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平凡男子の無茶ブリ無双伝  作者: おもちさん
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第14話  アウェイ特有のジャッジ

男は体を真横にして、顔と剣だけをこちらに向けるようにして構えた。

僕から見ると相手の顔、剣、右肩と脇腹くらいしか見る事ができない。

攻撃の狙いを付ける場所が4点に絞られてしまっている。


ーーやり辛い。


率直にそう思った。

さっきみたいに無造作に立っていてくれたら、攻めようはいくらでもあったのだけど。

剣術をまともに習った事のない僕にそんな定型な構えなんかない。

いつもの慣れた姿勢で迎え撃った。



「やはり下賎げせんな者よ。貴様の立ち振る舞いには美学がない、必然性がない、精錬さがない!」



相手が一気に踏み込んできた。

さっきより随分と早い。

鋭い突きが飛んでくる。

さっきと同じように剣を合わせるが、フェイントだった。

突きをいなそうとした瞬間、僕の受けた剣から圧力が消えた。

相手の剣が素早く引かれ、第2撃が来る。

僕の体は右手側に流れ、体の守りがガラ空きだ。


こっちの攻撃が本命らしい。

体重のしっかり乗った突きが鳩尾みぞおちへと向けられた。

剣では払えず体を捻る。

直撃を避けつつも脇に喰らってしまった。

体が後ろに吹き飛ばされてしまう。



「つぅっ……」

「ククク、この程度で終わりではあるまいな?」



追撃をせずに、再び同じ構えを取っている。

乱戦になれば反撃の芽もあったけど、じっくり構えられると打つ手がない。

そうなると魔法に頼る他ない。

でも僕の魔法は「知覚されていると無効」という性質を持っていた。

こうやって視認されている内は効果がないだろう。



ーーもしかして、この方法なら?



一つの妙案が浮かんだ。

うまくいく保証はない。

でもこのままじゃ一方的にやられてしまう。

早めにケリをつけないと、技術の差で圧倒されそうだ。



僕は低めの姿勢のまま間合いを詰めた。

無謀な特攻、のように映る跳躍だ。

下から顔面に向かって切り上げ。

それは苦もなく弾かれて、反撃の一突きが飛んでくる。

僕はより身をかがめることでかわし、その場で回転した。


足払いだ。

上の攻撃を防いだ事で足元に気が回っていなかったのか、それは見事に決まった。

うつむいた状態で相手が倒れる。

僕はなるべく視界から外れるべく、大きく距離をとった。



小癪こしゃくな! どこへ行った?」



よし、相手から見えなくなった。

ここで一気に決めさせてもらうよ。



「スニーク! インヴィシブル!」

「な、なんだと?!」



足音と姿を消すことに成功したようだ。

相手は僕を全く捉えられていない。

それでもここは、遮るものの全くない競技場内だ。

あっという間に看破されてしまうかもしれない。


相手の無防備な懐に入り、十分に踏み込んだ。

そして渾身のなぎ払い。

お手本のように、見事にわき腹に深く突き刺さった。


苦悶の表情を浮かべたあと、男は崩れ落ちた。

膝を折って悶絶している。

どうにか決定的な打撃を与えたらしい。



『仮面王子、立てません! よってこの勝負はーー』

「待てい!」



司会の言葉を遮る声が聞こえた。

威厳の感じられる、よく通る声だ。

目で追うと、そこは王様の席だった。

大きな身振り手振りで大声を出している。



「今の戦いは無効じゃ。いや、挑戦者の不正を確認しておる。この勝負は仮面王子の不戦勝じゃ」

『おおっと、ここでまさかの反則ジャッジです! 正直私は何が問題だったのかサッパリわかりませんが、自分の職のために異議は申し立てません!』

「王子は魔法を使えない。それをこの不埒者ふらちものは使いおった。よってこれは不正である!」

「なんだそのルールは? 初めて聞いたぞ!」

「魔法を使ってないなんて嘘つくなー! こっそり肉体強化を使ってたじゃねえかー!」

「黙れ、下層民どもが! 賞金の1万ディナは仮面王子に、そのこ汚い小僧は王都より永久追放とする!」



ええーー?!

なんか急展開になったけど、僕は何か悪いことしちゃったのかな。

そのせいで不戦敗になったってこと?



「おい王様よ、無茶苦茶言ってんじゃねえよ。誰の目で見てもあのボウズの勝ちだろうが!」

身内贔屓みうちびいきしてんじゃねえーー! 自分の息子がそんなに可愛いかー!」

「静まらんか! 貴様らまとめて牢屋に放り込むぞ」

「やれるもんならやってみやがれぇー!」

「下町の男衆をなめんじゃねえぞ!」



あわあわわ……。

なんだか暴動に発展しちゃったけど、これ大丈夫なの?

あっという間に観客席も競技場も大荒れになってるけど、どうすればいいんだろう?



「レインさん、ひとまず安全な場所へ!」

「リーダー! あっちに行こう!」



オリヴィエたちだ。

『あっち』というのは司会のお姉さんの居る辺りだろう。

そのお姉さんが手招きしている。

ともかく助けてもらわなきゃ!



「こっちこっち、レインきゅん急いで!」

「あなたはさっきの? 騒ぎを起こしちゃってすみません」

「お喋りはあとあと! 裏口に案内するから、ついてきて!」



僕はお姉さんの背中を追いかけた。

ちょっと脇腹が痛いけどそれどころじゃない。

狭く暗い通路を走り抜け、天井の低い階段を抜けた先は出口だった。

そこにはすでにグスタフとオリヴィエも待っていた。

僕たちは3人揃ってから、お姉さんに向きなおった。



「ありがとうございます、手引きまでしてもらって」

「いいのいいの。私はレインきゅんのファンだから!」

「きゅん……?」

「それにしても格好良かったよ! 騒ぎが落ち着いた頃にまた会いに来てね」



そう言ってお姉さんの顔が近づいてきた。

突然の事に反応できないでいると、


ーープチュ。


頬に柔らかい感触があった。

初めての経験だから確信はないけど、どうやらキスをされたみたいだ。



「じゃあ私は行くね! お礼は期待してるからね?」



そう言って奥へと消えていった。

お礼って何をすればいいだろう?

菓子折りとか、なのかな。


ふと気がつくと、オリヴィエが僕の頬をチラチラと見ていた。

そして少しだけ考えたあと、彼女は袖で僕の頬をゴシゴシと拭った。


うん、よくわからないけど……ごめんね?

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