第四十三幕:長安攻略の始まり
もう少しで戦闘が始まる予定ですので、お待ち下さい。
長安から離れた場所に二つの陣を構えた連合軍。
その陣内では武装などの準備を終えた屈強な兵達が今か、今かと直立不動で待っていた。
しかし、まだ彼等の出番は早い。
これは彼等の居る場所から更に陣の奥へ行った場所で分かる。
「良い?ここが私達で、こちらが妹と呂布、そして一番奥が董卓よ」
木製のテーブルに地図と色が付いた凸だ駒を置いた娘が左右を固める群雄達---愛しき英雄たちに語り掛ける。
声はソプラノで、まるで一流の演奏家が演奏する如くに綺麗だった。
ところが、その声とは裏腹に格好は仰々しい。
黒に近い濃紺の鎧を纏って2尺6寸(78cm)の反りが浅い剣と1尺6寸(48cm)の剣を左腰に差している。
鎧の胴は一枚の鉄板で出来たように繋ぎ目が表面に見られない。
肩当ては長方形だが、左側は丸くて動き易いように見える。
籠手は腕から手の甲まで繋がっており、丈夫な布地に鉄板を縫い付けていた。
親指の部分は独立して他の指部分は露出しており自由度がありそうだった。
下の方はスカート状だが、脛と足を護る脛当てなどは付けている。
そして兜は真ん中に龍とも虎とも見える・・・・・様々な動物が合わさった怪物の飾りがあって、その怪物の翼は上に伸びていた。
まるで戦乙女であるが、何処か陰りが見え隠れしており威厳などからして・・・・・・戦女神、という言葉の方が似合いである。
彼女の名は織星夜姫と言い、連合軍を指揮する総大将に・・・・・・なった娘だ。
現在、彼女は愛しき英雄たちを集めて長安の様子を教えていた。
「良い?私達の目的は董卓よ。妹と呂布は、オマケみたいな存在だから捨てて良いわ」
「ですが、この陣形を見る限り・・・・・・どうやっても貴女様の妹と呂布を退けないといけません」
愛しき英雄達の一人が陣形を指差して夜姫に指摘する。
地図に置かれた凸のある駒を見る限り・・・・・・・何が何でも夜姫の妹と呂布を退けないと先に進めない。
「えぇ、そうね。でも、別に全滅する事はないわ」
先ほども言ったが、自分達の目標は董卓であり呂布たちではない。
「刃は交えるけど、別に貴方達がやる必要なんてないの。いえ・・・・この子達がやるわ。ねぇ?」
フェンリル、ヨルムンガルド。
と夜姫は傍らで座る一匹の黒狼と左腕に巻き付く蛇を呼ぶ。
黒狼がフェンリルで、蛇がヨルムンガルドだ。
フェンリルが小さく鳴くと、ヨルムンガルドは舌を出す事で夜姫の言葉に同意する。
「そう、やってくれるのね?ありがとう。2人とも良い子ね。良い子、良い子」
夜姫はフェンリルとヨルムンガルドの頭を優しく撫で、改めて陣形などを説明し始めた。
「話を戻すと最初は呂布たちを相手にするけど、さっきも言った通り・・・・・私達の目的は董卓軍。だから、この敷かれた陣を強引に突破する事になるの」
下手に行けば返り討ちか、包囲されて終わりである。
「相手は烏合の衆と騎馬軍。これだけでも包囲網は敷けるけど・・・・・・常に前進すれば問題ないし、逆に私達が包囲できるわ」
夜姫が徐に矢を一本取り出して、愛しき英雄たちに見せる。
「これは矢よ。相手を刺して、抜く時に傷口が広がるように左右は斜めになっているの」
何を思う・・・・・・・・?
「・・・・・なるほど。矢の如く強靭な兵士を配置して突っ込む訳、ですか」
白い羽扇を弄びながら一人の男が呟く。
彼の名は孔明。
諸葛亮孔明だ。
義勇軍の長---漢王朝の血を引く、と言われる劉備玄徳に仕える人物である。
天才軍師と言われているが、どちらかと言えば政治家的な面での動きが強く見えるが、夜姫の言いたい事を理解した辺り・・・・・・・やはり政治だけではないのか?
「あら、貴方は分かったの?」
試すように夜姫が聞くと、孔明は白い羽扇を仰ぎながら夜姫から矢を取り上げた。
「姫様は、あの陣を突破する為に矢の如く陣を構えるのですね?矢の如く構えて、前進だけ考えるならば一番良いです。ですが、そうなると、側面が危ういのでは?また、その先頭が倒れたら・・・・・・・」
「先頭は私が切るわ。そして側面などはハンニバルがやる予定よ」
と夜姫は言い、孔明を月色の瞳で見る。
「政治家向き、と思っていたけど・・・・・中々の軍師振りね。ハンニバルには劣るけど」
「お褒めの言葉感謝します。して、ハンニバル殿。貴方様としては側面を如何にするのですか?」
孔明は愛想よく会釈してから夜姫の傍に控える隻眼の男---ハンニバル・バルカに聞いた。
「なぁに・・・・久方ぶりに我も戦おうと思っている。ここの騎兵が如何なるものか知りたいしな」
「という事は、貴方様も騎兵を?」
「正確に言えば、我が祖国---カルタゴは傭兵を雇うのが基本だ。だから、騎兵も雇った。だが、今はスキピオと共に臣下となっている」
「そうですか。では・・・・・勉強させて頂きます。今後の為に」
と意味あり気な言葉を孔明は言い、劉備の傍に戻った。
「そういう訳だから、各自屈強な兵と馬を出して頂戴。その者達が戦死する確率は極めて高いけど」
『ですが、その分・・・・・・貴女様の治める都では、上位の席に座れるのですよね?』
夜姫の言葉に愛しき英雄たちは問うた。
彼女の治める都は、その手の者達が居り・・・・・きっと勇敢な者ほど夜姫の寵愛を受ける、と推測したのだ。
「えぇ、そうよ。でも、私は皆を平等に愛しているわ。これだけは忘れないでね?私の愛しき英雄たち様」
『仰せのままに』
愛しき英雄たちは仕えるべき夜姫の言葉に頷いた。
「ありがとう。それで・・・・・董卓の事なんだけど、彼は私に任せてくれない?」
思わぬ発言に皆は眼を見張る。
董卓を倒すのが連合軍の目標だ。
そこには夜姫を連れ去った遺恨もあるのは言うまでもない。
出来るならば・・・・・この手で四肢を八つ裂きにしてやりたい、という衝動さえ覚えるのに夜姫は自分に任せてくれ、と言うから驚くのも無理なかった。
「彼は・・・・・寂しくて憐れな男よ。そして中々の戦上手。これからの事を考えても彼は必要なのよ」
これからの事とは一体・・・・・・・・・・・・?
「しかし、夜姫様。董卓は漢王朝を汚した天下の大罪人です。そして誰もが彼の死を望んでいます」
ここで諸葛亮孔明が再び口を開いて、もっともな事を言うが夜姫は扇を弄びながら返答した。
「確かに彼は大罪人だけど、私には彼が必要なのよ。まぁ・・・・・死を望んではいるけどね」
「どういう事ですか?」
夜姫は董卓を助けたい、と思わせる事を言ったのに今度は死を望んでいると言った。
明らかに矛盾している。
そこを問うた諸葛亮孔明だが・・・・・・・・・・・・
「小僧、貴様は実に聡い頭を持っている。しかし・・・・・その聡過ぎる頭は災いを時に齎すぞ」
李広が諸葛亮孔明に太くて鋭い釘を刺した。
「貴様は姫様の真意を知りたいようだが、それを知って貴様に何が出来る?劉備の力になる積りか?若しくは己が天下を手にしたいのか?」
「いえ、私は別に・・・・・・・・」
諸葛亮孔明は白い羽扇で顔半分を隠して微苦笑するが、その仕草を李広は鼻で嗤う。
「ふんっ。口で逃げるのが上手いな。だが、貴様の主人の劉備は姫様に仕える身。ならば、貴様も姫様に仕えるべきだ。もし、拒否するなら好きにしろ。ただし・・・・・姫様に害なす存在になるならば、この場で我が首を切り落とすぞ」
暗に「姫様の言葉に従え」と脅していた。
「李広、その辺で止めておきなさい」
夜姫が李広を止めると、李広は直ぐに控えた。
「孔明、董卓の事は後で教えるわ。だから、今は私の命に従ってくれない?」
「・・・・・御意に」
諸葛亮孔明は羽扇を顔から外して夜姫に頭を垂れた。
「ありがとう。では・・・・・・これより長安攻略を始めましょう」
『ハッ!!』
麗しくも苛烈な衣装を纏った戦女神の言葉に愛しき英雄たちは、その命に頭を垂れて答えて・・・・・長安攻略が今、始まろうとしていた。