正解だが同じ轍を二度も踏むなよ”


連合軍にはハンニバルとスキピオが指揮するヌミディア騎兵が居る。


世界的に有名で勇ましい騎兵だが、彼らの装備は通常とは違う。


反りがある剣などは夜姫に従う者が持つ武器だ。


同時に・・・・・彼らを倒せるのは、そんじゃそこらの者では逆立ちしても出来ない。


それを知らずに挑むから死ぬのだ、と声は薄い笑い声を漏らして告げる。


謎の声が笑う間に門は左右に開かれた。


これ見よがしに民達は一斉に門の中に入って行く・・・・・・・仲間の死体を何度も踏み付けながら。


何とも醜い光景だが、本当に醜い光景は・・・・・これから始まるのである。


そう、地獄は始まったばかりなのだ。

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長安に入った民達の眼に最初に入ったのは・・・・・・燃え盛る家々だ。


そして周りには死体が転がっており、血の池となり強烈な死の臭いを放っている。


しかし、そんなこと民達は気にしないのか、死体から武器などを取り武装した。


「皆、油断するなよ?」


馬上の男は先ほどの恐がっていた態度を一変させて、如何にも指揮官らしい態度で部下達である民兵に言う。


「へんっ。今更そんな事を言っても遅いぜ」


一人の民兵が死体が所持していた剣を鞘から抜いて呟く。


「なんだと?」


「なにが油断するな、だ。あんな事になるなんて・・・・・・予想できたのか?いや、出来なかっただろ?」


あんな獣達と見た事もない兵達が出て来ると・・・・・・・・・・・


「というか、あの女は何者なんだよ?」


織星夜姫という小娘は・・・・・・・・・・


「私の姉にして、倒すべき敵よ。前に話したでしょ?」


上空から女の声がして、皆は一様に空を見上げる。


金色と真紅を使った派手な鎧を纏い、赤い髪に水色の瞳を惜し気もなく晒していた。。


腰には80cmほどのロング・ソードと70cmほどのショート・ソードを差して、左手には全長40cmの円形型の盾---カエトラを持っていた。


本来なら革製の盾だが、娘のカエトラは周りを金属で覆われており堅牢に仕上がっている。


「貴女、聞かなかった?」


あの大蛇は何物で、他にも居るのかと・・・・・・・・・・・・


「私は答えたわよ。狼がフェンリルで、蛇がヨルムンガルド。他にも居るけど今は二匹だけよ。他に聞きたい事は?」


「あ、あの兵達は、どうすれば殺せるんだよ?」


「普通の人間と同じよ」


と、娘は言うが・・・・・・本当は死なない。


あの者達は既に死んだ身で、また死ぬなんて事はないのだ。


しかし、一時的に戦闘不能状態にする事は出来る。


そして民兵が何人死のうと・・・・・・娘には関係ない。


こいつらは駒だ。


駒は打ち手の思うように動けば良い。


「さぁ、行きなさい。まだ勝負は始まったばかりよ。そして貴方達は私の駒。なら、言われた通りに動きなさい。私も動くわ」


娘が80cmの両刃剣であるロング・ソードを抜いて、死んだ馬の一頭に剣の切っ先を向ける。


「死した物よ。再び我が命に従い、その身を我に従え!さぁ、蘇れ!!」


ピクッ、と馬が動いて横にしていた身体を起き上がらせて・・・・・・身体を真っ赤にして、鼻から炎の息吹を出した。


「良い子ね」


娘は馬に跨がると、手綱を掴んで民兵達に言った。


「これより五原騎兵団と合流して敵軍を叩く。者共、私に続け!!」


ハイッ、と娘は馬の腹を蹴ると走らせて、民兵達もそれに続いて燃え盛る長安の中を進む。


すると、直ぐに五原騎兵団が横から出て来て合流したのだが娘は直ぐに気付く。


「呂布と残存兵力1500名は?」


合流したのは1000名程度で足りないではないか、と娘が五原騎兵団の者に聞いた。


「ハッ・・・呂布様は、我々は合流せよ、と命令して残りを率いて連合軍を追い掛けました。そして長安中に火を点けております」


これにより逃げ場を無くす為、と言うが・・・・・・・・・


「本当は負けた悔しさを誤魔化す為じゃないの?」


あの男は見た目とは裏腹に小心者で器が小さい、と娘は断じる。


よくもまぁ五原騎兵団の傍で言えるな、と誰もが思うも娘は気にした素振りがない。


「まったく小心者ね。でも、火を点ける辺りは良いわね」


火は全てを破壊する、と娘は言い己の髪を撫でた。


「この長安もろとも姉上達を・・・・灰も残さず燃やして上げるわ」


静かに告げる娘の声に歴戦の兵である五原騎兵団は微かに冷たい・・・・・・凍り付くような寒気を覚えた。


この娘の姉である織星夜姫とは違う殺気だ・・・・・・・・


そして性質が悪い、と思わずにはいられない。


「さぁ、行きましょう。姉上達は・・・・・城内へと向かう筈よ」


しかし、大勢では入れないし、五原騎兵団の残りなども考えると・・・・・まだ入っていないだろう。


「そして陣形は乱れているわ。そこを突いて一気にケリをつけるわ」


娘は馬の腹を蹴り、先陣を切って民兵が続く。


その後ろ姿を五原騎兵団の一人はジッと見つめていたが・・・・・・こう感じた。


『あの娘・・・・・破滅を呼ぶ娘だな』


まさに、その通りだと後に知るが・・・・・それは、長安が陥落寸前になってからとは皮肉な話である。


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