人狼奇譚3
エドウィンは、宮廷の広大な庭を出て、青い軍服の兵隊が並ぶ大門の前で呼び止められた。
顔馴染みの若い兵隊だ。
また通行許可証の提示か・・・。
さっき、ここに入る時に提示したばかりだというのに。
融通が利かない兵隊の態度に、エドウィンは苛つきながらも、マントの下から首に下げていた許可証をちらつかせた。
兵隊は嘲笑するようにフフンと鼻を鳴らす。
「それは先程、拝見いたしました。もう必要ありません」
「・・・だったら、何だ?私が何かしたのか?」
「私は存じませんが、何か疾しい事があるのですか、エドウィン様?」
「あるわけないだろう!用がないなら何故、呼び止めた!?」
「あなたに会わせろと犬のように噛み付いてくる御婦人を拘束しております。何でも、ここで待ち合わせているとか・・・。会われますか?」
兵隊のまどろっこしい問答に苛々し始めたエドウィンだったが、最後の言葉を聞いて飛び上がった。
今日、ここで会う約束になっていた人・・・。
その犬のような婦人はルアナに違いない。
エドウィンはキョロキョロと辺りを見回した。
「会うに決まってるだろう!その御婦人はどこだ!?」
「ああ、あちらに拘束させて頂きましたが・・・脱出されたようですね」
兵隊は呆れたように、宮廷の方を眺めた。
その刹那、聞き覚えのある凛とした声が響き渡った。
「おーい!私だ!浮浪民で処刑人のルアナだ!」
ギョっとして後ろを振り向いたエドウィンが見たもの・・・。
それは確かにルアナだった。
だが、あの処刑の日に出遭った彼女と大きく変貌しているその姿に、エドウィンは唖然とした。
頭の上で纏めて結い上げられた金色の髪、そして、ふっくらした丸い顔。
大きな水色の瞳は、キラキラ輝いて生気に溢れている。
木の枝のようだった体は丸みを帯びて、少年のようだった昔の面影はもうない。
麻袋はもう着ておらず、代わりに緑色の長いドレスを纏っている。
そして、彼女が大切そうに両手で抱え込んでいる腹部は、誰の目から見ても明らかな程せり出していた。
重そうな腹を大事に抱えながら、ルアナはトコトコとエドウィンの前まで小走りで来た。
八重歯を見せてニヤリと笑ったその顔は、間違いなくルアナだ。
そうは言っても、彼女のあまりの変貌に、エドウィンはしばし言葉が出ずに口だけパクパクと開閉させる。
「ル、ルアナ?貴女、まさか・・・!?」
「そうなんだ。そういう訳であんたと旅に出るのは少し後にしてもらいたいんだ。できれば、半月くらい泊めてくれると助かるんだけど・・・」
エドウィンは、幸せそうな彼女の顔を見て胸が熱くなった。
これでアスランも安心だ。
貴方の血を引く逞しい子供が、これからは彼女を守っていくだろう。
エドウィンは涙を見られないよう、笑顔で言った。
「貴女の好きなだけ私の家にいるといい。家族も歓迎するよ。でも、猫はもう探さないのか?」
「ああ、もう止めた。だって、あいつは約束したんだ。私が地獄に行く時は一緒だってな。だから、生きてる間はせいぜい頑張るさ」
大きな水色の瞳が幸せそうにキラキラ輝く。
眩しい程のルアナの笑顔を見て、エドウィンも笑った。
訳が分からず呆然としている兵隊達とよそに、エドウィンは彼女の手を取った。
彼と顔馴染みの若い兵隊が、慌てて宮廷の大門を開く。
爽やかな風の中、二人は開かれた門をくぐり抜けると、街に向かってゆっくりと歩き出した。
Fin.
ここまで読んで下さった方々、長い間ありがとうございました。




