1.はじまり
カーン、カーンと木と木がぶつかり合う、子気味良い音がとある一室で鳴り響いていた。
子気味良い音の正体は高校生くらいだろうか、中性的な顔の作りをした少年と白髪混じりの優しい微笑みを浮かべている好々爺然とした老人の2人が木刀同士をぶつけ合っていた。
まだ幼さが残る少年はその顔に大量の汗を張り付かせながら、必死に老人に木刀を立ち込んでいた。だか、その少年に対して老人は汗ひとつ出さずに少年の攻撃を余裕を持って完璧に受け流していた。
「ハア、ハア…」
「どうした?もう終わりかね?」
「くっ…まだまだぁ!」
少年は腕を振り上げ、渾身の力を入れて木刀を振り下ろした。老人はその攻撃を受け流すべく備えようと瞬間、少年は木刀の軌道を振り下ろしから首狩りに変えた。
(とった!!)
勝利を確信した少年は笑みを浮かべるが、すぐに驚いた表情になる。フェイントを織り交ぜた渾身の攻撃を易々と老人は受け流し、少年の木刀の切っ先部分に木刀を振り、少年の木刀を弾き飛ばした。しかし、少年はそれだけで終わらず、木刀を弾き飛ばされた体勢から回し蹴りを無理矢理繰り出したがそれもあえなく受け流されて足を引っ掛けられて無理な体勢から蹴った為、受け身も取れずに床に転がされた。
「ぐっ、いったぁ!」
「ほほっ、最後の攻撃は良かったぞ。振り下ろしに見せかけての首狩りとは良い攻撃じゃ、驚いたぞ」
「でも、じいちゃんニコニコした顔で余裕で受け流してたじゃん!」
「儂くらいになるとあの程度あれぐらい防げて当然じゃ」
「絶対にいつかはじいちゃんに勝ってやるからな!」
「ほほっ、楽しみにしとくよ。それと茜ちゃんがもう近くまで来とる、優も帰る準備しておいで」
「えっ!?もうそんな時間!?」
優と呼ばれた少年は慌てながら帰り支度をした。
「いっつも思うけど、じいちゃんってよく人が来るの分かるよね。茜もいつも時間通りに来るわけでもないのに」
「気配を感じておるからの。優ももうそろそろ出来るじゃろ?」
「出来るじゃろって言われても気配を感じろとか漫画やアニメじゃないんだから、出来るわけないだろ…」
優は呆れなが無茶苦茶な回答を言うじいちゃんに聞いた自分が馬鹿だったと思った。
「むっ、信じておらんな。本当のことじゃぞ。それに気配を感じのは大切じゃぞ!さっきも優の攻撃の気配を感じてるからこそ、完璧に受け流せてるからの」
「ふーん、もうここに何年も通ってるけど、一向にじいちゃんの攻撃の気配なんて感じられないけどなー」
「そりゃ、気配を絶ってるからの。大切なのは物事に意識を向けることじゃ」
「意識ねぇ」
むむ〜っと唸りながら、優が目を瞑りながら気配を感じようとその様を見た老人はそんな雑念混じりの意識の向け方があるかと嘆息した。
(この様子じゃ、まだまだだの。しかし、また子供ながらにしてこの実力…
将来が楽しみな少年じゃ。)
気配を感じる為、優は唸っていたところ、扉の方からトタトタっと走る足音が聞こえてきた。
やがて足音は優達がいる部屋の扉の前まで来て勢い良く扉を開けた。
「こんにちはー!」
扉を開けたのは優と同じくらいの歳の少女であった。
「こんにちは、茜ちゃん」
「優!そろそろ時間だよ!一緒に帰ろ!」
「おー、もう帰る準備も終わってるし、今行くよ。
それじゃ、じいちゃん今日は帰るよ。また明日もよろしくお願いします。」
「今日も優を見てくれてありがとね!おじいちゃん!」
「ほほっ、優、茜ちゃん気を付けて帰るんだよ」
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
優と茜は日が沈んだ、暗い道を2人は歩いていた。
(今日もじいちゃんに一撃も当たることが出来なかった。もうあそこに通い始めて何年もなるのに。こんなんじゃいつまで経っても茜を守れない…)
実は優は何でもありな試合なら木刀も使わずともその道の大人でも簡単に倒せる程の実力を持っていた。
さっきまでいた道場の老人―――奉斎は何も知らない優に剣の使い方以外にも様々な拳法も教えていた。それこそ人を殺す事に特化した武術も優に叩き込んでいた。
優が武術を奉斎に習い始めたのは小学生の頃からだ。武術を習う事になったのはある事件がきっかけである。
小学生の頃、優は通り魔に襲われた。
その時は茜も一緒にいた。通り魔に襲われた優は恐怖で体が震えて動けないでいた。しかし、茜はそんな優を突き飛ばした。咄嗟に腕を突き出しことから手首から二の腕までに掛けて深い切り傷を負う事になった。そして、偶々近くを通りかかっていた、奉斎が追撃をしようとしていた通り魔を軽々と抑え通り魔を捕まえた。すぐさま、茜の応急措置を施して病院に駆け込んだ。
優は何も出来ずにあまつさえ、女の子に庇われ怪我を負わせてしまった、自分を責めた。
茜は命に別状は無かったが、腕についた傷跡は深々と残り消えることはなかった。傷跡が出来た茜は真夏でさえ、傷跡を隠す為に長袖を着るようになった。
優はこの日から茜を何があっても守ると決めた。そして、圧倒的な武術で通り魔を軽々と抑えた奉斎に頼み込み弟子入りして強くなる為、力を求めた。
(もう茜にあんな思いをさせない為にも早く強くならないと)
「…ねぇ、ねぇってば!!聞いてる!?」
「えっ!?何?」
「もう、さっきからずっと上の空!一緒に帰ってるんだから、ちゃんと話くらい聞いてよね!」
「ごめん、ごめん。何の話だっけ」
「しっかりしてよね!…ねぇ、明日って暇?時間ある?」
「う〜ん。暇っちゃ、暇だけど…何で?」
「ほら、えーと、何がしたい?」
「いや、何がしたいって、何だよ…ん?そう言えばクラスの人に昨日、明日の遊ばなかって誘われてなかったか?いい加減、俺ばっかと遊ばないで他の友達と遊びなよ。」
「もう!何でそんな事言うかな!」
そう言って茜は走って先にあるT路地を曲がって行ってしまった。
「何だ、茜のやつ」
突然の事で優は反応出来ずに置いてかれてしまった。
(ま、家ももうすぐだし、大丈夫だよな。明日の事で何かあったら連絡でもしてくるだろ)
優はそう結論づけてまた、歩き出した。そして、そのT路地に突き当たり、茜とは反対の方へ向かい、歩き出した。ふと優はめっきり茜の家に行くことが無くなり最近は顔を見てない茜のおばさんやおじさんは元気だろうかと考え、自分とは逆方向の道を振り向いた瞬間、優は声も動くことも何も出来ずに真っ黒い闇の様な何かに呑み込まれ楪優という少年は初めから居なかったようにこの地球から消え去った。




