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路地を駆ける少女。路地かけ。


 恥辱と涙に塗れた顔を拭いながら、少女は陰鬱な路地裏を駆けていく。


 華奢な体からは想像も出来ない程の速度で、前へ、前へと。まるで、何もかもを振り払うように、置き去りにするように。


「(もう嫌っ! 全部嫌っ! そもそも何よ、猿蟹神話って。世界を救った英雄が、蟹に蜂に、臼と栗、それにウンチ? 考えた人バカじゃないの!? そんなの嘘に決まってる! ウンチの魔物を神様扱いするなんて、皆騙されているんだわ!)」


 それは、少女が産まれた村を思えば酷な考えであったが、それも仕方無いというもの。何せ、十代の少女が掻くには、掻かされたその恥は余りにも重く、冷たい。


 そんな少女の、女としての、少女としての誇りを捨てたくないと泣く姿を責められる資格が、一体誰にあると言うのだろうか。そう、誰にもありはしないのだ。


「――てよ」


 不意に、誰かが誰かを呼ぶ声がした。


「――待てよ!」


 それは確かな音となり、大の大人より速く駆ける少女の鼓膜を、刺激する。


「オイ! 待てよ!」


「きゃんっ!」


 ――転んだ。いや、転ばされた。


 全力疾走の最中に突然背後から肩を掴まれたので、暴れる慣性を抑え切れずに、時計回りで回転するように転けたのだ。


「ゴホッゴホッ! ……ぅう」


 激しく打った背中の痛みに咽び、起き上がることができない。それでも、今の少女には八つ当たりにも似た意地が、怒りがある。


 その意地をぶつけるように、肩を掴んだ相手をキッと睨み付ける――我ながら、たった数日で随分と擦れたものだと内心で苦笑しながら。


「……!」


「追い付いたぜ!」


 少女の鋭い視線――と本人は思っているだけで、全く怖くない視線の先に居る人物。それは。


「あなたは……」


「ああン? ああ、挨拶がまだだったな! アタシは、ユカリ・ヒャッハ。皆にはヒャハ子って呼ばれてる。趣味は村人を襲撃することと、子供が持ってる風船を全部割ることだ。よろしくな!」


 その人物とは、あのギルドの受付台を破壊し、少女や受付嬢をビビらせていた自称トリプルCランク冒険者こと、蛮賊美少女だ。


 パンクでサイケな見た目でありながら、弾ける美少女スマイルを向けてくるその姿に気圧される少女は、睨み付けるのを止めていつもの小心者モードへと戻っていた。


「アンタはウン子でいいよな!」


「嫌です」



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