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急所は狙うもの

 魔道具屋を出て反物屋へと戻っていると、不意に視界の隅を何者かが素早く抜けていくのが見えた。気になったのでそちらの方を見てみると、露店が途切れて裏道へと繋がる細い路地。リタの下へと帰る気持ちが好奇心に負けて、駆け足で裏道の方へと向かうと丁字の部分で何者かに突き飛ばされる。


 適当に受け身を取って立ち上がると、僕を突き飛ばした人物がこけて倒れていた。男から受けるのは何処となく荒っぽい雰囲気だ。中肉中背なうえに筋肉質という訳でもないけれど、気迫を感じるのだ。正直に言えば、目付きがすごい怖い。


「何やってんだクソが! 先行ってるからそのガキどうにかしとけ!」

「わぁーってら! Fxxx!」


 僕を突き飛ばした男と似た雰囲気を持つ人が後から駆けてきて、棒立ちの僕の横を抜けていく。見た目が少女の僕をいったいどうするつもり何ですかね。ああ、僕の苦手な性と暴力と金の香りがする……。


 目の前の男は立ち上がると、意外にしっかりとした足取りで僕との距離を詰めてくる。元々が狭い道での出来事だ、そう距離もなかったけど。


「嬢ちゃん、ここであった事を全部、さーっぱり忘れてもらいたいんだけど出来るかな?」

「はい、ここで何もありませんでした」


 男は僕を壁に追い込んで、壁に手を付いて顔を寄せてくる。なるほど、これはときめかない。僕はひとつ賢くなった。


「物分りがよくて助かっちゃうね。でも俺はどうやって嬢ちゃんが他所で喋らないって事を信用すればいいかなぁ。嬢ちゃんわかる?」

「いえ、わかりません」


 分かりやすく手の関節を鳴らしてくるけど、僕は人を従わせる術なんて知りません。暴力で人は分かりやすく屈服するなんて知らないです。これが答え、とばかりに男が腕を引いて暴力を行使しようとする。


 弱点を守ろうとする本能か、僕は無意識に頭を庇おうと手を上げる。守っても結局はダンゴ虫みたいに転がされて蹴られまくるのだと分かっている。だいたい、男が立ち上がる前に早々に逃げておくべきだった。今の僕には目をぎゅっと瞑って打撃に備える事しか出来ない。


「グッ」


 ――しかし何が功を奏するものかは分からないもので、やたらと近かった男の喉に僕の上げた手が入ったのだ。男の呻きが聞こえて顔が上がっているのを見て、状況がよく分からないけど反撃のいい機会である事は分かった。


 僕は素人丸出しの蹴りあげで男の急所に強打を叩き込んでから両手で突き飛ばす。男にとって不運なのは僕がゴスロリ服に合わせて靴がローファーになっていた事だろう。これが硬いしそれなりに重さもあるので効果覿面に違いない。


「せ、正当防衛ですから! 僕は悪くないです!」


 片手で股間を押さえてむせながらも僕の方へと男が手を伸ばそうとしてきたので蹴り払ってしまう。怖くて思わず「ひゃっ」と情けない声をあげてしまった。


 急所に致命的な一撃を与えたにも関わらず男が諦めずにこちらを睨むので、後退りをして自ら市場の通りと反対に位置取ってしまう。僕の反撃は確実に男を怒らせてしまった。


 僕の逃げられるのはもう一人の男が走り去っていった方向だけだが、むしろそれが良かったのかもしれない。選択肢が一つしかないなら迷いようがないのだから。


 僕は躊躇なく男の顔面に蹴りを追加で一発入れてから、すぐに駆け出した。これぐらいすれば追う気力も無くなるのでは、という考えがあっての行動だったけど足を掴まれて逃げられなくなってたら危なかった。




 少女の形こそしているものの、僕は自動人形だ。果たして自動人形は息が上がるだろうか。長く走っていると手足を重く感じるのだろうか。――答えはノーだ。自動人形が動くのに肺で酸素を取り込む必要はないし、いくら動いても乳酸が溜まる筋肉がない。


 全力疾走にしてはあまり早くはないだろうけど、どれだけ走っても疲れないのは逃げる上で焦りを解消するのに十分な要素だった。時折、背後を振り返って追ってきていないか確認をするけど男の姿はない。


 してやったり。大人の男を相手取って無事に逃げ果せた事実は僕の心を大きくした。緊張であまり動かなかった表情もつい緩くなってしまうというものだ。体格差があれだけあって一方的に蹴られるなんて、相手もツいてない。これを笑わずに何を笑おう。


 ゴスロリ服が動きにくいと言っても、タイトスカートを穿いてるわけでなかったのも運が良かった。更に言えば前世では身体が硬くてY字バランスなんて出来なかったけど、今なら可動域の範囲内ならどんなポーズでも余裕だ。身体が柔らかい、というよりもそもそも構造が違う。


 けらけらと笑いながら裏道を走り抜けていると目の前に見覚えのある、というかさっき見たばかりの背中があった。その背中の向こうは壁。つまりは行き止まりだ。逃げ切ったと思って景気よく走っていたら男の仲間と出遭ってしまうとは、僕の馬鹿さ加減も笑えてくる。


 その男――先ほどの男と違い筋肉質なのでマッチョと呼ぼう――は壁と睨めっこをしている訳ではなく、何者かを行き止まりに追い詰めているようだった。マッチョの脇腹からはウェーブの掛かったブロンドの髪を乱した、怯えを顔に張り付けた少女が見える。少女は質の良さそうな服を着ていて、どこか上品に見えた。


 ――もしかして、あれがコホレア町長の娘さん?


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