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松虫姫物語  作者: 中沢七百
第10章 未来へ歩む道
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第85話 情報共有

 大原首相は話を続ける。

「政府内にはそういった超常的な力や秘術を研究調査する機関がある。土蜘蛛(つちぐも)についてもある程度の情報を持っているから、とりあえずこの件はその機関に任せよう。

 さて。大事なことはこれから先、どのように石室山を守っていくかということだ。政府は石室山に龍の卵と呼ばれる非常に貴重な古代の遺物が埋蔵されていることは把握している。そのためA級文化保護特別区に指定して保護しているわけだが、その価値に気づいたものが、今回のように暴力的な手段を使って強引に奪いにきた。我々は二度とこのようなことが起こらないよう、対策を練る必要がある。そのために出来るかぎり、石室山と龍の卵について情報を共有しておきたいと思うのだが……。もちろんこの件に関しては、千三百年の昔から龍の卵を守ってきた千堂家の意見を無視することはできない。どうだろうか千堂芳乃さん。もし龍の卵について知っていることがあれば、この機会に話してもらうことはできないだろうか」


 するといままで腕を組み、黙って皆の話を聞いていた芳乃が顔をあげた。


「初代松虫姫、不破内親王(ふわないしんのう)に始まる北総犬養家の代々の当主は、石室山と龍の卵を命に代えても守ることを使命と心得てきた。家伝によれば龍の卵は人類の未来を救う宝であるということだが、それが物質的になにかということはわたしにはわからない。しかし最近、城築先生の協力でいくつかわかってきたこともある。そのことにいては城築先生から説明していただけるようお願いしたい」


 それを聞いて城築先生が答える。

「僕から話をするのはかまわないが、すべて話してしまっていいのだろうか」

「もちろん問題ない」


「先日の総英会病院での話し合いの内容に言及することになるが、神々廻CEOもよろしいですか?」

「はい。なにも隠すことなくお話しいただいてかまいません」


「うん。それではわたしが今現在知っている情報をお話しましょう。わたしは最近、孝一郎くんからの依頼で、龍の卵のかけらの分析を専門家に依頼しました。するとこの龍の卵の殻はロジウム、パラジウムといったレアメタルを主原料とする金属だということがわかりました。北総エナジーの調査によれば、この貴重なレアメタルの龍の卵が約4千トン、石室山の地下に埋蔵されているというのです」


「希少なレアメタルが4千トン」舟橋教授が驚きの声を上げる。「それは金額にしたらとんでもないことになりそうですね」

「そうです。まあ、レアメタルは産出量が少ないから高価なのであって、これだけの量が流通すれば価格が下がることも考えられますが、大事なことは金額よりも、これだけまとまった量のレアメタルを手に入れることは世界中どこでも不可能であるということです。しかし龍の卵の価値はそれだけではありません。驚くべきことは、この卵の殻の構造がヘキサイトシェルの構造と完全に一致している、ということなのです」


 この言葉に反応したのも舟橋教授だった。

「ヘキサイトシェル……というと、所沢総合科学大学の棚辺真沙人(たなべまさと)教授が発表したヘキサイト仮説の、あのヘキサイトシェル、ですか? たしか棚辺教授は龍の卵のかけらを分析したといわれる戦前の資料をヒントに、ヘキサイト仮説を理論的に構築して論文を発表されたのですよね」

「そうです。さすがによくご存じですね。そこまでご存知ならもう想像はつくかと思いますが、この龍の卵の中身は未発見元素126番のウンビヘキシウムを含む幻のレアメタル合金、ヘキサイトである可能性が高いのです」


 続けて城築先生がヘキサイト仮説の詳細を説明すると、円卓のメンバーから驚きの声が上がった。


「しかし……」舟橋教授が言う。「さすがにそれは簡単に信じられる話ではないですね。聞くところによると芳乃さんの千堂家は、千三百年前から石室山と龍の卵を守っていると聞いています。だとすると千三百年前、奈良時代から幻の合金ヘキサイトが、ヘキサイトシェルというレアメタル合金の殻の中に収められ、石室山に埋められていたということでしょうか?」


「そうです」城築先生が答える。「わたしの個人的な研究では、もっと昔から存在していた可能性もあります。芳乃さんの話によれば、石室山の龍の卵は分厚い岩の壁で守られているということですから、これはいつの時代か、誰かが人為的に埋蔵したものでしょう。もちろんヘキサイトやヘキサイトシェルが、地中から自然に沸いたものとは思えません。しかし現時点では、いつ誰がどこからヘキサイトを手に入れて、どうやって埋めたのかはまったく想像もつきません」


「うーん、理論的にしか存在を予想できなかったレ幻の合金、ヘキサイトが実在するとなれば、これは歴史的な大発見だ」

 身を乗り出して城築先生の話を聞いていた舟橋教授は、そう言ってふうっと息を吐いた。

 城築先生は話を続ける。


「まだ龍の卵がヘキサイトであると確定したわけでありませんが、もしそうであれば石室山の龍の卵が持つ理論上のエネルギー量は、おそらく日本だけなら何千年でも、全世界中に分配したとしても百年以上は電力を供給できるほど莫大なものなるはずです。さらに北総エナジーは、この龍の卵から得られるエネルギーは、夢のクリーンエネルギーとなり得ると断言しています。昨日創英会病院で話し合いをした時に、北総エナジーは石室山丸ごとを30兆円で買い取りたい、という提示をしました。もちろんこのとき芳乃さん側はまったく取り合わず、話はそこで終わりましたが」


 この話を初めて聞いた大原首相、舟橋教授、一条理事長は顔を見合わせて息をのんだ。


「全世界百年以上の分量の夢のクリーンエネルギー源か」大原首相が言った。「それが本当ならとんでもないことだな。これはなんとしても石室山の防衛強化と、龍の卵の分析を急ぐ必要があると思うが……。これはさすがに千堂家の同意と協力なしには進められないな。どうだろうか、千堂芳乃さん。あなたの意見をうかがいたい」


 そう言われて芳乃は静かに椅子から立ち上がった。


「その件については、先ほど石室山神社の本殿で姫神様からご宣託(せんたく)をいただいている。いまからそれを皆さんに聞いていただきたい」


 宣託って、神様からのお告げのことだよな。芳乃はいったい姫神様から何を聞いてきたのだろうか。


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