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理と異邦の剣士  作者: いろは
3/18

3.トルネラ

よろしくお願いします。

 優は可能な限り周囲に気を向けながら歩いていた。ゴブリンに似た奴なら何とかなるかもしれないが、狼となるとさっきは何とかなったが次も上手くいくとは思わず、出来るだけ戦闘を避けたかった。


(さっき俺が身体に纏った雷。あれを見る限り、ここは魔法もしくは魔術のある世界なのか?

 あの狼に戦った時に無意識に使った雷は俺が使える魔法、魔術の一種なのか?)


「はぁ…いくら考えても分からん…。ん?」


(水音?…川か!)


 自分が足音を立てる音ぐらいしか無かった為、サーッと水が流れる音がよく聞こえてきた。

 全速力で狼から逃げていたた為、喉はカラカラだった。優はその水が流れる音に導かれるように音が鳴る方へ歩いて行った。

 そこには、綺麗な川があった。喉を潤したい一心で汚いなどの考えは一瞬で消え、顔を川に突っ込みガブガブと勢いよく飲んだ。


「ぷはぁっ!あー、うめぇ、生き返る…」


(良く分からない状況だけど、今は一刻も早くこの森を抜けて人が住んでる街に行くことだな)


 幸いにも完全に日が暮れるまではまだ時間がありそうだ。だが、優はこの日の内にこの森を抜けて街や村に辿り着けると思っていなかった。遠くを見つめても同じような風景が続くばかりでここが森の出口に近い場所とは思えなかったからだ。


(敢えずはこの川に沿って歩き、休めるところを探すのがいいのかな)


 川に沿って歩き出して数時間が経過した。

 日も傾き始め空が茜色に染まり始め、優は焦った。今日中には森を抜けれないと覚悟していたが、数時間も歩き続けても森を抜けるれる気配が全くせず、同じような風景が続くだけった。しかも、休めるような場所も見つけられなかった。


(くそっさすがに土地勘も無い夜の森は進むのは危険だよな。昼間出会したあの化け物もいる森だしな…)


 優は付近の木々に目を向け、自分でも登れるような木を見つけ器用によじ登った。

 体重を掛けても折れないような丈夫な枝のところまで行き、木にしがみ付き息を潜めた。


 そして日が完全に沈み、夜になった。

 光が月明りしかなく、その月明りも森の木によって遮られている為、あたりは完全に暗闇になっていた。


 暗闇ということは自分も見えなくなるが相手も見えなくて、見つかる可能性が低いはずと、優は考えていたがその暗闇がどうしても何も見えない事が優の恐怖心を余計に煽った。


 優は木の上で体を縮こまりながら必死に祈っていた。


(来るな!来るな!来るな!来るな!来るな!来るな!お願い、こっちに気づかないで!!!)


 先ほどから遠くから狼っぽい鳴き声が聞こえてきたり、何かの足音が聞こえてくるのだ。この状況でぐっすり寝れるほど、優の神経は図太くないのだ。

 だが、昼間にゴブリンに似た化け物や狼との戦闘、未知の森での出口を求めて彷徨い続けた疲れによって優の体力と精神は限界を超えており、時々寝るのだが、何かの足音で目が覚め、また限界で寝るという事を繰り返していた。

 そんな状況で疲れが取れる事が無く夜が明けて朝になっても最悪な状態で森をゴブリンの様な化け物や狼に怯えながら、歩く事になった。


 そんな日々が3日続いた。


(あ…あ…もう、限界だ…くそ……茜、ごめんよ…)


 ついに優の限界が来てその場に倒れ、意識を失った。

 倒れて何も出来ない優を森の化け物達は見逃すはずが無く格好のエサである優に食らいつく為に我先にと飛び掛かった。だが、


 飛び掛かった化け物達に一陣の風が過ぎ去った。

 その風は寸分の狂いも無く化け物達の首を切り裂いて1匹残らず仕留めた。


「ふぅ…。手遅れになる前に間に合って良かったわ

 さっ、早くこの子を運ばなきゃね」


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ん…、ん?知らない天井だ…って俺は確か森で倒れたはず…」


 森で倒れる直前まで意識が朦朧としてた為、それまでの記憶が定かではないが、優は倒れた事ははっきりと覚えていた。

 ここに運ばれる事を思い出そうとしていたところドアがゆっくりと開いた。

 部屋に入ってきたのは何処にでもいそうな老婆だった。

 優は慌てて身体を起こそうとしたが、上手く力が入らず、身体を起こせなかった。


「あれ…?」


「おや、起きたのかい。あまり無茶しない方がいいよ。なんせ5日も起きなかったからね」


「5日!?あの、ここに運んでくれたのは貴方ですか?」


「そうだよ。まさかバルバラ大森林で子供1人が倒れているなんて驚いたよ」


「あ、すいません、助かりました。ありがとうございます」


(この人が俺を運んだ…?そんなに力なんて無さそうなのに)


「疑ってるね?まあ、確かに子供を持ち上げる力は無いけど、魔法を使えば簡単さ」


 老婆はするな否や本が置いてあるテーブルに向かって掌を向けると突然本が浮かび上がった。


「風を下から当てて浮かしてるのさ。こんな要領で坊やをここまで運んだわけさ」


 老婆は丁寧に説明してくれたが優はそれどころじゃなかった。


(魔法…それじゃ、あの時の雷もやっぱり魔法なのか…?

 それにやっぱりここは地球じゃない…)


 森にいた頃はそんな事を考える余裕が無く、心の何処がでここが異世界である事を否定していた。しかし、今は良く眠り、人と話す事で心に余裕が出来た今目の前で魔法を見た事でここが異世界なのだと納得してしまった。


(俺はもう日本に戻れないのか?もう茜や家族、道場のじいちゃんとも会えないのか…)


 そう思うと余りの悲しさに優は涙を流した。


「うっ、うっ…」


「なんだい、いきなり泣き出して。どうしたってゆんだい」


「あ、すいません。何でも…無いです」


「落ち着きまでここにいればいい。何だったらずっとここに住んでもいい。私もずっと1人で住んでるからね。賑やかになって私も嬉しからね」


 そう言うと老婆はニコリと微笑んだ。優はその微笑みがじいちゃんと重なり、


「じいちゃん…」


「失礼だね!私は女だよ!」


「ああ!すいません!つい、その笑顔が似ていたもので…」


「そうかい?まあ、気にして無いから、良いけどね。

 後そのその敬語どうにかならないかい?子供にそんな畏まられてむず痒くて困るよ」


「えっと、分かったよ。…」


「あぁ、そう言えばまだ名前を言ってなかったね。私はトルネラだよ。坊やは?」


「トルネラさん、ありがとう。僕は優」


「さんもつけないで良いのに。ユウね

 さっきも言ったけど、好きなだけここにあると良い。助けたついでに世話もみてあげるよ」


「ありがとう、トルネラさん!よろしくお願いします!!」


 優は何よりもあの森で寝泊まりするのが何よりも嫌だった。だから、初対面で無遠慮かと思ったが、素直にトルネラの好意を受け入れた。



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