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松虫姫物語  作者: 中沢七百
第6章 見えない力
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第50話 約束

 とりあえず電話に出てみろよ、と俺に促された春香はSPDを耳に当てて「うん」とか「そう」とか言っている。

 しばらく何事か話したあと、春香はSPDから耳を離し、俺と芳乃に向かって言った。


「あのね。神々廻(ししば)さんがお兄ちゃんと姫ちゃんのパーソナルコールナンバーを教えてほしい、って言ってるんだけど」

 なんだ? ずいぶんストレートに攻めてきたな。SPDは同じ学校の生徒同士なら誰であろうと検索してコールができるが、それ以外は個人のコール番号を知らないと電話をかけることはできない。


「春香。ちょっと俺に代わってもらえるか?」

「うん」

 俺は春香のSPDを受け取り、会話の内容が皆に聞こえるようにハンズフリー通話モードにした。


「孝一郎だ。電話を代わった」

「あら、富岡先輩。優花です。あ、なんだか他人行儀ですよね? 孝一郎さん、って呼んでもいいですか?」

「勝手にすればいい」

「はい、孝一郎さん。わたしのことは優花って呼んでくださいね」

「…………」

「あれ? なんだかご機嫌斜めですか?」


 くそっ。いろいろ言いたいことはあるが、ここで食ってかかれば、またこいつのペースに引き込まれちまう。ここは落ちついて対処するしかない。


「えーっと、突然電話してすみません。ところで孝一郎さん、日曜日の会社発表は見てもらえましたか?」

「ああ、もちろんだ。あれだけの騒ぎになれば見たくなくても目に入るさ」


「そう、よかった。それじゃあ、わたしの言っていたことを信じてもらえましたね。わたし、孝一郎さんと千堂さんのプライベートコール番号を教えていただこうと思って春香さんのところへ電話をしたのですけれど」

「芳乃はともかく、俺の番号はいまさら必要ないだろう?」


「そんなことはないですよ。孝一郎さんは日本で初めてできたボーイフレンドですから」

 何をふざけたことを……。俺は怒りを押さえて、できるだけ落ちついた声で言い返す。

「悪いが俺はおまえと友達になったつもりはないよ」


「そんな……孝一郎さんには素敵なお花をいただきましたし、わたしのキスも受けてくださったじゃないですか」

 母さんがわざとらしく驚いた表情を作る。春香は怖い顔でこっちをにらんでいる。


「あの花は道端の雑草だ。キスだっておまえが一方的に――」

「あの、正直な話、SPDのコール番号くらいなら調べようと思えば簡単に調べられるのですけれど、できればそういった方法は使いたくないものですから……」

 つまり北総神々廻(ほくそうししば)グループの力を甘く見るな、と言いたいのか。


「だいたい超大企業のトップが芳乃になんの用があるって言うんだ?」

「それはとても重要なことですから、こんな旧式のセキュリティーの甘い通信機器ではお話しできないんです。だれが盗聴してるかわかりませんから」

 俺に盗聴器を持たせた犯人が何を言ってやがる、と言いたいところだが言葉を呑んで我慢する。ここで怒ったら相手のペースに嵌るだけだ。


「そうか。しかし芳乃のコール番号は教えられない。はっきり言っておくが、俺はおまえを信用していない。番号を調べられるというのなら勝手にすればいい」

「そうですか……それは残念です。でもわたしはどうしても千堂さんとお話しをしなければならないんです。孝一郎さんも立会いでかまいませんから、お話の場をセッティングしていただけませんか?」


「それも断る」

「孝一郎さん。もしわたしを千堂さんに会わせなくても、もうすぐ世界中のいろいろな企業や組織が、千堂さんにコンタクトしてきますよ? 中には強引な手段に出る危険な組織があるかもしれません」


「なんだよそれ。脅してるつもりか? だいたい何で芳乃が危険な組織から狙われなくちゃいけないんだ?」

「ですから、詳しいことは実際に会ってからお話します。わたしは千堂さんと、まずはお話がしたいだけです。決して彼女に不快な思いをさせたり、傷つけたりするようなことはありません。話を聞くだけなら千堂さんにとっても、孝一郎さんにとっても、損になることではありません。もしかすると事態はわたしが思っている以上に逼迫(ひっぱく)しているかもしれないんです」


「おまえが何と言おうと――」

 そのとき、食卓の椅子に座って話しを聞いていた芳乃が口を開いた。


「孝一郎、わたしが話をしてもいいか?」

「芳乃……大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ」

 そう言うと芳乃は立ち上がり春香のSPDの前に立った。


「電話を代わった。千堂芳乃だ」

「あら! 千堂さんですか? よかった! やっとお話しができますね」


「うむ。孝一郎との会話はすべて聞いていた。会って話しをしよう」

 芳乃は落ちついた声で言った。俺と春香と母さんは顔を見合わせた。


「本当ですか?!」神々廻優花も驚いたようだ。

「ああ、本当だ。約束する」


「ありがとう、千堂さん。それでは早速ですけれど、場所と――」

「場所と時間はこちらで決めて、あとで孝一郎に連絡させる。コール番号も教えよう。それでいいか?」


「ええ、もちろん。でも、できれば場所は石室山神社がいいわ。一度石室山を自分の目で見てみたいし」

大神(オオカミ)に喰われてもいいなら石室山でもかまわないが」


「あはは……冗談がきついですね、千堂さん。 ……わかりました。場所はお任せします。でも、できるだけセキュリティのしっかりした場所でお願いしますね。適当な場所が無ければ北総エナジー本社でもいいですよ。日時もすべての予定に優先させますからご自由に。でもなるべく早めにお願いしますね」


「わかった。決まったら連絡する。わたしと孝一郎のコール番号はこのあと春香から連絡させよう」

「はい。それでは連絡をお待ちしています」


 神々廻優花との電話での会話は終わった。




「良かったのか? 芳乃。あんな約束して」

 俺は心配になって芳乃に聞いた。


「ああ。この先ずっと避け続けるわけにもいかないだろう。一度くらいは話しを聞かないと、相手の狙いもわからない」

「そうか……。でもなんか不気味だな。早くしないと危険な組織がどうとか言ってたけど……あれはさすがにただのコケ脅しだよな」


「いや、そんな無意味なことをするような人間ではないだろう」

「だとすると芳乃が世界中から狙われるわけって何だよ? 神々廻優花の本当の狙いって何なんだ?」


「神々廻は石室山を自分の目で見たい、と言っていたな。盗聴器の件といい、よほど石室山が気になるらしい」

「石室山? ってことは……」


「うむ。おそらく神々廻優花が狙っているものは…………龍の卵だろう」


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