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弱いAI搭載オートマタ

「聞くまでもないが、言いだしっぺはどっちだ?」

「はい、私です」

「これもまた聞くまでもないが、『魂寄せ』の禁忌を侵したのは誰だ?」

「私です。でもでも、普通ならバレるような儀式じゃないしエミちゃんの魂を捕えてるのはじっちゃんの――」

「がっはっは、人間の法なんてものは未知の事象については面白いくらいに無力だ。まあ、儂もただじゃ済まんだろうがなぁ」


 ヴィルダーロッター邸にルッツのよく通る問答の声が響く。責め立て非難するような強い語調ではないがその声に険が籠っているのは間違いない。問い掛けられるのはリタ。僕は巻き込まれた被害者という体で、リタに全ての責任をなすりつける事に成功した。


 ルッツに帰ってくるまでの経緯(いきさつ)を僕とリタが説明してからこの調子なのだ。リタもいい歳の女性である。それが僕どころか自分自身を御せずに監督不行き届きなのは目に余るものがある。今更どうなるというものでもないのだろうけど。


 外は既に日が暮れて、食卓には魔術の光が日光に代わって満ちている。卓上にはルッツが用意していたパンとソーセージ、それから野菜の酢漬けが並んでいた。エンゲルス家で頂いた菓子は吐こうとしたら胃にあたる所が伽藍堂で、夕食前に見苦しい事をせずに済んだ。魔力に変換されただろう事は想像がつくけれど、今まではそんな事は一度たりともなかった。魔術を自前の魔力を利用して行使したので身体が生き物で言うところの栄養、魔力を欲して変換と取り込みが行われたのだろうと僕は見ている。


「でもさ、聞いてよ。まさかエミちゃんが目立つ事になるとは思わないじゃん」

「普段から気持ちの悪いくらいにエミにべったりのリタがそれを言うのか? 一人歩きさせていい造形ではないと自負しているがの」


 ルッツがソーセージの皮を食い破りながら言う。目は僕の方を向いて、改めて全身を見回される。


「ここまで着飾らせておいて……本当、よく言うわ」

「返す言葉がないです」


 ルッツはソーセージを一思いに頬張ると、ここぞとばかりにパンをさらに口に詰め込んだ。年の割によく食べる。リタの方は委縮してそもそも食器に手を付けてすらいない。僕は素知らぬ振りで酢漬けの野菜を取り分けて手元に持ってくる。


「それにしても、暴漢二人を相手に大立ち回りとは。儂の作品も捨てたものではないな」

「偶然に因る所も多かったですけど、やはりこの身体のお蔭ですね。ありがとう、ルッツ」


 僕が素直に礼を言うと、ルッツが鼻の下を人差し指で括る。照れているようだ。


「我ながらいい仕事をしたものだ。自律式の自動人形と平行で儂が入る自動人形も作っておるが、そっちも上手くいく事を祈ろう」

「……ルッツの作る自動人形って基本的に女の子ですけど、そういう願望が?」

「エミ、憧れの対象と同一化したいのは言うまでもないだろう」


 その言葉を待っていないし聞きたくなかった。


「がっはっは、冗談だ」

「なんだ、びっくりした」


 髭面の爺さんのお茶目はいらない。ルッツはついさっきまでリタを叱責していたというのに、とても切り替えが早かった。


「だが、儂もまだまだ死ぬ気配もつもりもない。自律式の自動人形が完成したら、自分用の容れ物として自動人形はやはり欲しい」

「妹の中身がルッツとか嫌ですよ……」

「そんな意見、知らん。リタが伯母なのはよくて儂が妹じゃいかんのか」

「嫌に決まってるでしょう!」


 ここは声を張り上げて抗議しておかなければならない。ロリババァならぬロリジジィとか何処に需要があると言うんだ。同族の僕でも仲良しにはなれない。


「以前言っていた『世界が停滞する』みたいな事を自分で率先してやってどうするんです」

「だから冗談だと言っておるだろう」

「それで、自律式の自動人形っていうのは何処まで出来上がってるんですか?」

「完成度で言えば、もう出来上がっているようなものだ」

「おお、たったの一月でそこまで」


 やはり怪しげな技術者というのは人智を超えた能力を持っているのだ。自動人形作成の経験や、エミで導入された魔術回路などの基盤はあっただろうけどすごい。


「もう出来るなら私がここまで怒られる必要もなかったじゃない」


 リタが気持ち小さな声でぼそっとひとりごちる。それを聞き逃すルッツでない訳で、ルッツが「じゃあ聞くが」と前置きをする。


「設計図通りに組んでそれで完成だと思うか?」

「完成でしょ。出来上がってるじゃん」

「じゃあ質問を変えよう。赤子は人間か?」

「人間でしょ」

「儂らと言葉を交わすことも出来ないのにか。人間性もないぞ」

「いや、でも、人間でしょ……」

「そういう事だ、リタ」


 つまり、人間を人間たらしめているのは人間性やコミュニケーション能力だと言いたいのだろうか。おそらくルッツは赤子の事を動物としてのヒトとして見たのだ。ヒトが人間である要素、それこそが自律式の自動人形に求められるものなのだ。


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