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理と異邦の剣士  作者: いろは
14/18

14.ルル・アーヴェイン

「ハームドの時の模擬戦と言い!今の無詠唱の魔法と言い凄いね!」


(ッ!コイツいつからそこにいた!?)


 魔力糸で周囲を探知してたのにも関わらず、声をかけられるまで全く気づかなかった事に優は驚愕した。


「…。誰だ、アンタ」


 現れたソイツは燃える様な真紅の髪を肩口まで伸ばし、意志の強そうな金色の目に腰に短剣をさしてる女性だった。


(獣人族?)


 その女性の頭には犬の耳の形をした耳がはえており、ピコピコと動いていた。


 相手の一挙一動を見逃さない為に油断なく、魔力を練りながら剣を構えた。


「あはは、そんな警戒されちゃうとなんか傷ついちゃうな。

 私はルル。ルル・アーヴェインだよ。君と同じで冒険者さ」


「冒険者?」


「そっ。ほら、カードだってある」


 コチラに見せびらかすかの様に青色のカードを見せてきた。


(青色って確かCランクだったよな)


「そのCランクの先輩が俺に何の用だ」


 冒険者の証拠を出されても優は先程その冒険者に襲われた為、それだけでは警戒を解かなかった。むしろランクが自分よりも高く尚更、自分に用があるのかわからなかった為、更に警戒心を強めた。


「まぁ、同じ冒険者から襲われたばかりだし、その反応は当然だよね」


「俺がブローガルを殺した事を報告するのか」


「いや、盗賊と組んで君を襲ってるところをバッチリ見たから、君が罪に問われることは無いね!

 強いて言うなら、ブローガルの奴が盗賊と手を組んで君を襲ってる返り討ちにあったって報告するね!」


「それは良かった。それで?アンタの目的は何だ」


「あ、そうだった、そうだった!危うく忘れるところだった」


(何だコイツ…)


 タハハー、と笑いながら気を抜ける様な笑いながら恥ずかしそうに頭をかいてる様に優は毒気を抜かれた。


(これじゃ、まるで異常に警戒してる俺がバカみたいじゃ無いか…)


 優の雰囲気を察したのかルルという冒険者は嬉しそうに話しかけてきた。


「おっ!警戒を解いたね!これは私が君を襲わないって解釈しても良いのかな?」


「ああ、なんとなくアーヴェインさんが敵じゃないって思ったから」


「うん!うん!誤解が解けて良かったよ!

 私ね、君の事が凄い気になるの!!だから、私とパーティーを組んで欲しいの!!」


「…………は?」





■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


―――とある冒険者パーティーside


 バルバラ大森林の少し奥に進んだところに4人の人影があった。


 身軽さを重視した皮鎧の男を先頭にして戦士風のプレートアーマーに身を包みがっしりとした男二人と身の丈くらいの大きな杖を持つ黒いとんがり帽子をかぶっている少女に弓を構えながら一番後ろを歩く女が歩いていた。


 暫く4人は静かに歩いていたが、戦士風の男がやや気怠そうに話した。


「しっかしよー、折角Cランクになったのに今更ゴブリン狩りかよ。

 新人とかにやらせればいいだろ」


「違う。今回の依頼はこのバルバラ大森林の生態調査だ。最近森の浅いところでランク3から4の魔物が出るようになったから俺達Cランクのパーティに生態調査の依頼が来たんだ。

 普段ランク1から2の魔物しかいない場所にランク3以上の魔物が出没するんだ、何かしら魔物の生態系に変化があったはずだ」


 戦士風の男の言葉に反応したのは先頭をあるく皮鎧の男が答えた。


「ランク3の魔物つってもよ、所詮ゴブリンリーダーとかランク3でも下位の奴らしかいねぇじゃねぇか。俺ら位だとゴブリンリーダーとか相手じゃねぇし、Dランクのパーティを幾つか使えばいいのによ。それに生態系の変化って何だよ」


 事実ここに来るまでにゴブリンリーダーとライダーにメイジ、ホブゴブリンがゴブリンと一緒に連携しながら何度も襲ってきたがこの4人は難なく撃退していた。


「今までゴブリンが住んでいた場所にそれ以上の強さを持つ魔物が来てゴブリンが追われて上から慌てて下りてきたんじゃない?

 それにアルも納得してみんなで受けた依頼じゃない。普通の依頼よりも報酬も多いんだし、成功したら暫くは依頼受けなくても生活出来るんだし、文句言わないで生態調査するわよ」


「…」


 一番後ろを歩く女が戦士風の男を宥め、その女に同調するように杖を持っている少女がこくり、と頷いていた。


「まー、そうだけどよぉ。こうも暇だとぼやきたくもなるぜ」


 そこに先頭を歩く男が立ち止まり、手を上げて三人を止めた。


「おい、お喋りはそこら辺にしろ。ゴブリンだ」


「ゴブリン程度警戒しなくてもいいだろ。それにしてもあのゴブリン今まで見た中よりも大きいし、色も黒だな。変異体か?」


 4人の目線の先には他のゴブリンよりもがっしりとした体形に普通のゴブリンは緑色の体色だが、そのゴブリンは黒色だった。


「俺とアルで斬りかかる。その隙にクシュルが魔法の準備して終わったら、合図をくれ。すぐに俺たちは離脱するから離脱した直後に撃ってくれ。ミリーはクシュルの魔法の準備が終わるまで守ってくれ。いいな」


「「オーケー」」


「…」


「よし。3、2、1…行くぞ!アル!」


「おうよ!」


 ゴブリンの背後に十分に近づき、一息に距離を詰めて二人が短剣と長剣をそれぞれ構えて挟み撃ちをする様に背後から同時に左右から攻撃した。だが、


「なっ」


「何だとっ!?」


 初めから攻撃されるのが分かっていたようにゴブリンは地面スレスレまで屈むことで左右からの攻撃を躱した。


「コイツ初めから攻撃するのをわかってたのかよっ!」


 ゴブリンは素早く立ち上がり、持っていた棍棒を力任せに上から皮鎧の男に叩きつけた。

 まさか攻撃を躱されるとは思わず、皮鎧の男は棒立ちになっていたが何とか反応し地面を転がる様にして棍棒を避け、棍棒を振り切った隙を狙い戦士風の男は首を目掛けて剣を振るった。

 ゴブリンは上半身をのけ反らせるように剣を躱した。


「ちっ!」


 ゴブリンと戦士風の男が戦っている隙に皮鎧の男は態勢を立て直し、隙を見つけては斬りつけては直ぐに離脱といったヒットアンドウェイをしていた。

 ゴブリンは戦士風の男と戦いながら、もう一人がちまちま攻撃して来るのにイラつきながらも1つ1つの攻撃を冷静に対処して致命傷を避けていた。

 一方ゴブリンを責めている2人は攻め切れないでいて焦っていた。ゴブリンの棍棒による攻撃は一撃でも喰らえばただでは済まないと感じ、冷や汗を大量にかきながら決め手のチャンスを伺っていた。そして、


「アル、フォード!こっちの準備は整ったよ!」


 杖を持った少女から合図が来た。

 フォードと呼ばれた皮鎧の男はチラリと後ろを確認し、杖を持った少女、クシュルが魔法の詠唱を終えて先を尖らせた礫を大量にクシュルの周囲に浮かび上がらせていた。


「アル!3秒後に目くらましをする!離れるぞ!」


「分かった!」


 戦士風の男、アルが魔闘技に魔力を注ぎ力任せに棍棒を弾いた。その隙にアルは離れようとしたがゴブリンは追いかける様に追撃を加えようとしたがそこに少女を守っていた女、ミリーが放った矢が飛んで来て、追撃を阻まれた。


「3、2、1…風よ、舞い上がれ!ウインド!!」


 フォードは掌に風を作り、地面に向かって魔法を放ち、土煙を上げさせて二人はゴブリンから距離をとった。


「いいぞ!やれ!」


「穿て!ストーンバレット!」


 しかし、ゴブリンは礫を喰らいながらも何事もなかったの様にクシュルに向かって突っ込んでいった。


「クシュル!逃げろ!」


 アルがクシュルに呼びかけたが、クシュルは反応できずにゴブリンの棍棒によって頭を潰されてそのまま即死した。

 それを見たミリーは激高し、矢をゴブリンに向かって放った。


「おまえぇぇ!!」


「よせ!逃げろ、ミリー!」


 ゴブリンはクシュルの体を盾にして矢を防ぎ、ミリーの胴を蹴り飛ばした。

 ミリーは防御をする事も出来ずに蹴り飛ばされ、ゴムまりの様に何度も地面を跳ねながら大きな木に当たり、血や吐瀉物を吐きながらお腹を押さえながら蹲り、やがてピクリとも動かなくなった。


 仲間が2人も目の前でやられ、アルとフォードは完全に我を忘れ、連携も取らずにゴブリンに向かって攻撃したがゴブリンはまず、突っ込んできたアルに肩からぶつかる様にタックルをして体制を崩させ、棍棒を叩きつけた。

 アルは何とか両手を交差して防御したが、両手の骨を砕かれながら吹っ飛ばされた。

 一瞬にして仲間が自分以外やられ、フォードは恐怖しながらただただキレもなく短剣で斬りつける攻撃になった。


「うわあああ!」


 ゴブリンは簡単にその攻撃をいなして地面に棍棒で叩き潰された。

 アルは地面に横たわりながら、自身に向かって振り下ろされた棍棒を最後に目の前が真っ暗になり意識が途絶えた。


 戦いを終えたゴブリンは空に向かって雄叫びを上げ、大気を震わせた。


「グオオオオオッ!」


 昔の自分ではこのレベルの人間には手も足も出ず、蹂躙されるだけの存在だったが、ある者によって強大な力を得た。

 今の自分になり、今の戦いで蹂躙される側から蹂躙する立場になったと確信し、自分がこの森の支配者になるべき存在だと考えた。

 支配者になる為には戦力が必要だと考えたゴブリンは戦力を増やしていき、着々と準備を進めていった。


 そして目の前には大勢の部下が自分に向かって頭を下げ、跪いていた。

 その光景を見てゴブリンはゴブリンは嗤った。


「グヒヒヒ」


 蹂躙する日は近い。


 その光景を眺める者がいた。


「ようやく力が定着したか。一応は実験は成功か…。しかし、やはりゴブリンというべきか、所詮は借り物の力だというのにここまでつけ上がるとはな。今のお前程度ならこの森には幾らでもいるというのに、全く愚かな魔物だ。身の丈に合わない力はその身を滅ぼすことを自らの身体で知るといい。」


 そう言うと音もなく、その者は消えた。あたかもそこには最初から何も居なかったかの様に。



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