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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
107/155

第三十二幕:見ている者・・・・・・・・

更新が遅れました。


今度からはキャラの説明を出来るだけ抑えて、戦闘シーンなどに力を入れたいと思います。

長安の城と対峙するように在る連合軍の陣。


その陣内は大きく分けて二つ在り、その内の一つが歓声に満ち溢れていた。


「おい、見たか?」


一人の兵士が隣の同僚に声を掛けるが、その声は興奮気味だったのが興味深い。


「あぁ。見たぞ。姫様の腕だろ?」


この腕とは、恐らく弓の事だろう。


少し前に連合軍に・・・・・姫が戻って来た。


洛陽から長安まで来た目的は董卓を倒す以外にも天の姫である娘を助ける為だ。


しかし、ここに到り同盟を結んだ袁紹軍が中々に腰を上げない事態に陥り、ならば自分達だけでもという具合で動いたのである。


所が、その矢先に・・・・・大勢の民達に追われながら陣に姫は自力で戻って来た。


もっとも数名の部下を連れて来ており、侍女も二人ほど居たが。


そんな姫が・・・・弓矢を用いて、民を射抜いたのである。


通常の弓矢で兵が射ても精々・・・・・敵兵の一人を倒せる位だろうが、姫に関しては敵である民達を数人ほど一本の矢で射殺した。


それを自分達は見た。


「凄い腕だよな?いや、それ以前に・・・・・綺麗で勇ましかったな」


兵は、見た時を思い出したのか・・・・・・恍惚とした表情を浮かべる。


あの時の光景は今も眼に焼き付いている。


銀と紫の髪を優雅に靡かせて、衣服は汚れているが・・・・・それでも気品さは消えず、弓矢を引く姿は正に・・・・・・・・・・・・・・・


『戦女神、だな』


どちらかとも言わず、二人は口を揃えて言った。


あの光景は正に敵に対して弓矢を射ようとした戦女神に他ならない。


戦女神が自分達の陣に戻って来てくれた、と思わずにはいられなかった。


そして彼女は自分達が「お帰りなさいませ」と言うと、綺麗な声で「ただいま」と返事をしてくれたのだ。


何の変哲もない言葉だが、家族と離れている者から言わせれば・・・・・・大事な者達と会話したようなものである。


二人も家族は居る。


だから、久し振りに家族との会話が出来た、と思えてならなかった。


「俺、あの方の為なら・・・・・生命を捨てても良い」


「俺もだ。と言うか、洛陽の時も姫様は言ったぜ?」


『戦死した者は全て私が抱き締めて、私の治める都に誘い連れて行きます』


あんな言葉を姫は言ってくれた。


どの将も必死に戦えとか言うが、こんな言葉を言う将は誰も居ない。


だが、姫は言ってくれたし、約束を守ってくれるという気持ちを抱かせてくれるのだ。


「どんな都、なんだろうな?」


姫が治める都とは・・・・・・・・・・・


「さぁな。だが、姫様が治める都だ。良い所だろうぜ」


戦死した仲間達が居て、自分達が来るのを待っているかもしれない。


そんな都に行ってみたいな、と思い二人は天幕の方に眼をやった。


天幕からは明かりが灯されており、何人かが入っているのが見える。


あそこに姫が居る。


ならば、シッカリと護らなければ・・・・・・・・・


二人は槍を片手に松明を持ち、天幕を護るように視線を強くして警戒した。

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連合軍の陣内に設けられた天幕。


天幕は将達の為に用意された高級な天幕であるが、今は一人の娘の為に在るような感じだ。


その娘は天幕の上座に位置する場所に腰を下しており、静かに眼前で跪く男達を月色の双眸で見ている。


彼女の名前は織星夜姫と言い、天の姫と言われている娘で眼前で跪くのは連合軍の者達である。


と言っても現在の連合軍は洛陽で空中分解した・・・・・・つまり再編成された者達だ。


そして再編成された新連合軍の大将は以下の四人である。


袁紹、袁術、孫堅、劉備だが、この後者の二人は袁術の配下と言って良い。


特に劉備は義勇軍で本来なら配下の更に下の配下と言って良いだろう。


だが、跪く者達の中に劉備は居り、しかも袁術と孫堅と同じく一番前だった。


これから察するに袁術の陣では優遇されている、と見て良い。


「姫様・・・・・無事に帰って来た事を心より嬉しく思います。そして御帰りなさいませ」


袁術が代表として言えば、他の者達が続く形で「御帰りなさいませ」と言った。


「ただいま。貴方達も無事で何よりね」


と夜姫は静かに答えたが、月の瞳は孫堅と劉備に注がれていた。


「孫堅お父様、劉備お父様。貴方様の娘---織星夜姫は、この通り無事に帰って来ました」


孫堅と劉備は父、と呼ばれた事に驚いたが・・・・・・その温かい言葉に顔を上げて、小さく微笑みを浮かべる。


「夜姫様、よく無事で・・・・・・・・・」


劉備はポロポロ、と涙を零した。


洛陽で攫われた時・・・・・・どれだけ自分を悔いた事か。


そして何としても助け出そう、と思ってきたが・・・・・願いは今、叶えられたのであるから泣くのも無理ない。


「時に夜姫様。そちらの方々は、誰なのですか?」


感涙する劉備に遠慮した口調で袁術の腹心---閻象が夜姫を護るように立つ男達の事を聞いた。


「嗚呼、彼等は私の臣下であり家族よ。こっちが文秀で、朱花と翆蘭。三人とも長安で私の家族となったわ」


こちらの四人は以前から、と簡潔に夜姫は説明する。


「まぁ、もう少し詳しく説明したいけど・・・・・客の相手をしないといけないわね」


夜姫が月の瞳を細めて、天幕の入り口を見れば・・・・・・・・・・・・・・


「夜姫様!!」


バッ、と天幕の入り口を押し上げて一人の男が入って来る。


年齢は袁術より年上で鎧なども袁術より少し豪華だった。


おまけに中々の美形で「美丈夫」と言って良いだろう。


彼の名は袁紹。


袁術とは腹違いの兄弟で、袁家の現当主でもあり、新連合軍の総大将だ。


もっとも袁術達とは違う連合軍で、どちらかと言えば同盟者と言った方が良いだろう。


突然の来訪に袁術達は驚くが直ぐに顔を険しくさせる。


特に袁術などは直ぐに立ち上がり、夜姫に歩もうとした袁紹の前に立ちはだかった。


「貴様、突然の来訪とは無礼だぞっ」


「黙れっ。夜姫様が帰還した事を同盟者であり、兄である私に言わない貴様こそ無礼ではないか!!」


「何をっ!!」


「止めなさい」


今にも掴みかからんとした袁術を夜姫は口で止めて、袁紹と呼んだ。


「ここに」


袁術を押し退けて袁紹は夜姫の前に跪く。


「帰還早々に兄弟喧嘩を見せないで」


「申し訳ありません。ですが、私は貴女様の帰還を知らされなかったので、つい怒りが・・・・・・・」


尤もらしい事を言う袁紹に袁術達は苦虫を噛み潰した顔をするが、夜姫は平素な表情で袁紹を見ていた。


「それは仕方ないわ。つい先ほど帰って来たんだもの」


「左様ですか。何はともあれ・・・・・姫様の帰還、心より嬉しく思います」


袁紹は静かに頭を垂れた。


「ありがとう。それはそうと・・・・・・どうして、私の指示を無視したのかしら?」


「は?」


思わぬ言葉に袁紹は顔を上げるが、夜姫は感情を込めず聞き返した。


「どうして私の指示を無視したの?」


洛陽で・・・・・・・・・・・・


「私は早く来い、と言ったわよ。それなのに貴方は来なかった。袁術を使者として行かせたのに」


ねぇ、どうして?


パシ・・・パシ・・・・パシ・・・・・パシ・・・・・・・・・


扇を抜いて夜姫は右の掌を叩き出した。


「どうして指示を無視したの?」


「え、あ、その・・・・・・・」


袁紹は言葉を濁す。


いきなり洛陽の事を言われて困惑しているのもあるが・・・・・・・夜姫の眼は自分が意図的に遅れた事を見抜いていた。


それが恐ろしかった。


「正直に言いなさい。言えば・・・・・軽い咎めで済ますわよ」


「も、申し訳ありません!!」


耐え切れず袁紹は頭を垂れた。


「あの事については弁明の仕様がありません。誠に申し訳ございません!!」


「謝って欲しくないの。どうして私の命に背いたの?」


パシッ、と夜姫は扇を右の掌で受け止めて静かに問う。


「それは・・・・・・・・」


口ごもる袁紹を見て夜姫は嘆息した。


「余程・・・・言いたくないのね。なら、敢えて聞かないわ」


「ほ、本当ですか?!」


袁紹がバッと顔を上げる。


その顔には安堵の表情が宿っていたが、ほんの僅かな時間だった。


「聞かないけど・・・・貴方は陣に戻りなさい。これから袁術達には話があるの」


「で、では、私も」


「どうして?貴方は洛陽の件を話したくないんでしょ?だから、私も今から話す事は・・・・・貴方に話したくないの」


「!?」


夜姫の言葉に袁紹は愕然とするが、これは“あいこ”だ。


自分が話したくないから夜姫は聞かないが、これから話す事は自分に聞かれたくない。


つまり互いに話したくない、という訳だ。


「理解したわね?それなら・・・・・陣に戻って兵馬を養いなさい。そして二度と遅れない事を肝に命じておきなさい」


「や、夜姫様、私は・・・・・・・・」


「聞こえなかったの?それとも強制的に追い出されたいのかしら?」


『・・・・・・・・』


ズイッ、と夜姫の背後に控えていた者達が無言で一歩、進み出る。


「わ、分かりました。次は遅れないようにします」


袁紹は夜姫の臣下達に圧倒されて返答するしか成す術がなかった。


「良い子ね。今度ちゃんと命令を聞けば、私から褒美の一つくらい与えるから頑張りなさい」


屈託のない笑みを浮かべて夜姫は袁紹の頬を一撫でする。


「今回は、これだけよ。さぁ、行きなさい」


「・・・・御意に」


言われるままに袁紹は立ち上がり陣を出たが内心では・・・・・・・・


『おのれ袁術!夜姫様から私を遠ざけおって・・・・・必ず奴から夜姫様を奪い取ってやる!!』


と双眸に歪んだ炎を宿していた。


その歪んだ双眸は、与えられた歪みであり呂布達と同じであった。


しかし、それを見た者が居るとは・・・・・・まったく気付いていなかったのは武将として失格としか言えない。


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