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松虫姫物語  作者: 中沢七百
第7章 龍の卵の秘密
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第64話 分析結果

「なあ、優花」

「なんですか?孝一郎さん」

「本当に何も隠していることは無いのか? このままじゃ膠着(こうちゃく)状態だ。何かあるなら洗いざらい言っちまったほうが話も進むんじゃねえのか?」


「孝一郎さんは、やっぱりまだわたしのことを信用してはもらえないのですね。わたしが孝一郎さんや千堂さんに良い印象を持たれないような行動をしてしまったことは反省しています。でも、わたしが今日、この場でお話したことはすべて本当のことです。この話し合いは日本にとっても、全世界にとっても本当に重要なんです。孝一郎さん、千堂さん、わたしたちと一緒に世界を変えましょう! 人類の未来を救うのはわたしたちです!」


「おまえ、どこのSFファンタジーヒロインだよ……」

 たしかにカッコイイけど、ちっとも話がまとまらねえじゃねえか。




 その後も神々廻優花と橘常務は交互に芳乃の説得を試みたが、芳乃の態度はあいかわらずで、話し合いはすっかり重苦しい空気のまま膠着してしまった。


「もういいだろう。これ以上は時間の無駄だ」

 芳乃が席を立とうとする。


「待ってください! 千堂さん。これは本当に日本と世界の未来に関わることなんです」

 優花は必死に引き留める。


 芳乃は優花を一瞥したが何も答えない。

 すると城築先生が芳乃に向かって声をかけた。


「芳乃さん、わたしからもお願いする。もう少しだけ待ってもらえないだろうか。実はこの話し合いが始まる前に、東京のある研究所から連絡があってね。もうすぐこちらにバイク便で荷物が届くことになっているんだ。もしかしたらその荷物が、この膠着状態を打開する鍵になるかもしれないよ」


「城築先生。その荷物っていうのは――」

 俺が話しはじめたそのとき、再び応接室のインターホンから呼び出し音が鳴った。


「ちょっと失礼」

 城築先生が立ち上がり、モニターで相手を確認してドアを開ける。そして書類ケースのような箱を受け取って戻ってきた。


「少しだけ時間をもらえるかな」

 城築先生は箱の中から書類を取り出して書かれていた文章をひととおり目で追うとこう言った。

「孝一郎くん。どうやら間に合ったようだよ」


「え? 何がですか?」

 俺は何のことかわからずたずねると、城築先生は真剣な表情で答えた。


「龍の卵の分析結果が送られてきた」


「本当ですか!?」

 俺は思わず大きな声を出した。


「龍の卵の分析結果、と言いましたか?」

 橘常務がソファから身を乗り出してたずねる。


「ええ、そうです。わたしが孝一郎くんから預かった『龍の卵のかけら』を、金属や鉱物を研究している友人の専門家チームに分析してもらったのです。彼らは今日のこの会議に間に合うよう、大人数を当てて徹夜で作業をしてくれました。そしてその結果がいま届きました」


「龍の卵の実物を……お持ちなのですか?」

「ええ。あくまでも『かけら』ですが」

 城築先生はそういうと書類ケースから小さなガラス瓶を取り出した。


「芳乃さん。これを神々廻CEOと橘常務に見せてもかまわないだろうか?」

「ああ、問題ない」

 芳乃は無表情で答えた。


 橘常務はカラス瓶を受け取り蛍光灯で透かすように観察すると隣の神々廻優花に手渡した。

「これが……本物の龍の卵……」

 優花もぎりぎりまで目を近づけてガラス瓶の中の白く輝く金属のかけらを観察している。


 俺は城築先生にたずねた。

「それで、分析結果はどうだったのですか?」

「うん、ちょっと待ってくれるかい……」

 城築先生はもう一度書類を手に取ると、重要な部分を確認するように文章を目で追った。


「まず分析した『龍の卵』の構成物質だが、ロジウム72%、パラジウム22%、残りがその他の金属数%で出来たレアメタル合金のようだ」


「ロジウムとパラジウム……それでは優花と橘常務が言っていたことは嘘ではないということですか?」

 俺がそう尋ねると城築先生は答えた。

「そういうことになるね」


 どういうことだろう? 龍の卵の正体については北総エナジーの分析と同じだった。しかし芳乃と圭吾さんは優花たちが何かを隠している、と言っている。


「まあ構成物質は北総エナジー側の予想のとおりで間違いはないのだけれど、問題はその先なんだ」


「なんですって? 構成物質のレアメタル以外に何かあるんですか?」

 俺は思わず身を乗り出して尋ねる。正面の優花と橘常務を見ると、心なしか表情から先ほどまでの余裕が消えて緊張しているように見える。


「うん。この卵の殻の形状なんだが」城築先生は説明を続けた。「分析したところ、外周50センチ弱の、ほぼ完全な球体だそうだ」

「それなら石室山の南拝殿で見たレプリカと大きさが一致しますね」


「そのとおりだね。そして問題なのはこれが『卵の殻』だということなんだよ」

「どういうことですか?」


「孝一郎くん、卵の殻というのはね、中身を守るためにあるんだよ」

「龍の卵の……殻の中身…………それっていったい?」

 城築先生は書類から目を上げると、俺に向かってこう言った。


「それはおそらく……幻の元素物質…………ヘキサイトだ」


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