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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
122/155

第四十五幕:罠の穴に入る

長安を背景に反董卓連合軍と民兵および五原騎兵団の戦いが始まった。


反董卓連合軍の先陣は、見た事もないが、かなり優れた甲冑を纏い変わった兜を被っている。


右手には斧、槍、突起の三つが合わさった長柄武器---ハルバードを握っていた。


その先陣を軸に左右は斜めになる形---即ち鏃の陣となり馬を駆り続いて、その後を歩兵などが続く。


対して民兵団は歩兵を前にして、五原騎兵団は側面に配置されていた。


騎馬と歩兵では速度が違う。


同時に馬上からの攻撃は鋭く、馬の速度も合えば・・・・・想像を絶する。


だが、シッカリと歩兵が陣を構えて騎馬の対策を行うと圧倒的に騎馬が不利になるが。


五原騎兵団は飛将の名を持つ董卓の養子---呂布だ。


「者共!俺に続け!!」


呂布は奉天戟牙を片手に愛馬---赤兎馬に跨り、右側面に配置した部下を率いて進む。


「呂布に負けるな!!」


民兵団の指揮をする男が剣を片手に馬に乗り、部下である民達に怒鳴る。


しかし、その様子を呂布は鼻で嗤った。


『この俺様に負けるな?馬鹿が・・・・・貴様など眼中に無い』


と心中で嘲笑い、呂布は双眸を反董卓連合軍の先陣---即ち先頭を進む者に向ける。


その者は見た事もない甲冑を纏い、兜は様々な動物が合わさったような動物---怪物を中央にして左右の翼を縦にしていた。


つまり、翼を縦に上げて飛び立とうとしているのだ。


そんな見た事もない甲冑を纏った者は何と娘だった。


顔を見れば娘と分かるが、双眸は・・・・・この世の者ではない月色の瞳をしている。


彼女の名は織星夜姫と言い、呂布にとっては二度も自分を負かした憎むべき女にして・・・・・・何としてでも手に入れたい女だ。


「見つけたぞ!!」


呂布が万の人間が入り乱れようとしている戦場で、腹から声を出して叫ぶ。


夜姫に聞こえたのか、月色の双眸を呂布に向けたが・・・・・・直ぐに外して、前だけを見る。


『おのれ!この俺を無視する気か!!』


と呂布は憤りを覚えるが、夜姫の陣を見て素早く目的を理解する。


「皆の者!敵軍の陣を左右から挟め!あの陣形は真っ直ぐに長安へ行く陣だ!!」


はなから夜姫は自分達を相手にする気が無く・・・・・董卓の御首みしるしを取らんとしている、と呂布は瞬時に理解して部下に叫ぶ。


五原騎兵団が左右から夜姫の陣形を挟もうとするが・・・・・・・・・・・・・


ドドドドドドドッ!!


何かが物凄い音を立て、五原騎兵団に近付いて来る。


何だ、あれは?


「皆の者!あの騎馬共を蹴散らせ!“ヌミディア騎兵”の名に恥じるな!!」


誰かが叫ぶ。


ヌミディア騎兵?


聞いた事もない名前だが、騎兵というなら騎馬の事だろう。


そして・・・・・その騎兵は、五原騎兵団に突撃して来て夜姫たちを護らんとしている。


「面白い・・・・者共!あいつ等を先に蹴散らすぞ!!」


奉天戟牙を手にした呂布は赤兎馬の腹を蹴り、速度を上げて突っ込む。


段々と近付いて来ると、彼の騎兵が如何なる装備か分かった。


見た事もない鎧を纏い、腰には反りが深い剣を佩いており背中には矢が何本もある。


ヌミディア騎兵が矢を取り、弓を構えた。


「ふんっ。“騎射”か」


呂布は鼻で嘲笑った。


騎射とは文字通り馬に乗りながら矢を射る術の事だ。


この術は紀元前8世紀頃にウクライナにあった遊牧国家---スキタイのスキタイ人が始めた、と言われている。


遊牧民である彼の者達は馬に跨り、常に牧草を求めて草原などを旅していたが他民族とも戦った。


そのような経緯で騎射は出来た、と言われている。


遊牧の民である呂布も騎射は出来るが、早々に出来る術ではない。


名前も聞いた事がない騎馬兵に、そして眼を開けるような大きな弓で・・・・・・出来る訳が無い。


「者共!あのような名前倒れの騎馬兵など一捻りにするぞ!!」


と呂布は言い、奉天戟牙を振り上げようとしたが・・・・・・・・・・・・・


「ぐぎゃ!?」


一人の部下が馬上から転落する。


額に矢が突き刺さっており、地面に落ちた仲間の死体を大勢の仲間---人馬が踏み潰す。


まさか・・・・・・・・・


呂布が眼を見開くと、直ぐ間近まで矢は近付いていた。


「ちぃっ!!」


奉天戟牙で直ぐ様、矢を弾いたが矢は雨霰の如く、しかも、正確に五原騎兵団を攻撃する。


そして彼の騎馬隊に援護される形で鏃の陣形は・・・・・五原騎兵団の直ぐ真横を通り過ぎ去った。


「待て!!」


呂布は矢を弾きながら遥か後方にまで行っていた夜姫に叫ぶ。


しかし、夜姫は振り返ろうともしない。


代わりに・・・・・ヌミディア騎兵が距離を縮めて来ていた。


「おのれぇ!!」


赤兎馬の腹を蹴り、呂布はヌミディア騎兵に突撃する。


部下達も呂布に続くが、既に弓矢ではなく矛などを手に持っていた。


もう目と鼻の先にまで距離は縮んだから・・・・・・・後は刀剣で勝負だ。


騎馬で戦闘する時は、一撃離脱が基本で勝つ方法は・・・・・・死角に入り込んで手綱を斬る事だ。


将を射るなら馬を射よ、とも言うが、もし馬を射れないのなら手綱を斬り将を落とせば良い。


そうすれば将は討ち取れるのだが・・・・・・突如としてヌミディア兵は背を向けた。


もし、呂布が冷静であったのなら分かっていた筈だ。


この背を向けた行為---後退は罠である、と。


ヌミディア騎兵は突如として上半身を後ろに向ける。


『!?』


五原騎兵団は、ここで初めて・・・・・自分達も行う戦闘術だ、と気付くが既に手遅れだった。


またしても雨霰の如く矢の雨が五原騎兵団を襲う。


後退していると見せ掛けて実は相手を誘う罠の如く戦術---“パルティアンショット”である。


この戦術は一撃離脱で、紀元前247年から226年頃まで中東を支配していた“パルティア王国”が使用した戦術だった。


後退しながら相手に血を流させる優秀な戦術で、モンゴル帝国軍はヨーロッパなどで盛んに行い史上希に見る巨大帝国を築いたのが証明である。


その戦術を遊牧民出身の呂布が知らない訳ないのに・・・・・・こうも簡単に引っ掛かるとは笑うに笑えない。


「ええい!小癪な真似を!!」


呂布は奉天戟牙を振るい、飛来する矢を叩き落とす。


しかし、ヌミディア騎兵は既に遠くまで逃げていた。


そして連合軍と合流して、五原騎兵団に突撃しようとしている。


これでは騎兵と歩兵の連合軍に敗れてしまう。


騎兵の強みは馬の速度を活かした一撃離脱、長距離偵察、後方攪乱、後方に回り込む、などだ。


敵陣に突撃もあるが、それは追撃か陣形が整っていない時である。


ところが・・・・・連合軍は三角形の陣形---“魚鱗の陣”を敷いていた。


この陣は大将を後方に配置して、先陣がやられても補充が出来る陣だ。


しかし、側面や後方に回り込まれたら厄介だが、そこをヌミディア騎兵が補っている。


つまり・・・・・夜姫に続く形の陣、と言えた。


「ちぃっ・・・・・小癪な真似を」


呂布は舌打ちしたが、頭の中では「下手に攻撃すれば負ける」と冷静な判断を浮かべていた。


陣形が整い、そして騎兵まで居るとなれば如何に五原騎兵団でも分が悪い。


ならば、どうするか?


後方からは民兵団の悲鳴が聞こえる。


チラッと背後を見ると、猛然と民兵団の渦に果敢に飛び込んで前へ突き進む夜姫と付いて行く兵達が居た。


今なら・・・・・・間に合うな。


もちろん連合軍とヌミディア騎兵は追撃してくるだろうが、逆に今度は自分たちが出来る。


そして民兵団も居るから数で圧倒できる訳だ。


「皆の者!引けぇ!ここは引くのだ!!」


呂布は赤兎馬の手綱を引いて、部下を率いて民兵団と合流せんと後方に行く。


しかし・・・・・・それも夜姫の策とは思いもしなかっただろう。


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