表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歯車と人外の近未来図  作者: 依馬 亜連
第五章 マフィアと悪魔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/47

第三十二話 伊達男

 スーツの胸ポケットから銃を取り出す男の仕草は、実に自然だった。先ほど、ハンカチを取り出したのと同じような気取らなさである。

 それに反応し、彼の腕をねじ掴んだ己の本能を、今一度褒めてやろうと思う。

 ビーストの骨をも断ち切る腕に掴まれているというのに、男は拳銃を手放さなかった。

 代わりに顔からは、脂汗が吹き出ている。

「実にいい動きだね、お嬢さん。まさか気付かれるとは思わなかったよ」

「この血は?」

 目で、床にちらばる赤い染みを示す。

「さあ、誰かが鼻血でも流したんじゃないかな?」

「シャツの袖口にも付いていますが」

 掴んだ腕を捻り、男の派手なシャツにしみ込んだ赤黒いものを見せつける。

 オゥイ!と、男は叫んだ。イタリア語か、何かだろうが。

「参ったな、このシャツはお気に入りだったのに……ところで美しいお嬢さん、あなたもただの迷子ではないようだね?」

 みしみしと腕を拘束されているのに、こちらへウィンクをかましてくる。間違いない、彼はイタリアの伊達男だ。


 私の偏見交じりの見解により、彼をイタリア人=マフィア関係者と判断した。

 息を吸って、尋問する。ついでに、拳銃ももぎ取った。

「私はプランシー社に所属する、宿毛という者です。あなた達が連れて行ったビーストのメフィスト君の身柄を保護すべく、今回こちらへ忍び込みました」

「あれ、アイツって今はモンペリエの物だったんじゃ?」

「現在、訳あって私が保護者になっています」

「ほー。こんなゴージャスでセクシーな保護者なら、オレも保護してもらいたいもんだ」

 軽口の絶えない男だ。

「なんだか、愉快な人ですね」

 能天気な感想を呟いたサキムニをにらみ、男の腕から奪い取った拳銃を押し付ける。そしてもう一度、男をにらんだ。

「ナンパは結構ですから、さっさとメフィストの居場所を教えなさい。ざっくばらんに申し上げれば、あなた達のその他の悪事に、私は何の関心もありません。あの子さえ無事に引き渡していただければ、大人しく退散します」

 自由な腕で、男は顎を撫でた。

「そう、だな……美人の頼みだ。あんたにあいつを返すかは、俺の一存じゃ決められないが。でも、会わせるぐらいなら構わないよ」

 ほっと息を吐いた私へ、その代わり、と男が付け加える。

「お嬢さんの名前、ファーストネームを教えてよ。オレも教えるからさ」

「あなたの名前には、興味ないですが」

「オレはエリオ」


 私の言葉を遮るように宣誓された名前に、サキムニが飛びあがる。

「エリオ? ひょっとして、エリオ・ダメリーニさんですか!」

「何なのサキ、その頭悪そうな名字の男は?」

「彼岸市支部の、ボスの名前ですよ!」

 思わず私も、驚きの声を上げそうになる。

 私たちの反応が心地よかったらしく、エリオは満足げだ。

「いいね、ウサギ君。物知りじゃないか。ところで、このお姉さんの名前を教えてもらえるかい?」

「あ、光先輩ですよ。……いてっ」

「なに普通に、マフィアに個人情報さらしてんの」

 口の軽いサキムニを、再度小突いた。今なら少しだけ、いつも不機嫌な青柳の気持ちが分かる。

「あんたはもう帰りなさい。ここからはお役御免でしょうし」

「でも……」

 不満と不安を漂わせる童顔に、小さく笑いかけてやる。

「心配しなくても、フェミニストのイタリア人は女に酷いことしないよ。そうでしょ?」

 横目にエリオを見れば、軽く肩をすくめるだけだった。


 なので更に、腕へ力を込める。

「それにいざとなれば、こいつの両手両足を折って、人質にでもしてやる」

「わわ、それは止めてくれ! 動けないんじゃ、ベッドの中で困っちまう!」

 痛みで青白くなった顔を振り、

「分かった、光ちゃんの案内はきちんとする!」

と叫んだので、サキムニも渋々うなずいた。

「でも先輩、無茶したり、あんまり手足折らないで下さいね」

「信用ないなぁ。私、そんなに折ってる?」

「はい、すごく折ってます」

 ぶしつけな言葉を最後に、サキムニは空間を飛び越えた。

 瞬く間に消えた彼に、エリオは口笛を吹く。

「すごいな、あのウサギ君! エスパー魔美みたいだな!」

 古い漫画を知っているなと思いつつ、ポーチに入れていた手錠を取り出し、エリオの腕にはめた。手錠もモンペリエの塔からの、レンタル品である。

「あれ? フェミニストなオレを信用してくれるんじゃなかったの?」

「方便に決まっているでしょう。後ろ手に拘束しなかっただけ、優しいと思いなさい」

「日本人は、本当にお世辞や建前が好きだね」

 武器を奪われ、腕を拘束されているのに飄々とした態度を崩さない。やはり食えない男だと思う。メフィストやエウリノームといい、彼といい、マンフロア・ファミリーの構成員は皆、こうもふてぶてしいのだろうか。

 思案しつつアミィへ手短に、状況を伝える。

 音楽堂の外で待機しているらしく、すぐにサキムニと合流するとの返答があった。

「それじゃあ光ちゃん、ご案内しましょう。腕が塞がっているので、エスコートは勘弁してくれよ」

 気障ったらしくウィンクする彼の尻を蹴り、先行をうながした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ