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第わ輪 繰り返される悲劇

ようこそ、極上の竹輪ホラーを読みにきてくださり、誠にありがとうございます!!

 竹密の瞳が、見たことのない色に揺れた。

覗き込んだ竹輪の「穴」の向こう側に、マンションのキッチンの壁や床は存在しない。

そこにあったのは、どこまでも深く、光を吸い込む漆黒の螺旋。 


「……あ……」


口から漏れたのは、悲嘆か、あるいは絶望か。

その螺旋は、ゆっくりと回転し、竹密の脳裏に直接焼き付けるかのように蠢く。


それは、弥生時代から続く1700年もの間、丸輪グループが「完璧な密度」という名の鎖で隠蔽し続けてきた、この世界の絶望そのもの。


かつて先人たちが「虚空」と呼んだモノ。


竹密の背後で、閉め切ったはずのカーテンが、突如として激しく揺れた。

室内を漂う澱みのような黒い霧、まるで穴の向こう側から漏れ出してきたかのように、耐え難いほど、部屋は冷え込み始めた。


「これが……虚空か」


彼は手の中の竹輪を掴んで離さなかった。

貫かれた鉄棒を置き、竹輪の「穴」の「虚空」を再度覗き込もうとした瞬間だった。


ーー玄関の扉がノックされた。

先程まで竹密が"尾行されていないか"と怯えていた場所からだ。


一定のリズムで紡がれるノック音、それはマンションの住人が鳴らす音ではない。

マンションの住人であれば、インターフォンを押して来るはずだ。


「竹密様、いらっしゃいますか?」


聞こえてきたのは、聞き覚えのない声。

突然聞こえ、驚嘆に暮れたのか、脳が"逃げろ"と揶揄しているかの如く、全身からあり得ないほどの汗が噴き出した。


「……隠しても無駄ですよ。貴方がそこに"(あな)"を開けたことは、既に全ての密度に伝わっています」


竹密は確信した。

自分が壊したのは竹輪ではない。この国を覆う"完璧な現実"という概念そのものだった。



ーー時は戻り、裁判所。

「貴殿、丸輪竹密の判決を言い渡す!」

裁判長が高らかに叫ぶ。

「貴殿は国家の完全なる密度に叛く、反逆罪として死罪とする!」

竹密は拳を強く握り締める。指の爪が手のひらに食い込むほどの強い力で。


周囲からはガッツポーズをする人々の嬉々とした声音や、笑い声が響いた。

観覧席のスーツ姿の男達は抱き合い、喜びを分かち合っているようだった。


「ーーこんなの間違っているッ!」

竹密は強く握り締めた拳で机を殴りつけ、断末魔とも言えるような酷い声音で怒鳴る。


「あの虚空を、あなた方国家が説明すべきだ!そうじゃなければ、次に私と同じことをしようとした者が、アレの存在に気がついた時ーー」

早口で淡々と伝えたいことを叫んでいた竹密の口が次の瞬間に開かれることはなかった。


「……これ以上、完璧な密度を冒涜するなッ! この大馬鹿野郎がッ!」

セキュリティが常備している刀で首を斬り落とされ、竹密は無惨にもこの世を去った。


竹密の首が床に転がり、鮮血が飛沫となって飛び散った。

しかし、誰一人として興味はなかった。

会場を埋め尽くす観衆は、完璧な密度による、完璧な秩序が守られたことに歓喜し、先程遮られた拍手を送り合う。


青色の作業服を身に纏った清掃員が手際よく現れ、竹密の遺体を特殊な機械へと運び込む。

それはまるで竹輪を成形する工程のように、彼の身体をあっという間に完璧な密度のある個体へと再構成し、記録から抹消した。



ーーそれから、10年後。

世界は誉に満ちた完璧な密度によって支配され、平和を極めていた。

丸輪グループは今日も、隙間のない、崩れることのない完璧な竹輪を全国の食卓へ届け続けている。



 ある学校の給食の時間。

一人の生徒が、配膳された完璧な密度の竹輪を眺めていた。


彼の小さな脳の中には記憶すら存在しない。

かつて890代目と呼ばれ、竹輪に穴を空けたことで処刑された男のことも、竹輪の"穴"が生み出す「虚空」の存在も。



だが、少年の指先は、無意識に竹輪の中心へと伸びていく。

少年の指が、抵抗なく竹輪の中心を突き抜けた。少年の好奇心が世界を揺るがす「虚空」を産む。それはあの日、竹密が残した最期の言葉に相違ない。



反対側から覗く、クラスメートの歪んだ顔。

少年は、その穴の向こう側を見た。

かつて竹密が見た、あの漆黒に蠢く螺旋。

微かな紫色の光が少年の瞳を照らす。

少年は静かに微笑んだ。

完璧で密度のある世界は、竹密が懸念していたたった一つの「穴」によって、静かに崩壊へのカウントダウンを始めたのだった。


こちらでこの物語は完結です。

極上のホラー体験、楽しめたでしょうか?


これで貴方は竹輪を手に取った時、その穴を覗き、「虚空」の存在に気がつくことになる。

そうなった時、私は一切の責任を負いかねますので、覚悟をお決めになってくださいませ。

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― 新着の感想 ―
ちくわの孔を覗く時、ちくわもまたこちらを覗いているのだ―― まさかの三部作ホラー!!! ドキドキしながら読ませていただきました! ご参加ありがとうございます!
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