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第十三章 愛する者を護る為に




一.



「……何処どこだ、此処ここは」

 保憲やすのりは、真っ白な空間の中にた。

 歩いても歩いても、建物も何も見えない。

 只、白い空間が果てしなく続いているだけだ。

 ……ひらり。

 一片ひとひらの花びらが視界をぎる。

「桜か」

 誰とも無く呟いた、刹那せつな

 強い突風とっぷうが吹き荒れた。

 数多あまたの花弁が舞い散り、宙をおどる。

 その隙間すきまから、一人のわらわの姿が見えた。

「あれは」

 瞠目どうもくし、立ち尽くす。

 数本の桜の大木たいぼくに囲われるようにして、童が座り込んでいた。

 幼き頃の晴明せいめいであった。

 白い水干すいかんに包まれた小さな身体が、震えている。

 声を押し殺して、泣いているのだ。

「……童子どうじ

 たまれなくなり、駆け寄る。

 涙を一杯にたたえた蜜色みついろの瞳が、保憲を見上げた。

「何か、あったのか」

「――今更、俺に何の用なのだ。保憲」

「な、に」

 呆然とする保憲を睨む視線は、果てしなく冷たい。

 童子はすくりと立ち上がり、背中を向けた。

 すると、突然彼女の背丈が伸び、現在の晴明の姿に変わった。

「今まで散々な目に合わせといて、今更何用なのだ」

「晴明……」

「貴様の所為せいで、俺がどんな目にったと思っているのだ」

「それ、は」

 何も言い返すことが出来ず、俯く。

 そんな保憲に腹を立てたのか、晴明は彼の胸倉むなぐらを掴んだ。

「何故貴様は、妻をめとったのだ。俺を恋慕しているのならば、何故早く想いを伝えようとしなかったのだ!」

 そこで言葉を切り、ふっと目を伏せる。

「貴様は逃げてばかりなのだな。俺からも、自分の想いからも」

 震える唇が、言葉を紡ぐ。

「……何だと」

「だから貴様は……、鬼となってしまうのだ」

 記憶、が。

 記憶が、洪水こうずいごとあふれ出す。

『厭だ……、厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ厭だ厭だぁっ!』

 恐怖で顔を歪ませた晴明の顔が、頭に浮かんだ。

「あ、あ……」

 がくりと、膝が折れた。

 護ると決めた大切な人を、傷付けてしまった。

 あまつさえ、その禁忌きんきを喜んで行ってしまった。

絶望が、保憲を侵食しんしょくしてゆく。

「貴様なぞ、大嫌いだ」

 追い討ちを掛けるように、晴明が言う。

 最早もはやまともに顔を見ることなぞ、出来なかった。

「貴様も、他の男と同じだったのだな。貴様だけは俺を傷付けぬと、信じていたのに」

 地面に置いた手に、しずくが落ちる。

 ばっと、顔を上げた。

 一筋の涙が、晴明の頬を流れていた。

「晴明!」

 思わず伸ばした手は、むなしく空を切った。

 晴明の姿が、消えていた。

畜生ちくしょう……!」

 保憲は唇を噛み締め、拳を打ち付けた。

 ――もう二度と泣かせぬと、誓ったばかりではないか。それなのに私は……。

 唇を歪ませ、嘲笑ちょうしょうを漏らす。

「はっ、私は結局、想い人を泣かせることしか出来ぬのか……」

「――の通り」

 銀色の髪が、なびく。

 先程まで晴明が居た場所に、みかどが立っていた。

「てめえの所為で、晴明が今までどれだけ涙を流したと思っていやがる。まさかこのまま晴明と愛し合えると、本気で思ってんのか? いくら何でも虫が良すぎるんじゃねえのか」

「何」

「ま、俺だったらぜってえにあいつを幸せに出来るけどな」

「どういう、意味です」

 帝は紅い唇に笑みを浮かべ、肩を二、三度軽く叩いた。

「俺は逃げてばかりのてめえとは違うんだよ。確かに俺は皇族こうぞくで、帝だ。餓鬼の頃から女御にょうごもいるし、本来なら晴明に恋慕出来る身分じゃねえ。だがな、帝の地位も権力も関係ねえんだよ。それすらも凌駕りょうがしちまう程に、俺はあいつにれてんだ」

「……帝」

「それに比べてめえはどうだ。何かにつけて自分の気持ちから逃げてばかりじゃねえか。挙句あげくの果てには他の女をめとりやがって」

「それは、いたし方なかったのです……。私と晴明は義兄弟で、ましてや晴明は女でありながら男して生きねばならぬ運命さだめにある者。私が恋慕した所で、到底とうてい幸せになぞなれはしませぬ。今まで晴明は半妖はんよう、半妖と差別され、さげすまれ、何度も辛い目に遭ってきた。ゆえに、晴明から離れようと思ったのです。……確かに帝の言う通り、貴方の方が晴明を幸せに出来るやもしれませぬな。かように浅ましい私よりかはずっと――」

「――ふざけんなよ、てめえ」

 怒気どきを含んだ声が、耳を通った。

 次の瞬間。

 強い力で腕を引かれ、押し倒された。

「ぐっ」

 胸倉を掴まれ、低いうめきが零れた。

「てめえは、晴明にとって何が一番幸せなのか考えたことあんのかよ……、てめえが……賀茂かもの保憲が傍に居ることなんじゃねえのか!」

「!」

 保憲は大きく息を呑み、目をみはった。

一方帝は、息を荒くしながらも言葉を続けた。

「大体、人を好きになるのに運命とか身分とか関係ねえだろ! 確かに晴明は今まで散々辛い想いをしたかもしれねえ……。でもよ、だからこそてめえが護ってやるべきなんじゃねえのかよ! 晴明にこれ以上涙を流させたくなかったら、その原因からてめえが護り抜けば良いじゃねえか。護り抜くことが出来ねえのなら、出来るようになるまで強くなれば良いじゃねえか! 難しいことをごちゃごちゃ考えんな! だからてめえは晴明を泣かすことしか出来ねえんだよ!」

「……護り、ぬく……」

 小さく、呟く。

 何があろうとも、晴明を、大切な人を護ること。

 それが自分の信念ではなかったか。

 そして。

 何時も隣で晴明の笑顔を見続けてゆくこと。

 それが自分の願いではなかったのか。

 晴明の泣き顔を、思い出す。

 思えば、晴明が泣く回数が増えたのは、自分が距離を取り始めてからだった。

「私は、晴明の傍に居ても良いのか……?」

 自然と、言葉が唇を割る。

 帝は赤い瞳を数回瞬しばたかせ、「違うだろ、ばーか」と毒ついた。

「居ても良いんじゃねえ。居ねえといけねえんだよ」

「……はい」

 ふっ、と小さく笑み、上を見上げる。

 数多の花弁が、白い天井を覆っていた。

『……保憲』

 ふと。

 声が聞こえた。

 強く追い求め続けた、声が。

「……せい、めい」

 かすれた声で、名を呼んだ。

 その瞬間。

 周囲の白い空間が、ばらばらにくだけ散った。

 ガラス細工が、床に落ちて割れるかのように。

 舞い落ちてゆく鋭い破片はへんの間から、手が伸ばされるのが見えた。

「保憲!」

 引き寄せられ、両腕に包まれる。

 晴明に、抱きしめられていた。

 彼女の着ている束帯そくたいはあちこちが破けており、濃い血の臭いがした。

「……晴明……」

 名を口にすると、抱きしめられる力が益々《ますます》強くなった。

「良かった……元に戻ったのだな……本当に、良かった……」

「……ああ」

 こくりと微かに頷き、微笑む。

「貴様は、私が護るよ。晴明」



二.



「……どういうことだ」

 背後から聞こえ、振り向く。

 顔を真っ青にした道満どうまんが、立ち尽くしていた。

「保憲の心の闇は、誰にも癒せぬ程深いものだった筈だ。なのに何故……」

「――確かに、私の心には闇が潜んでいたのやもしれぬ。だが、私はもう一人ではない。護りたい者がいる。強くならねばならぬ理由がある。何時までも心の闇にとらわれておる暇はないのだ。それに――」

 保憲はすうっ、と瞳を細め、道満を見据みすえた。

「私の大切な者を傷つけた貴様を、このままゆるす訳にはいかぬからな」

「下らん」

 道満は片眉を上げ、肩を揺らして笑った。

「……何」

「これだからお前さん達は、弱いのだ。お前さんの椿樹つばきという式もそうだった。死にかけていても、保憲殿保憲殿と何度もお前さんの名を呼びながら私にすがるのだ。歪んだ信愛しんあいだな。思い出すだけで吐き気がするよ」

「貴様!」

 足で土を蹴り、駆け出した。

 芦屋あしや道満の、元へ。

「待て!」

 ふいに後ろから袖を掴まれ、保憲は足を止めた。

 振り向くと、不安げな顔をした晴明と目が合った。

「……保憲」

 小さく紡がれた言葉。何時に無く弱々しいそれに、保憲は閉口した。

「もう、むちゃをするな」

 晴明はすっと瞼を伏せた。

「これ以上貴様が傷つく様を、見たくない」

 袖を掴む手に、力が籠もる。

 布越しに、晴明の身体の震えを感じた。

「――晴明」

 ぽんっ、と頭を軽く叩く。

「昔言っただろう。私が貴様を守ると。私が動かぬ壁となって守ってやる。貴様は只、黙って私の背中を見つめていろ」

「それは俺が一人前になるまでだろう。俺はもうあの頃とは違う!」

 むっと眉をひそめて言い返す晴明に、保憲は内心苦笑した。

「何を言う。私は陰陽寮おんみょうりょうでも二番目に高い位である陰陽助おんみょうのすけだ。比べて貴様は陰陽得業生おんみょうとくぎょうしょう。貴様なぞ、一人前とは程遠い」

「なっ!」

 益々眉間みけんしわを寄せる晴明に、思わず笑みがこぼれた。

 頬を両手で包み、顔を近づける。

 やわらかな感触と温もりが、唇に広がった。

「っ……!」

 慌てて抵抗する晴明の手を掴み、指先をからませる。

 同時に、口づけが深いものへと変わった。

「――私を、信じろ」

 唇を離した直後、力なくへたり込んだ晴明にささやいた。 

「もう一度言う。私が貴様を守ってやる。何も心配するな」

「……必ずだぞ」

 晴明の言葉に小さく頷き、駆け出した。

 抜刀ばっとうし、道満に向かって振り下ろす。

 鋭い金属音が、耳に響いた。

 交じわった刀身とうしんの向こうで、道満がくつくつと喉を鳴らした。

「ふん、おめでたい奴等だ。幾ら恩や忠義があるからとはいえ、所詮しょせんは他人。思慕しぼも親愛も、どれも無に等しいものだ。此方こちらがどれだけ尽くそうとも、相手の気持ちがともなわなければ意味がない。裏切られたらそれでしまいだろう。愛や信頼なぞ、理解から最も遠い感情だよ。それは、お前さんも同じじゃあないのか?」

「何が、言いたい」

「お前さんは先程鬼になった時、晴明だけでは飽き足らず、己の式まで傷付けたであろう? それは立派な裏切りというのではないのか?」

 道満が、横目である方向を見つめる。

 釣られて、視線をわせる。

 地面に倒れた群青ぐんじょうの式神が、目に映った。

「……あ、あぁ……」

 瞳の裏に、自分の手で倒された式の姿がよみがえった。

 刀身が、小刻みに震える。

 それは一つの感情によるものだった。

大切な者達を守れなかった、自分自身への激しい怒り。

「――どうした? 身体が震えておるぞ」

刹那、冷笑と共に強い力で弾き飛ばされた。

「ぐぁっ!」

保憲は背中を地面に打ちつけたが、刀で身体を支えるようにしてぐに起き上がった。

忠行ただゆきも忠行だが、息子も息子だな。式神如きで心乱すとは」

 保憲にゆっくりと歩み寄りながら道満が言った。

「私達は式を仲間として見ているのだ。貴様とは違う。……確かに私は一人では戦えぬ。仲間を信じ、共に戦わなければ大きな力を得ることは出来ぬ」

一呼吸置いて、道満を見据えた。

「……だからこそ、勝てる」

「ほう」

「私達陰陽師は皆、じゅいしずえとして方術を使う。呪とは人をしばるものだ。それは己の信念、精神、心だ。陰陽師の信念は、平安京へいあんきょうを守ることであり、仲間を信じることだ。私はそれを、かつて父上から教わった。そして――」

 保憲は後ろを振り返り、晴明を見つめた。

「想い人から学んだ」

「……保憲」

 ぼうぜん呆然と自分の名を呼ぶ少女を見て、保憲はほほゆるませた。

「だが、貴様からはそれを感じられぬ」

 道満に視線を戻し、言う。

「仲間を信じぬような者に、私が負ける筈がない」

「……はっ」

 道満の唇から、嘲笑が漏れた。

「仲間を信じる? 平安京を守る? どれもれ言だ。何故、そういい切れる。他人を信ずるという最もおろかしいことを……、何故そうも簡単に口に出来る!」

 語気が、荒くなる。漆黒しっこくの瞳の中に、激しい怒りの色がにじんでいた。

「忠行は、あ奴は、私を裏切ったのだぞ!」

 刀身を、光が包み込む。

 霊気れいきで、道満の黒衣こくいが揺れた。

「私は、もう忠行なぞに騙されぬぞ! 信じられるのは、己だけだ!」

 道満の身体が、宙におどる。

「お前も、平安京も、全てちりにしてくれる!」

「くっ」

 保憲は咄嗟とっさに刀を構えようとした。

 そして、大きく息を呑む。

 ――身体が、動かぬ……。

 何度も手足を動かそうと筋肉に力を入れるが、無駄だった。

 微塵みじんも、動かないのだ。

 彼の身体は、とうに限界を超えていた。

だがそうこうしている間にも、道満の刃が近づいてくる。

――私は此処で、負ける訳にはいかぬ。

複数の顔が、頭に浮かぶ。

忠行。

椿樹。

ひずみ

帝。

 寿朗としろう

 賀茂家に使える者達。

 ……晴明。

 ――もう、誰も失いたくない。失って良いものなど、ありはしないのだ……!

「うおおおぉぉっ!」

 たけびを上げ、刀を掴む。

 刹那、頭上に影が差した。

 振り下ろされた刀身が、目に映った。


さい!」


 鋭い声と共に、あおい光が視界に広がった。

 その光は星型の五旁印ごぼういんとなって、道満を囲うように地面に浮かび上がっている。

五つの頂点から放たれた光の筋が、彼の手足を拘束こうそうしていた。

――これは、晴明の術か。

 視線を動かすと、五旁印の一角に立っている晴明と目が合った。

 よく見ると、晴明の身体から血が流れていた。保憲が鬼となった際に付けた、傷であった。

 居た堪れなくなった保憲は、思わず駆け寄った。

「晴明! 貴様はけがを負っているのだ、あまりむちゃを――」

「ばか莫迦者。それは貴様も同じだろう。それに……、俺も貴様に守られるばかりではしゃくだからな」

 蜜色の瞳が、真っ直ぐに保憲を見上げた。

「俺だって、貴様を……大切な者を守りたい。もう二度と、傷つけたくない。その為に、手にした力だ」

「晴明……」

 晴明は道満に向き直り、冷やかに言い放った。

「終わりです、道満殿。貴方は余りにも、奪い過ぎた」

「ぐっ、何を……!」

 道満は暴れたが、拘束は解けない。むしろ、強くなっているようにも見えた。

青龍せいりゅう神子みこよ。我が身に微塵と乱れ、即座にまらべや。御力おんちからを捧げ、我に従え」

 晴明が人差し指と中指を立て、天を指す。瞼が、ゆっくりと閉じられた。

 強い霊気で、ふわりと晴明の髪が持ち上がる。

百鬼ひゃっき退しりぞけ、異形いぎょうを絶やさん。夢幻むげんのうち、転生てんせいさん。我、龍の力を持ち、じゃはら者也なり!」

 晴明の目が、大きく見開かれる。

 その双眸そうぼうには、蒼い光がともっていた。

「来たれ、龍神りゅうじん! 蒼海滅邪そうかいめつじゃ 急々如律令きゅうきゅうじょりつりょう!」

 

 おおおおおおん……。


 獣の咆哮ほうこうが、耳に響く。

 地を揺るがす程に、大きな鳴き声であった。

 地面に描かれた五旁印が、光り出す。 

 そこから巨大な蒼い龍が現れ、空中に飛び上がった。

「なっ、何だこれは」

「……平安京の守り神・四神ししんの青龍だ」

 呆然とする保憲に、晴明が説明した。

「四神だと? 貴様、何時の間にそのような力を」

 晴明は横目でちらりと保憲を見、微笑んだ。

「これでも半人前か?」

 保憲は目を瞬かせ、笑みを浮かべた。

「……ふん。まだまだだ」

 


三.



「ぐぁあああっ!」

 龍が、道満の身体をつらぬいた。

激しい痛みが、身体中を駆けめぐる。

「ごふっ!」

 大量の血が口から零れ、黒衣を濡らした。

「私は、こんなところで……死ぬわけには……っ」

 晴明に向かって手を伸ばす。

 彼女の背後で、黒い影が動いた。

「……忠行」

「道満」

 名を呼ぶと、忠行は顔を悲しげに歪めた。

 彼の栗色の瞳から一筋の涙が伝い落ちた。

「泣いて、いるのか……? せぬな、何故泣く」

 忠行は答えず、涙を流し続けた。

「私が死ぬのが悲しくて、泣いておるのか」

 何度も頷く忠行に、道満は「解せぬ」と呟いた。

「私は、お前さんに泣かれる義理はない。殺されても当然のことをしたのだぞ」

「――すまぬ」

「……何」

 忠行の一言で、思考が停止する。次の瞬間、つう……と何かが頬を伝った。

――ああ、そうか。

 地面に落ちる涙を見て、道満は瞳を閉じた。

――この一言が、欲しかったのだ。



 私が忠行をにくんでいたのは、想い人を取られたからでも、陰陽頭おんみょうのかみになりたかったからでもない。

……敬愛していた忠行に裏切られたという事実が、許せなかったのだ。

 内裏だいりを追放されてから二十余年。

 幾度いくども、忠行を憎んだ。うらんだ。殺してやりたいとさえ思った。

 だが、心の底では。

 望んでいたのだ。

 許したかったのだ。

 愛していたのだ。

 あの人を。

 限りない暗闇に一筋の光を差してくれた、あの人を。

 だからこそ、待っていた。

 貴方の謝罪を待っていたのだよ、忠行殿。



「……忠行、殿」

 忘れていた筈の、名称を呟く。

 忠行の目が、大きく揺れた。

有難ありがとう……忠行殿」

 伸ばした指先がくずれてゆく。

 薄れ行く意識の中で、道満は静かに双眸を閉じた。


 ここ三日間連続で更新してきましたが、いよいよ次回で最終章です。

 かように拙い文章でしたが、此処まで読んでいただき、有難うございました。

 最後まで楽しんでいただけると幸いです。

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