3話
そこに一人の少年が倒れている。
いや、死にかけている。
その体はやせ細り、古傷で埋め尽くされている。
黒い髪と黒い瞳をもっている――日本人だ。
異世界に日本人がいるならその答えは異世界召喚しかない。
その少年――三枝高城は体よりもその心の方が死にかけている。
と、どこからともなく鈴の音が聞こえる。
瞳に生きる意志を有していない高城は機械的につぶやく。
「ジングルベル?」
「HoHooHoHoHo!! サンタがよい子にプレゼントを持ってきたよぉ」
高城の前にトナカイがソリに赤い服を着た恰幅のいい老人を乗せてきた。
科学的知識に対して造詣が深い読者諸兄ならばこう思ったはずだ。
音速超過しているのにジングルベルが聞こえてからサンタが来るのはおかしい。
なるほど確かにそうだろう。
しかしその答えはごくごく単純である。
サンタパワーである。
なぜならサンタはジングルベルをまとって訪れる者である(ONNOFF可能)。
音より早くよい子のもとにジングルベルを届けることは無意識化で行われる。
「ふむ、しかしよい子は死にかけているなぁ」
少し、ほんの少しだけ悲しそうな顔をサンタはする。
しかしそのかすかしか見えない悲しさは海よりも深い悲しみであることが見て取れる。
「僕はよい子なんかじゃない、勇者だとか担ぎ上げられてたくさんたくさん殺した、そして殺しすぎて捨てられた、もう生きている価値なんて……」
サンタはプレゼントを贈る者だ。
だが贈れないものもいくつかある。
有名なもので言えばおねえちゃんやおにいちゃんなどである。
サンタは早いが光速を超えて過去にさかのぼりよい子を産む前にもう一人なんとかすることはさすがにできない。
というか出来婚だった場合、パパンが鬼畜になるのでヤバい。
ともかく贈ることができないもう一つの物は命だ。
御馳走を出すことはできる、薬も出すことはできる。
しかし本人に生きる意志がなければ意味がない。
「HoooHoHoHo!! いいや、君はよい子だとも他人を傷つけたことを深く後悔するくらいね」
「……」
無感情な瞳でサンタを見つめる高城。
豊かなひげで隠れたその口の端が笑みを浮かべる。
「ならばよい子に生きる目的をプレゼントだ」
袋から輝く光の玉が取り出される。
それを高城の手に握らせる。
「……これは?」
「HoHoHoHo!! サンタソウルだよ、よい子よ」
「は?」
高城は疑問を投げかけるが手に持たされたサンタソウルは鼓動を打つように明滅を繰り返す。
「あぁ、なんて温かい」
と、サンタソウルが高城の胸に吸い込まれて消える。
「HooHoooHoooo!! 新たなサンタの誕生じゃ」
「な!?」
同時に赤い服を着た老人は足から風に溶けるように消えていく。
サンタとは世界にただ一人しか存在できない。
ならば古いサンタは消えるのは自明の理である。
「よろしく頼むぞ、新しいサンタよ」
そして古いサンタは空へと飛びあがり。
「メリィィィクリスマス!!」
空高く、星空にて散華した。
一時間後にお願します。




