第ち輪 完璧な密度
ようこそ、極上の竹輪ホラーを読みにきてくださり、誠にありがとうございます!!
日本という国は他国から敬愛される美しき国、古くからそう言い伝えられ、これまでも、これからもその美しい"密度"の上に国が成り立つ。
「これは第15代総理大臣、丸輪竹之進様のお言葉です。大手竹輪メーカーの御曹司である貴方がそれを愚弄するとは……裁判長、直ちに死刑を!!」
"死刑、死刑!"と凄惨なコールが広がる最高裁判所の壇上へ四角い手錠かけられた青年は俯き、視線を落とす。
公平な場であるはずの裁判所は大荒れし、収集がつかない状況へ陥っていた。
「静粛に静粛に!!」
木槌で場を収め、裁判長は浅く溜息をこぼす。
「それでは、判決を言い渡すーー」
周囲は静寂に包まれ、青年は固唾を飲んだ。
赤い絨毯が敷かれた豪華な西洋の作りの部屋の扉にノック音が響いた。
青年は、いそいそと部屋へ入り、社長の机の前で姿勢を正し、口を開く。
「お呼びでしょうか、父上」
皺一つない美しい紺色のスーツ姿の青年は、黒い和服の老人に90度の美しいお辞儀を行なった。
「ああ、よく来たな。竹密よ」
老人は嬉しそうに笑い、話を続ける。
「丸輪グループも今年で創業1700年を迎える。儂も第889代社長として、出来る限りのことを尽くしてきた。この会社の経営理念は何だ?」
竹密はこの誉高き経営理念を一度として忘れたことはない。悦びに満ち溢れた声音で堂々と言い放つ。
「この世は完璧な密度を求む。密度は真実、空虚は罪。我らは完全なる密度を創造し、隙間のない明日を迎える」
父は喝采の如く拍手で竹密を祝福した。
「そうだ、そろそろ頃合いかと思ってな。儂も先は長くない」
その言葉に竹密の背筋が伸びる。
数ヶ月前に足と腰の調子が悪いと言っていた父の様子から察して、覚悟はしていた。
「この大手竹輪製造メーカー、丸輪グループの第890代社長としてやってくれるか?」
竹密は涙を目に浮かべ、少し腰を折り曲げて、弱々しい声音を吐いた。
「……はい。誠にありがとうございます! この竹密、平和な世を完璧な密度と共に築き上げていくことを誓います!!」
深々と頭を下げ、社長に敬意を払った。
ーーその半年後、父は他界した。
最後の言葉は「これからも完全なる密度で、世界を導け!竹密!」であった。
その言葉はまだ竹密の胸に残り続けている。
それからの竹密は御曹司として父を支えてきた経験を生かし、三社ある大手竹輪製造メーカーの国内シェア率を80%に占めるなどの偉業を成し得た。
「社長、丸輪の時代が来ています。亡き前社長も天国でお喜びになっていることでしょう!」
「シェアを100%にするのが私の今年の目標だ。まだ前社長はお喜びになっていない!! 完璧な密度を、まだだ!」
竹密は拳を強く握り締め、社長室を出ようと扉に手を掛ける。
「どちらへ向かわれるので? 今から、幹部会のはずです」
「すまない。少し出てくる、実家の倉庫に、竹輪に関する文献がまだ何か眠ってるかもしれん!」
秘書はやれやれと首を振り、次の瞬間には深々とお辞儀をした。
「かしこまりました、私が代役を務めましょう。竹密社長は言い出したら止まりませんからね」
「ありがとう、それでは行ってくる」
そう言って、竹密は車に乗り、実家へと向かった。
木々生い茂る東京都の外れに"丸輪"と表札のある大きな屋敷が鎮座している。
近くの道に車を止め、屋敷の扉を開き、中に入った。
「お帰りなさいませ。竹密様、今日はどんなご用件でこちらまで?」
屋敷内には執事兼管理人の竹山が黒いスーツを身に纏い、綺麗な所作で浅く礼をし、竹密へ口を開く。
「少し倉庫に用があってね。屋敷は変わりないかな?」
「はい。命じられている通り、仕事は筒がなく」
「そうか、ありがとう。私は倉庫に籠るよ」
「後で伺いますゆえ」
竹密は首を縦に振り、倉庫へ向かう。
丸輪家の倉庫は一軒家程の大きさがある巨大なもので、竹輪を作るために使っていたという道具や、古い文献などが多く存在している。
「……やはり、たいした収穫はないか」
何度となく探してきた場所だけに、自分が今欲しいものは見つかりそうもない。
「はぁ……疲れたな」
竹密は壁に手を置き、体重を預ける。
ーーその時だった。
安心して身体を任せていた壁が崩れ、中に巨大な木製の箱が現れた。箱には大きく太い鎖が締め付けられ、南京錠が掛けられている。
そして、箱の至る所には"開けるな、開ければ禍が起こるであろう"という黒文字が書き殴られていた。
「……ッ!! びっくりした……なんだこれは……」
煤の匂いが鼻腔をつく。
埃まみれの鎖に手をかけ、南京錠に触れた。
どうやらかなり昔の鍵らしく、運良く鎖も千切れかかっていた。
「開けるなと言われれば、人間は誰でも開けたくなるな……」
鎖を取り外し、木箱の蓋を勢いよく開けた。
ーーそこには1冊の文献がこじんまりとあるだけであった。
「竹輪解体新書」と書かれた文献は、竹密の好奇心を引くトリガーとしてはあまりにも魅力的であった。




