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平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
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第13話  成長の跡

予選の試合後、控え室に通された。

決勝戦の準備が終わるまで待つように言われている。

てっきり翌日に持ち越しだとばかり思っていたけど、ルーキーリーグだけは初日にやってしまうらしい。


水を飲もうとして、机上のコップを掴もうとしたけど上手くいかない。

手が震えていて何度も弾いてしまう。

新たなトラウマが生まれそうで、戦意はすっかり萎えてしまった。

あの剥き出しの憎悪だけは、何度向けられても慣れそうにない。



ーーコンコン。

誰かがやってきたみたいだ。

もう試合の準備が終わったのかな?

ドアを開けると、下着姿のような薄着の、蝶ネクタイをした女性が立っていた。

名前は知らないけど、顔は知っている。

司会役のお姉さんだ。



「レイン君、決勝進出おめでとう! もう飽きるほど大会を見てきたけど、あんな鮮やかな勝ち方は初めてみたよ!」

「はぁ、その、どうも」

「……すんごい独特な格好してるけど、結構ピュアなんだね。応援してるから頑張ってねー!」

「ええ、その、どうも」



ーーバタン。


何だかつむじ風のような人だった。

突然現れて去っていったよ。

でもさっきの人といい、面白半分の観客たちといい、僕の味方で居てくれるみたいだ。

このイベントも悪いことばかりじゃないかもしれないね。

ふと気がつくと、手の震えは止まっていた。

良い感じに気が紛れたのかもしれない。



ーーコンコン。


まただ、今度は誰だろう?

応対すると、そこには日焼け顔の屈強な男が立っていた。

身なりは見張りの兵士と同じだった。



「挑戦者レイン、準備が整った。至急競技場へ参られよ」

「はい、直ぐに向かいます!」



とうとう来てしまった。

心の準備をする時間すらなかったなぁ。

でもこうなったら仕方ない、やれる事をやるまでだ!

僕は急ぎコップに水を汲み、一息でそれを飲み干した。



決勝戦の会場は予選と同じ場所だけど、明らかに質が違った。

客席は超満員で、ボルテージは最高潮だった。

案内の兵士さんも、「ルーキーリーグでここまでの盛り上がりは近年見たことがない」と驚いてたから、珍しい状況なんだろう。



『みなさん、お待たせしましたー! ルーキーリーグの決勝戦です! 初登場にして一躍有名人となった、チーム生真面目さんの智将レイン君が勝つのか?!』

「がんばれよー、期待してるからなー!」

「おおぃ、折角の晴れ舞台で、ギリ陰部ってどういうこったー?!」


ドワッハッハッハ!


笑われたり、からかわれたりするのは慣れてるけど……このシチュエーションは結構辛い。

選手紹介なんてとっとと終わってほしいよ。



『はたまた、剣の力には血筋も必要?! 流麗な技は王族の証! 謎の仮面王子が勝利するのかー?』

「謎じゃない、全然謎じゃない!」

「あれ王子様だろ! モロバレじゃねえか!」


ドワッハッハ!



『さぁ試合を始める前に、特等席にいらっしゃる国王陛下にひと言いただきましょうー』



屋根のない一般席とは違って、しっかりとした屋根付きの席が観客席の中心にあった。

そこで身なりの立派なおじさんが立ち上がったけど、あの人が王様なのかな?



『両者、正々堂々戦うが良い。ただし仮面王子に負傷があった際、対戦者を死刑に処す』

『ハイ、ありがとうございます! 正々堂々とはなんなのか、言葉の定義がバキリと壊れました!』



僕と対戦者に武器が手渡された。

予選と同じく、訓練に使われそうな模擬剣だ。

決勝戦も真剣じゃなくて、少し安心した。



『それでは、両者! はじめー!!』



その言葉と同時に会場は歓声で揺れた。

僕は少し驚いてしまったけど、相手はそうでなかった。



駆け足で間合いを詰めて、勢いを乗せての降り下ろしが来る。

僕は一歩下がってそれを避ける。

降り下ろしがその向きを変えつつ、踏み込みつつの突き。

狙いは僕の右胸。

軌道を右手の剣で逸らしつつ、僕も踏み込んだ。

脇腹を蹴りつける。

男がよろめき、体が泳いだ。

相手が向き直った時には、そこに僕はもう居ない。

背後に回って切り上げ。

これは踏み込みが甘くてダメージは浅い。


苛立ったような大振りの一閃をかわして距離をとった。



ーーフゥ。



僕は息をついて相手に向かって構え直した。

相手はというと、顔を赤くして歯軋りをしているみたいだ。

感情をハッキリ出すタイプは、動きが読みやすくて助かる。


こんな戦い方が出来るのも、全てはグスタフの指導のお陰だろう。

相手の動きを見定める事はみっちりと学んだ。

『クイック対応訓練』の成果もあって、動体視力も良くなっているみたいだ。

素のステータス以上に活躍出来ていると思う。



『なんということでしょうか! 知略タイプかと思われたレイン選手は接近戦もこなせるようです、まさしく英雄型と言えるでしょう!』

「すげぇ! ルーキーの動きじゃねぇぞ!」

「やるなボウズ、足りねえのは身だしなみぐれぇだな!」

『私はここに【レインきゅん☆ふぁんクラブ】の創設を宣言します! 会員ナンバー1は私、ナンバー2も3も私だぁー!』

「そんなグイグイ行くなって、男にまた逃げられちまうぞー?」


ウワッハッハッハ!



なんだか会場は盛り上がってるみたいだ、変な方向に向かって。

……って僕は仕合中なんだ、気を引き締めないと。



「野良剣術風情が、最高学府で学んだ私に敵うとでも思ったか!」



男は構えを変えた。

きっと来る日も修練を続けただろう、美しく流れる様な動きだった。

気配も先ほどとは別人のようで、闘争心が剣先までみなぎっているように感じた。


この戦いは甘くないであろう事を、この時に予見していた。

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