2.ようこそ
「うわあああああっ!?」
闇に呑み込まれた優はまるで強力な引力に引き摺り込まれるかの様に落ちて行った。
上下左右の感覚も分からずにただ”落ちている”という感覚だけが分かった。
どれくらい落ちたのだろうか、どれだけ落ちても変わらなかった景色がついに変わった。
今までは墨をぶちまけたかの様に真っ黒い景色が続いていたのだか、半透明で所々ノイズでも走ったかの様なジジッとブレている人の映像みたいなモノが一斉に現れた。それらは地球には決して存在しない姿形をしていた。
ある者は獣の耳を頭に生やしていたり耳が異様に長くどの者より美しい者など他にも様々な特徴を持っている者が多くむしろ普通の人の方が少なく、漫画やアニメでよく出てくるフィクション上でしか存在しない人達が圧倒的に多かった。
ただ、そんな大量の映像の様なモノにみんな一様に共通するものがあった。
それはどの人達も例外なく優を、楪優を憎しみのこもった目で見つめているということだ。
(どうして!?どうして私達がかわな間に合わないといけないの!!!)
(お前達はいつもそうだ!!亜人種だからと言って我らを迫害して!!)
(呪ってやるぞ…お前が苦しく死ぬようにな!!)
「やめてくれ…俺は何もしてない…何も知らないんだ!!」
優は憎しみがこもった目から逃げるように目を瞑り耳を塞いだ。しかし、どこからとなく心に直接流れ込んでくる怨嗟の声が優をさらに追い詰めた。
そんな地獄の様な時間を永遠に続くかと思った矢先、唐突にノイズ混じりの映像が1つに纏まり優の中に吸い込まれていった。
「ッ!?グッガアアアァァアッ!!!」
全身を引き裂かれる鋭い痛みに優はのたうち回り、悲鳴を上げた。
それを最後に優は意識を失い、さらに深い深い闇の中に落ちて行った。
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優は太陽の暖かい光を感じ、静かに目を開けた。
「…ん。んぅ…?」
優は目を擦りながら、上体を起こし辺りを確認した。
そこには見渡す限りの木や草などの緑が広がっていた。
草なんかは優の腰ぐらいの高さまで伸ばしていた。
「は?…。いや、……、…え?森?」
立ち上がって、左右を見渡す限り、あるのは草木だけだ。
(えっと、茜と別れて…何かに呑まれて色んな人達から…)
「うっ!」
あの地獄の体験を思い出し、優は気分が悪くなり吐きそうになった。
(…。だめだ。気持ち悪くて上手く考えがまとまらない)
そこに後ろから物音がした。
ガサガサ、と草を掻き分けながら、ギィギィと、鳴きながら姿を現した『ソレ』。
振り返り、『ソレ』を目で見て認識した。
「-----」
絶句した。
鬼。小さな鬼がいた。
その体長は80~100センチ程。体は全体的に緑色で下っ腹がぷっくりと出て、顔には人間の肉ならば容易く食い千切ってしまいそうな鋭い牙が生えそろっており、目はギョロリとしたデメキンみたいな目をコチラに向けて二足歩行で立っていた。
『ソレ』は日本ではゴブリンと言われている様な外見と似ていた。
(何だっ!?コイツ!?)
この生き物は何なのか、全く優は分らなかったが、ただ一言言えるのはこのゴブリンに似ている存在は日本には決して存在しない、架空の存在で良く漫画やアニメで出てくると言うことだけ。
そして、どの作品にも人間の敵として描かれていることが多い。
そんな優の考えを肯定するかのようにゴブリンに似たソレは喜々とした醜悪な笑みを浮かべながら、コチラに向かって飛び掛かってきた。
咄嗟だった。ただ咄嗟に優は体に染みついていた、じいちゃんに教えられた古武道の一種である蹴りを飛び掛かってきたゴブリンに似たソレに合わせて回し蹴りを放った。
「シッ!」
「ギャッ!」
優が繰り出した回し蹴りは綺麗にソレの首に直撃し、弾き飛ばした。ソレは一回転しながら木に叩きつけられた。
しかし、それでもコチラを襲う事に諦めずに起き上がってまた、飛び上がろうとするところに優は地面を蹴ってソレと離れていた距離を一息で詰めて顔面に向かって蹴りを叩き込み、蹴り飛ばした。
「ブギッ!」
「……っ、ふぅ…」
優は次に備えて残心をしていたが、しっかりとどっしり構えていたその手足は微かに震えていた。
しかし、ソレはヨロヨロと震えながら立ち上がり、コチラに向かって来ることなく、小走りで草を掻き分けながらどこかへ行った。
「ハァ、ハァッ…」
全ての行動が咄嗟だったからか間合いを誤り、無駄に力の入った攻撃になってしまい、中途半端になっていたが、無傷で追い払えただけで上出来だろう。
優は逃げて行ったソレの方向を見たときに目を見開いた。
狼が三匹ほど追っていたのである。
逃げていたソレは狼の接近に気づかずにあっさりと追いつかれ、肩に噛み付かれて倒れた。倒れたソレに他の二匹も飛び掛かり、生きたまま貪り食われていた。
「マジかよッ!」
優は脇目の振らずに狼とは別の方向に走り出した。
足場の悪さも気にせずに、優はひたすら森の中を突き進み、狼が食事してる隙に少しでも離れようと全力で走り続けた。
走りながらチラッと後ろを確認する。
そこには、優を追いかけてきている一匹の狼の姿があった。
(チクショウ!!追いかけてきてるのかよッ!!
さっきのゴブリンみたいのは人っぽい形だから格闘術が上手く決まったけど、今度は狼だぞ!無理だ!勝てるわけがない!アイツみたいに噛み付かれて終わりだ!)
「ガァァァッ!」
「くっ」
狼が吠えながら飛び掛かってきた。
優は地面を転がるように攻撃を避けて、すぐさま態勢を立て直し、近くに落ちていた木の枝を拾い、正眼に構えた。
狼もその構えから先ほどの獲物とは雰囲気が違うと感じたのか、すぐには飛び掛からずにコチラを警戒するように優を中心に周り始めた。
1、2分だろうか。お互いに動かず、相手の出方を伺っていたが、狼の方が痺れを切らして飛び掛かってきた。
「グオオオッ!」
「うおおおお!?」
顔を噛み砕こうと向かってきた狼に対して優は木の枝を狼の口に咥えさせる様にして防御した。しかし、狼に勢いに負けて押し倒され、木の枝ごと顔面を噛み砕こうとしてきた。
優も必死に歯を食いしばりながら、狼を押し返していた。
「うぎぎッ」
(くそっ!こんなわけのわからないところにあんな地獄みたいな体験して目が覚めたら、急にこんな場所にいて、いきなり化け物や狼に襲われて死んでたまるかよっ!ふざけんなよっ!)
しかし、段々と腕が押され始めてきた。
(死にたくない!!死にたくない!!)
彼の心中は、死にたくないの一言で埋め尽くされていた。
瞬間、優の身体の周りに電気が帯電し、余計な思考が無くなり、この狼を仕留める事だけを考えた。
そして、力を振り絞って狼を力任せに押し戻した。
「うおおおおおおッ!!」
そして、狼に向かって一直線に走り出し持っていた木の枝を狼の目に向かって突き出した。
「ハッ!」
狼は余りの速さに反応も出来ず、木の枝が目に突き刺さるだけにとどまらず、そのまま脳まで一気に木の枝が貫いた。
その時狼の残った片方の目には優の片目が紅く光り輝いて見えた。
「ハァ、ハァ…。おええぇッ!!」
吐いた。
無我夢中だったとは言え、初めてこの手で生物を殺した事とあの闇の中での体験で優の精神の許容値が限界に達した。
15分ほどだろうか、ようやく気持ちが落ち着いて、そこで優はようやく一息ついた。さっきまで自分の命の危機で必死だったからか、感じていなった疲労がここにきて感じ始めてようやく自分は生きていると実感することができた。
(ここってどう考えたって地球じゃないようなぁ)
あの闇の出来事と先ほどゴブリンに似た化け物や狼の死体といい明らかに今まで過ごしてきた日本ではありえないものばかりで、ここは異世界だと嫌でもわからされた。
(それにしてもあの電気は何だったんだ?身体が今までにないくらい軽く動けたし戦ってる最中は余計な事を考えずに綺麗に仕留めることが出来た)
優は地球にいた頃テレビで動物は血の匂いで引き寄られると聞いた事を思い出した。また他の化け物がまた来るかもしれないと思い、疲れた体に鞭打ってここから離れた。
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